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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
1章 バックインブラック
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1-13話 村の様子とトロール

 

 農村の景色は畑ばかりで、その畑の間にポツリポツリと小さな家が点在するのみの閑散とした静かなものだった。


「ど、どういうことだ……おかしい、この時期は畑仕事で人がいるはずだが……まさか遅かった……のか……?」


 人の気配のない農村を目にしてフレイは慌てる。


「落ち着け。別に襲撃があったような形跡はない。村の人間が集まるような場所はないのか?」


『解析する者』で調べたアウルムはフレイを落ち着かせる。


「村長の家は緊急時には村の人間が避難出来るように大きく作られている」


「じゃあ、まずはそこに行ってみますか」


「あ、ああ……」


 馬車を村長の家に走らせると、複数人の足跡がその先に集まっていることが確認出来た。


「この村の人口はどのくらいだ?」


「私がいた頃……7年前は100人も居なかったと思う」


「ふむ、ならば子供はどうだ?」


「農村は子供が多いからな、すぐに死んでしまう者も多いが産まれるのも多い。精々20人前後だろう」


 この世界においての成人年齢は15歳。15歳以下が100人の規模の村で20人はそれなりに多いだろう。


「なら、数がおおよそ合うな。子供の足跡が15人分確認出来る」


「そんなことが分かるのか?」


「まあな」


 ***


「村長! いるのか!? 私だ、フレイだ! 王都から里帰りに来た!」


 村長宅のドアを叩くと、60代くらいの茶髪に白髪の混じった男性が現れた。


「おおっ!?フレイか! 随分と久しぶりだなあ、見ない間にえらく綺麗になって……」


「村長、村人の姿が見えないのだが……」


「……まあ、入れ。話をしよう……」


 フレイとの再会を喜んだ村長の顔は少し曇った。


(おい、村長ってもっとこう……ヨボヨボのおじいか、おばあで、長老って感じやと思ってたけどイメージと違うな)


(馬鹿を言うな、この世界の農民の平均寿命から考えたら十分長老クラスだ)


(でも、じゃって語尾についてないで)


(あれは昔の人の方言が残った喋り方が老人の喋り方のテンプレートになっただけじゃないか? 岡山弁の人間しか前の世界で実際に喋ってる人間見たことないぞ)


(確かに……)


