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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
6章 ライダーズオンザストーム
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6-17話 ガラランとチャック



(なんか……最近、こういう殺し合いとかじゃなくて駆け引きする勝負多くないか俺?)


 ミタライ、ジングウジと来て、ルシウスとの勝負。単純なチカラ比べではない勝負が続いていることが、どうにもおかしく感じたアウルムは笑いを堪えた。


「運も実力のうち……って言いてえところだが、後からイチャモンつけられたら俺の信用に関わるからな。まあ勝負ごとに運はつきもんだから完全に無しってのは無理だが……そうだな……『3揃え』でどうだ? これならイカサマも出来ねえだろうがよ」


「ふふっ……」


「何笑ってんだッ!?」


 ガラランが笑うアウルムを怒鳴りつける。


「いや、その勝負なら全部勝てる。独房はもらったな……と、思わず笑みがこぼれちまっただけよ」


『3揃え』──元の世界で言うヒットアンドブローと全く同じルールのゲームだ。何故よりによってアウルムに有利過ぎるゲームを選んだのかと、そりゃあ悪手にも程があるだろうと笑えてきた。


 3桁の伏せられた数字を交互に予測して数字と桁が合っているかの解答で、答えを探っていくゲーム。心理と計算要素の絡んだものなのだから、まず負けることはあり得ない。


「ただし……10回勝負で、お前が1回負けるごとに指1本は頂くぜ?」


「どうあっても俺に制裁を与えたいようだが、それでビビるほど小せえ肝じゃねえもんでな」


「デケエ口叩けてるのも今のうちだ、8回勝てりゃイカサマなしって認めてやってもいい」


「へえ、随分と配慮してくれて助かるぜ」


「言ってろ、泣いても謝っても勝負は最後までやる。8回連続で勝っても10回はやる。いいな?」


「構わねえよ」


 ***


「馬鹿な……」


「マジで10回連続勝ちやがった……」


「一人でくつろげる部屋も手に入ったことだし、後はメシだなあ……メシ賭けてもうひと勝負しねえか?」


「もう良い、分かった……認めてやるロア、今日から俺の仲間入りだ」


(別に仲間入りとかどうでも良いんだが……物置きに一番近い部屋がゲット出来て、ルシウス公認で近づく権利が得られたのは結果的に良かったな)


 アウルムは宣言通り、全勝した。そもそも、ルシウスは自分が馬鹿だという自覚が弱い。周りに持ち上げられてるだけの裸の王様で、頭が悪いと言われたと感じることにムキになってキレるあたりコンプレックスがあることにも気付いていないレベルの馬鹿だ。


「ふ〜……いや、勝てたのは良かったが正直内心ビビったぜ。それにあんたの仲間に入れたのもツイてるな」


 あえて弱味を見せるような発言もしておき、印象を操作する。あまりに人間離れした能力を見せると恐怖から妙な行動する奴もいる。


 あくまでも、勝負ごとにめっぽう強い肝の座った奴。その程度の認識をさせていく。


「ギボだ」


 用心棒役の太った巨漢の男が握手を求めるので返す。他にも自己紹介をしながら握手をする。


「ガラランだぁ、よろしくなロア……俺はまだお前を信用してねえ。妙な真似してみろきっと後悔する」


 一際愛想良く、声を張りながらハグをしてきたガラランは耳元で警告をしてきた。


「ああ、よろしく」


「それでぇ? ロアは何してここに入った? まあ、おおかた貴族相手に違法な賭博して金を巻き上げたとかそんなところだうが……」


 ルシウスが少し心を開いたのか、アウルム自身に興味を持ち質問をしてきた。


 囚人たちと触れ合いながら、アウルムは犯罪者としての自分のペルソナを設定していた。


「俺は雇われの殺し屋だ。雇い主と標的が貴族で……まあ、良くある話だ」


 ロアは30代半ばの貧民生まれの殺し屋。暗い髪色をして、顔つきも悪い。歯もわざわざ黄色くして、数本抜いた。


 ギャンブル好きで多少危険な仕事も受けるが、最後の仕事でドジを踏んで奈落行き。勝ち目があるならリターンのことばかり考えて危険なことにも首を突っ込む恐れ知らずなちょっとイカれた奴。そういう人物になりきっている。


