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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
7章 マニー,マニー,マニー
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7-7話 コロシアムの女たち


 あらゆるものが出品され、その為に訪れる金持ちも多いと言われるバスベガのオークションだが、その時期に合わせて通常よりも多額の金が動く。


 オークション目当てに集まる商人や金持ち、博打師、冒険者、ここで一稼ぎしよう、欲しいものを手に入れようとする者が集まる。


 だからこそ、オークションが3週間後に控えているこの街では、そのオークションに参加する為の資金を集められるようなイベントも行われている。


 この時期に行われるイベントによってこのバスベガが年間の維持費の50%を稼ぐ。


 出る金も多いが、入る金も多い。


 そんな時期だからこそ、腕に覚えのある冒険者や武闘家が集まっており、退屈をするミアとラーダンにとっては丁度良いタイミングだった。


 名誉が欲しければシャイナ王国祭の武闘大会に行き、金が欲しければバスベガのコロシアムに参加するべきだ。


 そんなアドバイスをする実力者もいるくらいである。


「盛り上がってるわね」


「金の亡者ばかりだ、これでは退屈しのぎにすらならんかもな」


 コロシアムに選手登録をして、出番を待つミアとラーダンはその会場の熱気に当てられることもなく、ただ観察をしていた。


「でも勝ち残り、という形式は面白いよね?」


「対戦相手に恵まれるかも運、そういうことだろう」


 ここでは、明確な優勝者というものは存在しない。トーナメント形式でもない。


 連続で試合を行い、勝ったものがその場に残り続ける。一試合ごとに賭けを行う。先に戦い勝った者は、次の対戦者に戦い方を見られる、疲労も残るので勝つほどに不利になる。


 そこで、戦う者は自らに賭けることが出来る。勝てばファイトマネーが支払われ、その上で勝敗が当たれば配当金まで得られる。


 また、ここまでか……と思ったタイミングで試合を放棄することも可能であり、試合放棄にも金がかかる。


 観戦者は何試合連続で勝つか、まで予想して賭けを楽しむ。


「それでは、わざと負けるような者が出るのではないか」


「それはちゃんと対策されてるみたい。自分の勝ちには賭けられても負けには賭けられないし、負けた場合は出場料を取られるから負けた方が絶対に損する仕組みね」


「ならば、金を失わぬ為に必死で戦うか……いいだろう面白い」


「じゃあ私は女性部門で遊んでくるね、そろそろ出番になりそうだわ」


「それも珍しいな。鍛えていれば強い弱いに性別はほぼ関係がない。興行的な見栄えで女だけの戦いか……そこそこ稼げば観に行こう。

 ミア、やり過ぎるなよ?」


「大丈夫よ、龍眼なんか使わないし殺したりもしないわ」


「くれぐれも油断と目立ち過ぎには気をつけるんだな」


「それは……お師匠に言われるのは納得出来ないな〜行ってきまーす!」


「ああ……さて、私も遊ばさせてもらうか」


 ***


(女と戦う機会ってそうあるもんじゃないから楽しみね……)


 ラーダンとは別の会場にて、出番が回って来たミアはコロシアムと呼ばれる25m四方の大きめに空間の取られた場所に来た。


 周囲は鉄格子で囲まれており、その外側に座席が用意され、見るからに金持ちで、それも下卑た視線を向ける男が多い。


 そういった視線に晒されるということ自体はこの世界の女性にとって珍しくもなく、一々怒ったりはしない。馬鹿な男の性なのだと考える者、逆に自尊心を満たす為に利用する者、様々だ。


「さてさて、暴れますか」


 ミアはラフな格好でコロシアムに立つ。シャツとローブ、暑い地域で移動する用の軽い素材。高級なドレスで戦っては後からアウルムに文句を言われるのは火を見るよりも明らかで、着替えて来た。


「現在5連勝中……! 好調のその名の通り大きな斧を意味する南方の言葉から取られた『大斧の暴れ牛(ラブラゲダ)』ッ! 対するは今回が初挑戦の……『匿名希望』ッ! 仕事は商人の護衛をやっているとの情報アリッ!

