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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
7章 マニー,マニー,マニー
147/255

7-13話 それぞれの収穫


「やってるようだな……それで、何か有益な情報は吸い出せたのか?」


「ハァハァ……オイレか、ああちょっとこいつと仲良くお喋りしたら、打ち解けてな……盛り上がったまった」


 フォガストのレストランに訪れると、ラーダンの拉致した金庫番が惨い姿となっており、フォガストは先ほどまで拷問をしていたとは思えない貴族のように丁寧な仕草で布で返り血を拭いていたところだった。


「あそこから、金庫番、警備の長、コンシェルジュの重役を攫うとは想像以上だ。女みたいにワンワン泣いて喋りやがる。

 人員の教育は大したことがないようだと分かった」


「ぐああああッ!?」


 そう言いながら、フォガストは全裸にされ椅子に縛りつけられていた金庫番の男の太ももにナイフを突き刺した。


 人は全裸にされると抵抗する気力が弱まる。心理的優位を取れ、逃走の難易度も上がる。これは拷問における基本知識。


 アウルムとシルバにとっては想定内。ヤクザ者に餌を与えるとはつもり、こういうこと。


 しかし、だからと言って罪悪感などは覚えない。所詮は犯罪者の1人。拷問されようが知ったことではない。


「そいつが喋ったことがそのまま真実だとは思えんがな」


 拷問、それは一般的にイメージされるよりも高度な技、経験が必要とされるものである。


 拷問する側は真実を引き出したと錯覚し、その実、自身が望む答えを拷問される側から無理やり引き出してしまい、誤った答えを得る。


 これはよくある話であり、罪をでっち上げる為の自白を促すには効果的と言えるかも知れないが、情報が必要である場合は慎重に行う必要がある。


 現に、米上院情報特別委員会はCIAの強化尋問と呼ばれる拷問に効果がないと否定しており、その拷問による情報からテロの捜査が行き詰まった例もある。


 故にアウルムは恐怖を覚えさせる為に苦痛を与えることがあっても、質問をしながらの拷問は行わない。


 酷いことをした相手に優しくする、飴と鞭、良い警官と悪い警官の典型的な緩急による対話。あくまでも拷問ではなく面談という形。


 もっとも、これは相手により対応を変える。時には幻術で女から質問させることもある。


 つまり、拷問に絶対的な答えなど存在せず、拷問すらしないこともある。真実を引き出す方法は痛みだけではないのだ。


「……こいつは5分足らずで死ぬが、良いのか?」


「なあに、拷問は俺様の得意技だ。どれくらい痛めつけて死ぬかくらい目を閉じてても分かるんだよ」


「普通の身体、ならばな。こいつは内臓逆位だ、刺す場所を間違えて致命傷になっている。人体の知識は私の方が詳しいようだ」


「内臓逆位だぁ? ああ、稀に内臓の位置が左右反対になってるあれか……そんなもん分かる訳がねえ! 自分の身体の不運を呪うんだな」


「カズア、治せ。まだ死なれては困る」


「……了解」


 拷問には、睡眠、食事、水分、体温、身体の部位など奪うものが多くある。


 フォガストの拷問はオーソドックスな痛み、身体部位を奪うことによる苦痛と恐怖を与えるもの。


 しかし、まるで出鱈目な拷問に思えたアウルムはこの金庫番から得られた情報が正しいのかどうか、怪しくなってきたなと感じた。


 だが、簡単にペラペラと喋る、泣くという事実から得られるものもある。


 KTに対して組織の人間の忠誠心の低さだ。


 情報を漏らすことによる報復、見せしめ、そういった恐怖に囚われていないからこそ、フォガスト相手に喋った。


 フォガストの言う通り、『教育』が足りていない。


 それはKTという存在のあり方、考え方、行動をプロファイリングするのに重要な要素。


(やはり、代替可能なパーツとしてしか見ていないのか。個人の帰属意識を重要視していない。システムとして組織を運用しているか……となると、KT自身は支配欲などによる行動ではない。でなければ、自分の思い通りにもっと教育を行い自分の好みを出すはずだ。

 組織を運営することで何らかの利益が得られ、都合が良くてオーティスを乗っ取ったと考えるべきか……何がしたいんだこいつは……思想は無秩序的な要素が見えるのに、用意周到さには秩序さが感じられる、複合型か……)