 シルバは密かに異世界の村に憧れを持っていたが、思っていたのとは違う村長にガッカリしていた。


 家の中に入ると、大勢の子供達とその面倒を見る母親たちが居た。


「フレイ!?」


「フレイだっ! すごーい貴族様みたい!」


「あらあ〜別嬪になって……」


 フレイの姿を目にした村人は彼女を囲みそれぞれに喋り出して軽くパニックのようになっている。


「み、皆久しぶりに会えたのは嬉しいが私は村長と話があるっ……! 後にしてくれ……」


 村人を引き剥がしてはいるが、フレイは嬉しそうだった。


「フレイ、おかえり……」


「父さん……」


「話は後だ、村長と話してきなさい」


「は、はいっ」


 フレイの父と見られる男も家にいた。感動の再会だろうが、今は感傷に浸っている時ではない。

 手早くハグをして、村長の部屋に入った。


「フレイ、まずはそちらの方を紹介してもらえるか?」


「こちらは冒険者のシルバ殿とアウルム殿だ。私が冒険者を引き連れて帰郷した意味……この村の状況……やはり、そうなのか」


「お前も耳にしたか『ミストロール』の噂を」


「「ッ!?」」


 シルバとアウルムは声には出さなかったが、互いに目を合わせた。


「『ミストロール』……というのは、ここらで起きてる子供が森で消える事件の呼び方、で合ってるのか?」


「やはりか……王都でも噂になっているんだな?」


「その呼び方は初めて聞いたが、そうだ」


 村長とフレイは顔を落として、お互いの疑問が確信に変わったようだが、シルバとアウルムは顔を上げたままで、確信を得た。


「当たりやな」


「ああ、依頼を受けて正解だった」


『ミストロール』、その名は闇の神から与えられたブラックリストにしっかりと書かれていた。

 合致した。今回の事件、勇者が絡んでいる。


「どういうことだ?」


 フレイは二人の口ぶりに疑問を投げかける。


「そいつは間違いなく、俺たちが追っている獲物の一人だ、村長話を聞かせてくれ」


「俺たちはそいつを殺しに来た」


「それが目的で依頼を受けたのか……」


「いや、本来の目的はフレイから情報を得ることで獲物について知ることだ。そいつが偶然……にも、俺たちの獲物だった。僥倖というやつだ」


「それは願ってもない話です。村人は怯えています、どうか『ミストロール』の討伐をお願いしたい。詳しいお話をしましょう」


 ***


 村長は隣の村やそのまた隣の村からも子供が消えるという事件について話を聞いていた。

 その事から、用心の為村の子供を早いうちに外に出さないように自宅で保護しているという。


 大人や老人は襲われたことがないというので、子供を優先して保護した。村長の家といっても村人全員が入るわけではない。


 フレイと同様、依頼を出そうにも分からないことが多く、この村の規模では資金が足りない。


 怯えながら家に子供たちを閉じ込めるしか方法がなかった。

 だが、子供というのは大人がどれだけ忠告しても、本当の意味で理解はしてくれない。痛い目を見てからでしか分かってくれない。


 窮屈な生活は我慢の限界らしく、目を離すと脱走することもあるという。


 村にいる老人の世話を持ち回りで行う必要があり、その時が今のところ、唯一の子供の外に出れる貴重な時間だと言う。だが、それでもストレスが溜まっているのか、子供たちの元気が無くなってきて、村の活気自体無くなっているという。


 一つところに集めたせいか風邪も流行り出して良くないループに陥っている。


 子供と言えど、小さな農村では貴重な労働力だ。収穫に影響が出れば税が払えない。このままいつまでも家の中に隠し続けることも出来ない。


 日に日に焦りは募るばかりだと、村長は力無く答えた。


「まず、何故『ミストロール』と呼ばれるかについては分かるか?」


 それが分かれば敵の正体や能力についてヒントが得られるはずだ。


「噂で聞いたことでしかないのですが、霧が出てくるといつの間にか子供が消えているそうです。トロールというのは、他の村で消えた子供がひょっこりと戻ってきて震えながらトロールに攫われたと言ったからと聞きましたな。

 その子供は心の病にかかり、まともに話が出来なくっており、それ以上詳しいことは何とも……」


「トロールというのは、実際この辺りに生息するモンスターか?」


「いえ……トロールはこの辺りに伝わる御伽噺のようなものに出てくる怪物で、そういうモンスターが実際に出たというのは60年生きてきましたが聞いたことはありません。

 早く寝ないとトロールが来るぞとか、森で遊ぶのは危ないと子供達に言い聞かせる恐怖の象徴のようなものです。それが本当にいるような事が起きているのですから、パニックになりかけています。(ミスト)から現れるトロール、いつしかミストロールと呼ばれるようになりました」


「その子供は何か恐ろしい体験をした。その子供の持つ語彙で恐怖を表現しようとして出たのが『トロール』ということか」


「かも知れませんな」


 トロールという言葉が何を象徴するのか、それについて調べる必要がありそうだ。


「その子供はどこにいる?」


「ここから馬で半日の距離にある村にいると聞きましたが……話を出来るような状況ではないそうですよ?」


「喋れなくとも身体から発する情報で拾えるものがある。俺はフレイとその村に行く」


「私と……ですか?」


 何故? と言いたげにフレイは自分の顔を指差した。


「なんだ、不満か?」


「いえ、アウルム殿には何か考えがあるのですよね……?」


「当たり前だ。シルバは村や周辺の調査をして、何かあれば村人を守れ……村長、こいつは結界魔法が使えるから襲撃されても問題ない。色々教えてやってくれ」


「それは心強い……分かりました」


「よろしくお願いしますわ村長」


(シルバ、この村に怪しい奴がいないか調べておけよ。フレイの父親、村長も含めてだ)