 さあ、暴れ牛を護衛の彼女が止められるか!?」


「へえ、牛のビースト……大きいわね」


 対戦者は現在5連勝をしている身長は大柄なラーダンよりも更に上の2mをゆうに超えた巨大で身体中に古傷を残した戦士。


 人間の男が両手を広げたようなサイズの斧を肩にかけ、ミアを睨んで待ち構えていた。


 対するミアの身長は170cm程。観客からすれば大人と子供の程の背丈、リーチの差があり、身体の分厚さもまるで違う。


 肉弾戦ではまともな戦いにはまずならないだろう、誰もがそう思いオッズはラブラゲダに傾く。

 こんな場所に乗り込んでくるにはパワー以外の何かしらの強さがある、大穴狙いの博打師はミアに賭ける。


「試合開始ィ〜〜〜ッ!」


 ミアは腰に丸めて下げていた、鞭を固定していた金具をパチッと鳴らせて外す。


 丸まっていた鞭は地面に伸びていき、軽く振るうとミアの周囲をグルリと囲むように円を描いた。


 武器の名を『白蛇』。その名の通り、北方にしか生息していないSランクのモンスターであるイモータル・パイソンという蛇の中でも特殊個体である白い鱗を持つ女王と呼ばれる個体を素材にした鞭。


 素材のモンスターと同じく白い鱗を職人が特殊加工して鞭とした一級品。


 扱いを少しでも誤れば、使用者を傷つけてしまうほどの殺傷力を持つ。


 鞭とは、本来調教や刑罰、拷問に使われるものであり戦闘を意識した武器とは考えられていない。


 対象が自由に動くことで狙いにくく、使える場所も振り回せるだけの広さがないと使えないなど、用途が限定されている。


 特に接近戦は非常に不利であり、このような場所で鞭を持ち出す者は今まで居なかった。故にミアに注目が集まる。


「そんなヒモでこのアタシと戦おうってかい? おめでたいねぇ? その綺麗な顔ズタズタにしてあげるよッ!」


「ふふ……鞭ってね? 拷問で使われるくらい『痛み』を与えるのに特化してて、それこそ子供の力で振るわれたものでも避けるのは難しいくらい『速い』のよ」


 ラブラゲダがゆっくりと迫って行く途中、ミアの腕が消えたように見えるとほぼ同時に空気が裂けたような音がした。


「ッ! な、なんだ……音でビビらせるつもりかいッ! 舐めた真似してくれるねッ!」


「そうね、事実あなたはこれから『ビビる』でしょう」


 ミアがニヤリと笑うと、斧が土の塊のように崩れた。


「──ハッ!?」


「今ので何をされたか分からないなら降参することをお勧めするけど、どうする? 降参しないなら、あなたが斧と同じ状態になるわね」


「ふざけんなぁあああッ! 何の種族か知らねえが殺してやる!」


「ハア……別に殺しは好きじゃあないんだけどね──でも、苦手でもないから」


 ──ミアの白蛇は手元から消え、雷のような破裂音と共に現れる。


 ***


「紳士淑女の皆様アッ! お待たせしました! 現在7連勝中で絶好調の匿名希望! 鞭を使った多彩な攻撃を初参加ながら見せた……いや魅せたァッ!

 観客席から『白蛇』なんて呼ばれる声も聞こえてきます!


 対する挑戦者はァッ〜! 皆さんご存知『奇術師』ッ!彼女の変幻自在な攻撃に翻弄され数々の腕自慢が敗れて来ました!

 謎の女と……謎の技を使う女! 両者正統な戦い方ではないにも関わらず力自慢たちはなすすべ無しィッ!

 そんな彼女たちがいよいよ対決ダァアアアアッ!」


 奇術師と呼ばれる女はマスクをつけていて顔は分からないが、ミアよりも小柄でピンクと水色の混ざった派手な色合いの髪だった。


(奇術師、と呼ばれるくらいだから力押しの攻撃はしないようだけど……武器はナイフ? 投擲? 毒には警戒かな)


 ゆったりとした服にマントを羽織っているせいで身体つきは隠されている。ミアの持つ竜眼を使えばそれも分かるが、ここでは使わないという制限を自ら課していた。


 そうでなければここに来た目的である『楽しむ』ことが出来ないからだ。


 奇術師は両手の指の間にナイフを挟んで持っている。


 ミアは経験則から、この手の格好をするのは暗器などを仕込む暗殺者系の立ち回りをするはず、そんな予測をして油断せずにいつでも白蛇を振れるように準備をしていた。


 そして、予想通りナイフはミアに向かって6本同時に投げられた。


 ──が、予想通りでなかったのはそのナイフの軌道である。


(曲がったッ!?)


