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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
7章 マニー,マニー,マニー
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7-11話 オオツキ&シトネ


 オークションが迫る中、ホテル・バスベガにおいて最大規模のギャンブル大会が開かれる。


 ここで、大量の金が落ちる一方で大金を手にする者もいる。


 シルバは25桁の巨大スロットを揃えるゲームに参加し、アウルムはポーカーに、ミアは神経衰弱に参加した。


 フォガストの作戦である金庫番を暗殺するという役目はラーダンがやることとなった。


 ギャンブルをするよりは子供にさえドラッグを売る現在のオーティス、そしてそれを仕切るKTに打撃を与える仕事をやりたいと役目を買って出た。


 別に誰が殺すか、まではフォガストに指定されておらず、このメンバーの中で最もリスクが低く、かつ確実に仕事をこなすのはラーダンである為、文句は出なかった。


 そう言った裏方にこそ、クラウンがいるのではないか、日本人勇者同士の水面下の繋がりがあるのではないか、というラーダンの希望的観測も込みの立候補ではあるが、適材適所と言える役割分担である。


「お前らに関してはまず勝てるだろうな……どんな仕掛けなのかは、もう予想がついているぞミア」


「あ〜俺も流石に龍眼の能力分かった気がするな〜」


 神経衰弱で絶対に負けない、そしてそれを実現する力、ここまで来れば能力を明らかにされていないアウルムとシルバも予想がつく。


「別に私は隠してる訳じゃないんだけどね、今でも聞かれなかっただけで」


「俺が言いたいのはさ〜、いつも俺らの裸見てんの? ってところよなあ。ちょい恥ずかしいやろ」


「あら、恥ずかしがるような粗末なものじゃないのにシルバは……アウルムもね」


「やっぱり見てんのかよ!」


 口に手を当てながら、チラとミアの視線はアウルムとシルバの股間に向く。シルバは内股になりながら手で隠しマイケル・ジャクソンのようなポーズで叫んだ。


「仕組みが気になるな、お前の目をくり抜いて俺に移植しても龍眼の力は使えるのか……試してみたい」


「怖っ! お前ら怖いねん! ラーダンもなんか言うたってくれ!」


「……アウルムは無理だろうが、シルバならギリギリ可能かも知れないな。恐らく長い歴史の間でそう言ったことを試したやつもいたはずだ。それに関する記憶がないので、断言は出来んが……やったら君を殺すぞアウルム?」


「理論上の話だっての。冗談が通じない野郎だ」


 と睨みつけるラーダンに言い返したが、龍人族の死体をシルバに復元させ、それを移植する手術が可能かどうか実験する機会があればやってみたいと内心は思っていたアウルムだった。


 シルバは何となく、そのアウルムの考えを読めてしまい顔が引き攣る。


「本題に入るか……俺たち3人がとにかく派手に勝って稼ぎまくる。そうしたらオーティスの連中としてもイカサマを怪しむだろう、動きを見せるやつが出てくるかも知れない。

 不審な反応をするような気配があれば、そいつらは全てマークしてくれ。KTもクラウンも客に紛れ込んでいるかも知れないからな」


 姿を見せないやつは、こっそりと覗いている。警戒心が人一倍強いのであれば、何でも知りたがり、どこかに潜んでいる。

 遊び呆けて組織の運営を放置などはまずしていないだろうというプロファイリングに基づいている。


 これはデスゲームを主催したグゥグゥことジングウジにも見られた行動原理である。


「ああ、オーティスの中でも金庫番は殺し、誰かに連絡を取ろうとするような奴は気配を追い続ける。めぼしいものがいれば、拘束してあのレストランに配達すれば良いのだろう?」


「そうだ。俺たちが目くらましになって、ラーダンが影から様子を探る。ミアもシルバも派手にやってくれ。どうせお前らのイカサマはバレようがない能力由来のイカサマだからな。

 ここらで、オーティスを突いて出方を見よう」


 ただ観察しているだけでは事態は動かない。KTは特に慎重で、あちらが予測していないようなイレギュラーなことが起こらない限りは引っ張り出すことは出来ない。


 また、オーティスによる悪影響は思っていたよりも酷く、その皺寄せで孤児や麻薬中毒者などが発生し、貧民街が年々拡大しているらしい。

 華やかな街、バスベガの裏の面だ。


 フォガストは悪人でありながら、ビジネス的な側面もあり、街の状態を悪くするようなことはしない。むしろ、更に稼ぐ為にも維持に力を使っていた。


 一方で、KTはあまりにも無秩序。目先の儲け最優先で市場が枯れることも気にせず、悪人なりの流儀というものも存在しない邪悪な存在。放置するのは危険だ。


 その影響力の一つである資金を削れるだけ削る。それも必要なことであると意見は一致し、今回の大会に参加する運びとなった。


「頼むでラーダン」


「お師匠に目をつけられるなんて可哀想ね。それでクラウンが見つかると良いのだけれど……そもそもここにいるって確証もないから、KTだけでも見つけたいね。KTなら何か知ってる可能性はあるし」


「ラーダン、勇者は予想出来ないようなユニーク・スキルを持っているから仮に見つけたとしても手を出すなよ?