「客が来た」


 血まみれの金庫番の治療を終え、窓から外を眺めていたカズアことシルバが、アウルムとフォガストにどうする? と問う。


「来客の予定があったとは聞いていないが?」


「うちは会員制だ」


 勿論、客とは単に食事に来た客のことではない。


 オーティスのメンバーが攫われた仲間を奪還に来た。


 そして、これは計画の続きに過ぎず、予期せぬトラブルでもなんでもない。


 痛そうなところを突き回して動きを見る。そして何らかのアクションを起こす起点となる人物はまたもやラーダンとミアに監視され、龍の眼からは逃げられない。


「では失礼するとしよう」


「おいっ! 待ちやがれ! 立ち去るのは勝手だが手駒を減らされて困るのはお前らの方だって分かってんのか!」


「素直に助けてくれと頼め……何様のつもりだ」


 シルバは低い声を出しながら剣をフォガストの首に当てる。


「分かった分かった! 助けてくれ!」


 手をヒラヒラと振りながらワザとらしい演技をするフォガストを睨んだまま剣を下ろした。


「……裏口と偵察は任せる」


 シルバはアウルムにアイコンタクトして階段を降りていき、正面玄関から侵入しようとする者を迎え撃つ体制に入った。


「ったく! 番犬の面倒はちゃんとみやがれ……」


「調子に乗るなよ、フォガスト? 協力関係にあるだけでお前は私の雇い主ではない」


「承知している、だがこそこそ寝込みを襲うだけじゃなくてKTを倒せるだけの武力もあると分からねえとこっちもやる気ってもんが出ないだろ? ん? 勝てない勝負はしたくないからなあ」


「ならば逆らうのも馬鹿らしいと思えるほどの結果をそこで待ってろ」


「さあ、協力者の実力とやらを見物させてもらおうか……」


 フォガストはグラスに酒を入れようとして、硬直する。グラスの中には、入れた記憶のない丸い氷が入っていたからだ。


 これはシルバに剣を突きつけられていた時にアウルムが生成したものである。


「お前の行動は読まれている、裏切ろうとしたらすぐに分かるぞ」


「この酒はロックで飲む方が美味いからな、助かる」


「ふん、調子の良い奴だ……」


 フォガストが一瞬、目を離した隙にアウルムの姿は消えていた。


「ハッ! 突然現れたり消えたり驚かせやがって、テメェら道化師と一緒にパフォーマンスした方が向いてるぜ……」


 ***


「へへっ……こんなチップ、カジノが壊れちまうだろ……普通……!」


 溢れんばかりの大量のチップ、いや既に抱えるには多過ぎる量のチップは地面に溢れ落ち、さながら通った道にパン屑を落とすヘンゼルとグレーテルのようにオオツキの移動ルートが分かるほどのチップを誰も拾う者がいない。


 ここは金持ちしかいない街、バスベガ。他人が大勝ちしようが目の色を変えてチップの数枚を拾うような真似をするほど金には困っていない。


「お客様、お話が」


「あ? ああ……換金だろ? わぁーってるって! いきなりそんな額出すの無理だから待ってくれ〜って相談だよなあ? いいぜ、いいぜ、いつまでも待ってるからよぉ!」


「お客様には不正の疑いがあります」


 黒服に囲まれたオオツキには予期せぬ話だった。


「イカサマ……この俺がか……!? い、いやっ……ちょっ……おかしいだろうが……! あんのか……! 証拠が……!?」


「ですから、ご自身の潔白を証明する為にも同行お願いします」


「な、なら……勝負しろッ……! この俺と……! 俺がイカサマしてる証拠がなんら見つからなかったら今回俺が得た金の倍……2倍の額、キッチリ耳を揃えて用意してもらう……! 勝手に疑って「すみませんでした」で通るか……!」


「いえ、承服しかねます。まずこちらに何の得もない提案ですので」


「馬鹿っ……! その理屈ならねえだろ……! 得が……! 俺にも……! ズルなしで勝ってんだよ……!」


 オオツキは怒りのあまり、持っていたチップを地面に全て落として黒服の男の1人に詰め寄り、胸ぐらを掴んだ。


 勢いで掴んだはいいものの、オオツキの内心は穏やかなものではなかった。


(で……どーすんだよこっから……! 殴り合い? 馬鹿な! 勝てる訳がねえ……! どうみても俺よりもガタイが良い奴らばっかり! 無理! 今すぐダッシュで逃げるか……!?

 あ〜もう……! 久しぶりに大勝ちしたと思ったらコレだよ……嫌になるっての! 俺のユニーク・スキル……!)


 オオツキ・ユキト、漢字で書くと大槻幸人となるこの男は自身のユニーク・スキルをコントロール出来ないタイプの自動発動型の勇者である。


 ユニーク・スキル、『逆境無頼』は自身がピンチに陥ると発動し、通常あり得ないような幸運が重なりピンチを回避することが出来る。

 しかし、ピンチを乗り越えたと思ったら生来の運の無さが悪い方向に働き、必ずトラブルが発生する。


 結果として帳尻が取れる。というオオツキ自身が持て余す能力である。


 ギャンブル中毒の父親と同じく、異世界に来てギャンブラーとしての血が目覚め、働きもせずギャンブルによる泡銭でその日暮らしのようなことをする放蕩者。


 しかし、この男、危険な異世界に突如召喚され、一切の戦闘能力なしに魔王との戦争を五体満足で生き延びているという事実がある。


 何度も死にかけたが、結果的になんとかなってしまい、真面目に生活している者では味わえないような贅沢や体験をほんの束の間でも味わえているという、常人では到底耐えられないような生き方を平気でしている異常な存在として、一部の勇者の者たちにも知られている。