 白蛇によって払い落とされる寸前で軌道を変えて生き物のように滑らかな動きをした。


 だが、ミア自身が動くことによりナイフとの距離を稼いだ。そこから鞭の速度──音速を超える速度によってナイフの移動よりも速いスピードにより、その全てを破壊する。


「あらら……それ回避出来るの……これならどうかしら? さあご注目! こちらにナイフがありまぁす!」


(声が若いわね……私より歳下でしょう……って、ヒューマンなら私より歳上なんていないか……ッ!? ナイフがッ……)


 ミアが驚いたのは破壊したナイフが消えており、さっきの倍の12本のナイフを奇術師が指に挟んでいたからだった。


(スキル……? それとも魔法で生成したナイフ……?)


 仕組みが分からないナイフの出現と消失。ミアはその謎を解明するべく、竜眼を使用したいと思わせられていた。


 このコロシアムにおいて、ミアにそこまで思わせることが出来た対戦者は居なかった。それだけに、この奇術師の強さは未だ不明だが、注意を引き寄せるだけの『何か』があった。


「パンパカパァーンッ! さあ全部のナイフを見切れるか見ものですゥ〜!」


 次はどんな軌道か、それぞれが完全にバラバラであれば白蛇で対応しきれるか、そんなことを考えている時奇術師はナイフを全て真上に投げた。


「ッ……!? ガッ! 後ろッ!?」


「あら不思議ッ! この街のどの娼婦さんよりも硬いものがザックリと刺さっておりまぁす!」


 宙に舞うナイフの行方に気を取られた一瞬、まだ12本のナイフはミアの視界に収まっているというのに13、14、15本目のナイフが背中、腰、足を突き刺していた。


 そして、更に背後に意識が持っていかれた隙を見逃すことなく、宙に舞うナイフがミアに向かって軌道を変える。


 この間僅か3秒足らずの出来事。


 更に更に、小さな球体もナイフとは別の軌道を描いてミアに投げつけられていた。


 球速は速い。だが、ミアの鞭使いで十分に反応出来る程度の速度。


 ──それを切断したのが間違いだった。


「煙幕ッ!?」


「開けてビックリ! でっしょ〜〜〜?」


 切断による衝撃で球体から白い煙が巻き上がり視界が封じられる。


 そして、その煙の奥から不規則な軌道をしたナイフが絶え間なくあらゆる方向からタイミングをズラして飛来してくる。


 それが何本が刺さる。


(普通のナイフじゃないわね……毒まで塗ってあるなんていやらしい。一撃で決め切るほどの火力はないにしても普通なら戦えば戦うほど不利……下手に近付いても何されるか予測出来ない不気味さがある……)


 もはや、ここまでかとミアは笑う。


 ──手加減することを。


「土魔法……? 更に視界を悪くして隠れるつもり? でも自分も何も見えないですぅ?……さあさあ! ナイフに切り刻まれることも分からぬ愚者を血祭りにあげま──」


「誰が何するって?」


「ッ!?」


 奇術師の背後から声がする。寒気のする声に驚き振り返るがミアの姿はない。


「こっちよ、どこ見てんの」


「ガバァッ!?」


「あら? 煙を殴ったみたいな手応えになったわね、どこに隠れたの……」


 強烈な鳩尾への突き。身体がくの字に折れ曲がる衝撃を感じながらも奇術師は即座に姿を消した。


「……けど、それは私にはまるで通用しない戦法ね」


 ミアの龍眼は透視能力に長けている。視界の悪い煙の中でも姿を隠すことは出来ない。


 それが出来たのは今までで、アウルムだけ。ラーダンは見えていても反応が出来ないほどに速いという差がある。


(なるほど、隠れたんじゃなくて本当に『消えてる』のね……ナイフと言い、どういう仕組みか分からないけど現象自体が分かればどうということはないわ……!)


「いつまでもは隠れられないからね……」


 ミアは白蛇に魔力を込める。この白蛇は魔力により強度、切れ味が増し、全長が『伸びる』。


 コロシアム内のリング全てをカバーすることが出来る長さまで伸びた白蛇は空中で破裂音を連続させ、索敵と誘導を同時に行う。


「ギャアアアアアッ……!」


 乾いた破裂音にやや水のような音が混ざった。


 奇術師は転々と姿を消しては現してを繰り返していたが、回避が間に合わずにしなる鞭の攻撃を受けた。


 皮膚が一瞬にして風船のように破れ、その周りに痛々しいミミズ腫れが発生する。


 何より、奇術師はあまりの痛み、許容量を超えた痛覚への刺激にビクンと身体を跳ねさせて気を失いかけた。


「まあ、ポーション飲んだら治る程度にしておいたからお互い様よね……? あ〜服がボロボロになっちゃった、これドレスじゃなくて正解ね」


「ハァハァッ……! 私はまだ……負けてない……負けられない……誰にも一銭も渡さない……! あの子を助ける為に私は……!」


(何か訳アリのようね……遊び金欲しさに戦ってる感じじゃなさそう……)