 後をつけるだけだ」


「分かっている。この私から記憶を奪うなど尋常ではない使い手だ。油断はしない」


「では行くか」


 4人は豪華な服に身を包み、一列に並んでカジノへ向かった。


 ***


 アウルムのいる卓にはフォガスト、先生と呼ばれる勇者のシオン・シトネ、それに街に入った時にあった商会の坊ちゃん、加えてもう1人の勇者がいた。


 勝負の形式はテキサスホールデム。このポーカーに関しては優勝者に10億ルミネ相当のチップが賞金として与えられると決まっており、カジノ側が想定外の支出をすることはない。


 アウルムはフォガスト、先生が事前に参加することを知っており、彼らの動向を探るべくこのゲームに参加していた。


(なんなんだこいつは……ッ!)


 だが、完全にノーマーク。突如現れた勇者が場をかき乱し始める。


「お、オールインッ……! ここで勝負……ッ! ここで引くのが道理ッ! でも賭けるしかない圧倒的勝機ッ!」


 男の名はオオツキ。先生と呼ばれる勇者とは互いに面識がないらしく、卓について初めて気がつき挨拶をしていたのを聞いていただけ。


 無茶な戦い方、そして本人は挙動不審で落ち着きがないにも関わらず、要所要所の大きな勝負にことごとく勝つ。


(イカサマしてやがるのか? あり得ないだろ!?)


 ロイヤルフラッシュ、ストレートフラッシュ、フォーカード、まずそんなに狙って出せないような役でオオツキは勝ちを攫っていく。


「チッ! この俺様がツイてないんじゃない! このバカみたいにツキまくってる男のせいで台無しだ!」


「全く、真面目に駆け引きをしているこちらの意図をことごとく無視していきますね」


「あんた、商人になるべきだよ。このツキ方は尋常じゃない」


 フォガスト、先生、商人はすっかりとこの男、オオツキに場を掻き乱されていた。


「まあまあ、皆さん落ち着いたらどうだ? 勝負は最後まで何があるか分からんぞ」


 ここで何も分からぬまま、勝負を投げられては困るとアウルムは声をかける。それに参加費もバカにならない大金なのだ。


 こんなふざけた勇者に金を奪われてたまるかという気持ちもあった。


 あり得ないとは思うが、こいつがKT、そういう可能性もあるし、先生がKT、その可能性もある。


 勇者同士を喋らせて情報を集める。今はそうするしかない。


「あんた、勇者なんだろう? 勝負に強いスキルでも持ってるのか?」


「そこの金髪、分かりきったことを聞くんじゃねえ。でなきゃ、この俺様が負けるはずがないんだよ」


「ほう? 絶対に勝てるという確信を持っているのも変な話だと思うがな」


 アウルムがオオツキに話しかけると、フォガストは暗にイカサマをしているに決まっていると言う。

 だが、それはお前も同じだろうとアウルムは思った。


「俺に勝負強さ……皆無ッ! 絶対に負けられないピンチ、意地、緊張感、ヒリつき……それだけが活路ッ!

 負けるわけがねえッ……! 金に余裕のある連中の人生の懸ってない伸びたゴムみたいな緩み……負けても大丈夫という甘え……その甘えを排除した時にだけ俺は流星の如く光るッ……!」


「その喋り方やめやがれ!」


 焦点の合わない状態で1人だけ汗を流しながらブツブツと喋り続けるオオツキは不気味そのものだった。

 とうとうフォガストが痺れを切らして怒鳴る。


「お客様……」


 フォガスト、そしてオオツキの背後にホテルのスタッフが立っていた。


 フォガストは騒ぎ過ぎによる迷惑防止と恐らくKTの配下による牽制、そしてオオツキにはイカサマの嫌疑がかかっていることによる確認。


 ただし、このホテルのスタッフ全員がオーティスのメンバーであり、その中の序列や役割までは『解析する者』でも判別がつかない。


 ここで、やっと動きが出た。という点では上出来だった。その前後の動作をラーダンはしっかりと確認しているはずなのだから。


 わずかなアイコンタクトや、仕草で情報伝達のルートが彼には既に見えているはず。オオツキに荒らされるのは業腹ではあるが、このまま、イレギュラーが発生した時のホテルの対応を見れるというのは悪くない。