 もっとも、近くにいるだけでトラブルが発生するので関わろうとする者はいない。助かるのはオオツキ1人だけ、ユニーク・スキルはオオツキだけを助けるのだから。


 そしてオオツキは強制的に両サイドから持ち上げられ、ロズウェル事件の宇宙人のような格好でホテルの裏口に連行される。


「お前……シラきったら済むと思ってんのか?」


「な、殴らなくていいだろ……!」


「客の前だからって胸ぐら掴んでた威勢はどこにいったんだよ? ああ?」


「チッ……ゴロツキみてえな喋り方しやがって……やってねえことは証明出来ねえだろうが……! 悪魔の証明ってんだよ……! やった証拠がないなら出せよ……金……!」


「ああ、手ならいくらでも出してやるよぉっ!」


「ッ! …………? あ、あれ……?」


 黒服の1人が拳を振りかぶり、オオツキはビクッとしながら身体を丸めて守りの体制に入った。しかし痛みが襲ってこない。


 恐る恐る目を開けて状況の把握に努めようとすると、そこにいたはずの黒服が全員死んでいた。


「ど、どーなってやがるんだ……俺の力……目覚めたのか……」


 オオツキは自分の手のひらを見つめて、まさかこれは俺がやったのかと、まだ知らぬ力への恐怖を感じていた。


 闇の中に紛れるミアとラーダンが笑いを堪えているとも知らずに至極真剣な顔つきをして……。


 ***


「終わったぞ」


「早かったな、もう一杯はいけるかと思ったが……」


 グラスの氷を指でかき混ぜながら、足を組み偉そうに座るフォガストが血塗れになったアウルムとシルバを待っていた。


「あいつらは好きにしろ。例の調べ物の成果は?」


「カメリアか……何故あの女にこだわる? 俺様たちの狙いはKTだろうが、あの自分のことを女王か何かと勘違いしてる娼婦なんぞ、放っておけば良いものを」


「娼婦である前に勇者だ。勇者同士、裏で結託していようものなら邪魔になる可能性がある。

 不測の事態を避ける為にも、確実にKTを殺す為にも、あらゆる角度からの情報が必要だ……それで、私が注文していたものは?」


「こいつだ」


 フォガストはタンスの引き出しから紙の束を掴み、バサっと音を立てて乱暴に机に投げた。

 それをアウルムが持ち上げようとした時、フォガストは紙を手で抑えた。


「……何の真似だ?」


「妙な真似してみろ殺すぞお前……」


 目を細めフォガストの真意を探るアウルム、不審な動きに警戒を見せ、いつでも殺せると殺気を放ちながら剣に手をかけるシルバに動じることなく、フォガストは言う。


「一応言っておくが……カメリアを抱こうなんて……支配しようなんて考えて、その為に情報を集めてるのだとしたら、命取りになるぞ。良いか、娼婦ってのは大昔からいるんだ。

 男って生き物は昔から下半身でモノ考えて失敗する。そしてそんな男の習性を熟知してビジネスにするのが『娼婦』だ。


 草食動物が肉食動物に食われる。草食動物が女や病人、負け犬で、肉食動物が金、力を持つ男だ。力のない女は肉食の男に良いように食われる。これが自然の理ってやつだ。

 だが、カメリアはその肉食の男を手玉にとって狩りに利用するハンターなのさ。どっちが負け犬だ? 金持ちの男なんだよぉッ! だから娼婦の神みたいな存在のカメリアにちょっとでも気があるってんなら、今すぐ手を引きやがれッ!」


「話が長過ぎる」


「あっ! おいっ!?」


 フォガストの話を無視してアウルムは情報の詰まった紙束をひったくる。


「良いか、まず一つ、カメリアなど性的に興味はカケラもない。そして次に、女についての説教など私に二度とするな……ふむ、良く調べられているな」


 パラパラと文字を一瞬にして読み込み、欲しかった情報は揃っているなと満足そうにアウルムは怒気の籠った声からトーンが変わったことでフォガストは一安心する。


「では、そろそろ行くとしようか」


「ああ、思い出した。KTは何かデカいものをオークションに出品するようだ。そして、欲しがっているものがあるらしく、金の準備をさせる動きがあったと金庫番は言っていたな」


「そうか……殺すなよ? わざわざ取り戻しにきた連中も殺さずに縛りつけておいたんだ。搾れるだけ情報を搾り取り、話のウラも取っておけ」


「……誰に命令してやがるッ! ……お礼もなしか……」


 フォガストが振り返るとそこには誰も居なかった。

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