 この白蛇による攻撃を一発でも喰らえば大男ですら、あまりの痛みに勝手に涙が防御反応として溢れてしまい、度の超えた痛みの記憶を刻まれる。


 故に動物の調教に扱う道具での鞭であり、それを武器として戦闘に応用出来るまでに昇華している鞭の攻撃を食らっても戦意喪失をしないとは、異常である。


「何か事情があるようね、この試合は私の勝ちだけど……もし差し支えなかったら話を聞かせてくれない?」


「誰があんたなんかに……私の邪魔はしないで欲しいですよ!」


「だからね……手を貸せることがあったら貸したいから話を聞きたいって言ってるんだけど……」


「それは……! あんたがッ! そうしたいだけで、私の為なんかじゃあないッ! 馬鹿にするな! 見下して情けをかけて気持ち良くなろうとするな! この偽善者がッ!」


「別にそんなつもりじゃ……ちょっとお……泣いたら私が悪いみたいになっちゃうじゃないのお……」


「……クッ! 泣いてないッ! うるさいッ! 今日のショーはここまでにするッ!」


「痛ッ〜〜〜!……あら、またどっかに消えちゃった……」


 今度は刺激物の混ざった煙玉を使いミアの視界をほんの一瞬無効化した。


 眼球は鍛えられず、ミアですら痛みを伴う。冒険者がモンスターに対して使う手段としては有名だが、水魔法によるガードで一瞬だけ、姿を見失ったところを利用して姿を消した。


「お互い本気じゃないとは言え、私から2回も逃げるなんて……一体何者だったのかしらねえ……怪我もしたことだし、そろそろ帰りましょうか……あ、お師匠……」


 歓声を受けながら、次の試合を辞退して帰ろうとすると廊下の壁にラーダンがもたれかかっていて、閉じていた目を開けた。


「油断し過ぎたな」


「見られちゃってたかな〜……あれじゃあ私を殺すことは出来ないけど、面白い技の使い手もいるものね」


「攻撃を何度か食らっていたこと自体が問題だ。即死性の毒や触れるだけで行動不能になるような恩寵使いだったら死んでいたかもしれん。

 攻撃の手を緩めるのはまだ良いが、警戒、回避を緩めるな」


「は〜い、でも緊張感がないと楽しくないから……」


「あの女、去り際に君を殺気を向けていた。あれが粘膜にダメージを与える程度の煙だから良かったが、王都で体内による攻撃で死にかけただろう。

 やはり油断し過ぎとしか思えん」


「はいはい……ここ最近ヒリつく戦いなかったから鈍っちゃてたけど、今日で勘を取り戻してきましたよ〜……」


「あれくらいでやられないのは分かっているが……あまり心配をさせるな」


「ごめんなさい……でも彼女困ってるみたいだったから助けてあげようと思ったのに……」


 ラーダンにポンと頭に手を乗せられて娘のように説教をされるミアは肩を落としてホテルに戻る。


 結果だけ見れば、連勝し最後の試合も余力を残したまま殆ど圧勝していたにも関わらず、反省会をしながら歩く。


 むしろ、これがラーダンとミアの本来の旅の仕方に近いものであり、なんだかこの感覚も久しぶりだと懐かしむ。


 なんだかんだと、アウルムとチャックとの旅はお姉さんのような素振りをしてしまっていた。

 生来の世話焼きな性格がそうさせるが、時には誰かに寄りかかっていたくなってしまうのが、ミアだ。


 頼られる姉よりは、頼る娘でありたい、でも年寄り扱いも、子供扱いもされたくない。


(アウルムはずっと面倒くさいって私のこと言ってたけど、当たってるわね……は〜女って種族が違っても面倒くさい生き物ね)


 女だけが戦う特殊な場所、普段は男に囲まれて生活しているせいで、性別が違うだけで行動原理も随分と変わってくる。


 寡黙なラーダンと生意気なアウルムと行動を共にしていたせいで、普通の女とどうやって話せば良いのだっけと思い出しながら歩いた。


(お師匠は思い出すことも出来ないのよね……クラウン見つかると良いのだけれど。

 あ〜それに奇術師のあの子も気になる〜どうやったらお話し出来るかな〜私が何か言っても怒らせちゃう気がするし世代も違うから話も合わないもんね〜……困ったわ……)

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