 アウルムは念話で全員が犯人である可能性も考慮しろと伝える。


 ***


 フレイは父親、妹と7年ぶりの再会をする。母親は妹の出産の時に亡くなったそうで、男手一つで二人の娘を育てたのだという。

 丁度娘の年頃がトロールの標的となっているので、ピリピリしていたのか、顔からは疲労が伺える。


 村人たちに都会のお土産を配る事でいくらかの笑顔が戻った。


「今の私には物で喜ばせることくらいしか出来ない……」


「貧すれば鈍する。心の余裕を作るためにもちょっとした贅沢は必要だ。ある意味村の空気を良くしたと考えろ」


「そうそう、騎士のフレイは皆からしたら憧れの人間で頼れる戦力やねんから、不安そうな顔見せんと堂々とした方がいいですよ」


「アウルム殿、シルバ殿……ありがとう」


 落ち込んでいたフレイは少し元気を取り戻した。


 ***


「よし行くぞ」


「アウルム殿、馬は一頭しかいないのは……」


「馬は一頭ここに残しておきたいし、馬車では速度が出ない。二人乗りで行く」


「そうですか、私はてっきりアウルム殿が馬に乗れないのかと」


「……行くぞ」


「まさか、本当に乗れないのか?」


「黙れ、早くしろ」


「クッ……意外だな……」


 バツの悪そうにするアウルムを見てフレイは吹き出した。

 眉間にシワを寄せながらフレイの後ろに座り、村を出た。


「ところで、何故私を連れて行くのだ?」


「俺はこの辺りの土地勘はないから、地元の人間の助けがいる。途中でモンスターに襲われたら自衛出来る人間でないと困る。それだけならお前の父でも良かったが、それはお前が女だからだ」


「あ〜、その私と途中で、その……『ヤリたい』のか? いや、冒険者で男ならそういうのに飢えているというのも分かるが今は勘弁して欲しいのだが……」


「は? 何を言ってるんだお前は……」


「違うのか? 騎士団では私の身体を目当てにそのような事を言ってくる連中は多いのだがな。まあ、村が安全になればそれくらいは構わん。私も若い体力のある女だからそれなりに性欲はあるし、アウルム殿の顔は悪くない」


「全く……勘違いもいいところだ。女であるお前を選んだ理由は子供と話す時に、俺よりも女の方が話してくれる確率が上がるからだ。

 子供は本能的に男より女を信頼する傾向にある」


 アウルムは子供が苦手だ。泣かれることも考えてフレイは必要だ。シルバなんてもってのほかだ。ゴツい男二人で子供を囲んだら確実に泣かれる。


「そうか……それにしても、アウルム殿は学者並みに博識だな」


「読書や研究が趣味でない。経験則に基づくものもあるが絶対ではないこともある。話半分に聞いておけ」


「ハハッ、本当に冒険者をしているのが不思議で仕方がないな──して、アウルム殿よ」


「何だ?」


「その、さっきから私の胸を鷲掴みにしているが、やめてもらえないだろうか? 馬上で振り払えないから無視していたが」


「すまんな、先ほど指摘されたように俺は馬に乗れん。肩や腹よりもこちらを掴んでいる方が安定することが分かった」


「はあ……まあ理屈は分かるが掴むだけだ、勝手に揉んだりするなよ、強く揉まれるのは痛いからな、馬に乗っているんだから危ないぞ」


「さてそれはどうか……俺は意外にも馬に乗れん男だから咄嗟の時は強く握ってしまうやも知れん」


 とは言うが、フレイは鎧を装着している。柔らかな感触はなく、手には硬い皮と金属の質感が伝わってくる。

 よほどアウルムが強く握りつぶしでもしない限り痛みはなく、フレイも自分の胸付近に他人の手があるという状況に気が散るから言っただけで胸を揉まれているという感じも無かった。

 ただ、落ち着かないというだけだ。


(なるほど、農民出身の女騎士ってのはこういう倫理観か、男に揉まれる社会で生きてるってことは村娘や貴族令嬢とはまた違うのだろうな。参考になる)


「先ほど笑ったことを根に持っていたのか」


「何のことやら……」


 アウルムはただ胸を掴んだのではない、その反応からこの世界の女性の価値基準を見極めようとしていた。


 しらばっくれるアウルムを背にフレイはこいつを怒らせるようなことをするのはやめようと心に刻んだ。

ついにブラックリスト出てきました。

ブックマークしてくれた方、本当にありがとうございます。元気でます。

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