「チッ……シラケるぜ……続けようじゃないか、どうやってんのか見破ってやるさ小僧」


 ***


「馬鹿……馬鹿……! ビビってどうする……! ここで……!」


 結果として、ポーカーはオオツキが明確なイカサマという証拠が上げれることのないまま、優勝で終わった。


 アウルムはちゃっかりと2位の座につけていたが、驚くべきはオオツキ。その賞金10億ルミネ相当のチップを更に増やすべく、あろうことかルーレットに挑戦。


 泡銭とはまさにこのことで、みるみるうちにチップは減っていく。先ほどまでの神がかった勝負強さが嘘であるかのように水泡に帰す。


 最後の最後、自分を鼓舞しながら、いや叱責しながら、もう見るのも耐えないほどの泣きながらの所持金5億ルミネ分のチップをベット。


「男だろ……俺ッ……! 引き寄せろッ……豪運ッ!」


 やけくその大博打。賞金の半分という大金を投じての今日一の勝負。


 チップを全て赤の1に賭け、ルーレットの赤いマスに玉が落ちるのを両手を組みながら祈る。


(ダメだな……この軌道は……)


 アウルムは玉の動き、ルーレットの回転のタイミングを『解析する者』により予測。数秒先の未来が見えていた。


 99.8%の確率で黒の2。オオツキは負ける。


「あっ……ああああッ……! なんで……!?」


(なんでもクソもあるか、テメェが自分で賭けたんだろうが)


 オオツキも玉の軌道から黒に落ちると察したのか情けない声を出す。


 だが、玉はごく限られた眼力を持つ者だけが気付く程度の不自然なバウンドをして赤に落ちる。


 掛け金5億ルミネが36倍となり、180億ルミネがオオツキの配当となる。


「え……? 勝った……勝ったッ……! ど、どうだッ……! 見たかッ……! う、うわ〜やった〜やったよ〜!」


 これには周囲も流石にどよめき、騒然となる。


 その人混みの中で、フォガストはしてやったりという顔で笑っていた。


 オーティスにダメージを与えるのであれば、自分で勝つ必要はなく、別の誰かに勝たせても良い。そう気がつき方向転換したのだとアウルムは察する。


 フォガストには恩寵がある。『見えざる手』というもので、文字通り見えない手を自在に操ることが出来る。


 この手はアウルムにも見えないが、それで玉の動きを操作したことは分かった。


 それからほどなく、アウルムの視界の隅にラーダンが現れ、仕事は既に済んだと示す合図を送った。


 ホテルの経営に間違いなく影響する大打撃の配当が発生。それに動揺した者が出た。ラーダンはその動きを見逃すことはなかった。


「彼は一体何者なんですかね……あんな生活が日常のようですが、苦労も絶えないでしょうに」


 同じく、オオツキの勝負を見物していた先生ことシオン・シトネが驚きを隠せずにそう呟いた。


「今なら気が大きくなって孤児院にいくらか寄付してもらえるんじゃないですか、先生」


「だと助かるんですけどね。取り敢えず話だけでもしてみますよ面識はありませんが……」


「同郷のよしみでなんとかなるのでは? 彼はここに慣れていないが、あなたは慣れているのでしょう?

 安定した収入があるようには見えない。今日のところは勝ちましたが、いつか破産しますよ彼は」


「ええ、僕もそれが心配ですね。同郷の人が路頭に迷う姿は見たくないですからね」


 アウルムは一度、彼の経営する孤児院を実際に見に行った。出鱈目を言ってるかも知れないとわざわざ裏を取りにひっそりと隠遁を使いながら観察した。


 孤児院と言ってたので、清貧な暮らしかと思えばかなり立派な建物で大所帯だった。


 顔が広く、何かと相談も受けて寄付には困っていないようで、余裕を持ちながら遊び、ほどほどのところで勝って撤退して更に良い暮らしを子供たちに与えていると近隣では評判が高い。


 地元の名士と言った感じだろうか。


 運営資金でギャンブルをするという、ややどうかと思う素行面はあるが、トータルでは勝っているので問題ないという認識らしく、それ以外は汚点や怪しい部分はない。


 ただ、それはブラックリストのクラウンではなく、本来の意味のクラウン、道化師の格好をした殺人鬼、ジョン・ゲイシーが逮捕され、その凶悪な犯罪が明るみに出るまで、同じような評価をされていた。


 という一点がアウルムにはどうしても気になるものだった。


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