「ほお、ギャンブルだけじゃなくて殺しの腕もあるか……ギャンブル好きの殺し屋ねえ、ギャンブルだけやってた方が向いてたんじゃねえか? ガハハハッ!」


「それを言われると返す言葉もねえがな」


「おい、タイマンでギボに勝てるか?」


「さあ……殺し屋ってのは真正面から戦うもんじゃねえから体格の不利があるとなんとも言えねえな」


「……勝てねえ、とは言わねえんだな。大した自信だぜ」


「勝ち目があって、勝つことに得があるならやる。俺はそういう性格なもんでね」


「分かってると思うが、特に仲間同士の喧嘩は御法度だ」


「ああ、大人しくいつも通りギャンブルして遊ぶだけさ俺はな」


 ***


 奈落に潜入してから10日が経った。シルバはアラアバブで結構なゴタゴタに巻き込まれたみたいだが、無事に解決して、事後処理に追われているらしい。


 そんな話を定時連絡で聞いたアウルムだったが、潜入という仕事上、それなりに時間がかかる。仕方ないとは言え、ミアとの約束まで残り10日になった。


 この奈落で囚人として生活することには慣れた。だが、今のところ収穫と言えるほどの大きな成果は上げられていない現状に若干の焦りを感じていた。


(不満は溜まってるが、大きな騒ぎになるほどじゃあない。こいつらも意外と独房から離れねえから物置きの男とも接触がしにくい……トラブルを起こして目を逸らすしか無さそうだな)


 物置きの男、皆そう呼ぶようになっている。一体誰なのか、何故監禁しているのか、ルシウスの機嫌が良い時にそれとなく聞いたが、彼に関しては口が硬く、情報は得られなかった。


 ただ、絶対に殺すな、話しかけるな、メシを食ったかは異常なまでに気にしていたことから、死なれると何かしらの理由で都合が悪い存在だということは分かる。


 かと言って、自由にさせるのも都合が悪い。となると、物置きの男がルシウスにとって必要な情報か力を持っていると考えた方が良い。


 やはり、犯罪組織『オーティス』のボスである可能性が高い。


 問題は、ルシウスとボスの関係性だ。ボスをやるからにはカリスマ性があり、下手をすればルシウスの立場が乗っ取られる。そういうことを心配して監禁しているのか、何かしらの仕返しのつもりなのか、まだ分からない。


「いよぉ〜、調子はどうだいロアァ〜?」


「別に、快適さ。行き場のねえ囚人って事を考えなければ……だがな。この忌々しいこいつが外れて、エールとデケェ肉、あとは女がいれば更に文句なしの生活だ」


(こいつだ。ガララン……明らかに俺を信用していない。高頻度でこいつが声をかけて近付いてきて邪魔でしかない。殺したら殺したで面倒なことになるのも確かで、ルシウスよりも厄介だ)


「ちゃ〜んと看守ども見張ってろぉ? 鬱憤が溜まったケモノがわんさかいるからなぁ? 考えの足りねえ奴が目を離した隙に殺しちまったら俺たちゃ揃って飢え死にだ〜。

 もちろん、見張ってるお前のこともちゃ〜んと俺は見張ってるぜぇ?」


「問題を起こすつもりはねえ……そろそろ交代の時間だろ? 上に行ってくる」


「最近仲良ししてるかわい子ちゃんのところに行くのか〜?」


「俺のやる事に一々口出ししてんじゃねえぞ」


「おおっとぉ? へへ、そう熱くなんなよ、ちょっと揶揄っただけだろうがよい」


 ガラランに軽く威嚇しながら一般房エリアに向かった。


 皆、それぞれに雑談や筋トレ、ゲーム、好き勝手にしている。そんな中、牢屋の前で檻に背中を預けて心細そうにする、まだあどけなさの残った少年がアウルムに気がつき近寄ってくる。


「ロアッ!」


「よう、チャック。大丈夫だったか?」


「うん、ロアが守ってくれてるから皆手出ししてこないよ」


 少年の名はチャック。犯罪者の集団の中でかなり浮いていた少年だ。鑑定しても犯罪歴はほとんどなく、『冒涜』が一件だけ。


 話を聞けば、どこぞの変態神父の買った男娼でそれが明るみに出て神父は異端審問にかけられ、チャックは巻き込まれるように奈落行き。


 男娼自体は認められた仕事であり、完全に戒律を破った神父による巻き込まれ事故。この場にいるべき存在ではない。


 しかもまだ、17歳。こんな法もないところにいたら食い物にされるのは目に見えていた。あまりにも不憫なので、ルシウスの仲間、ギャンブルで彼個人を好きにする権利を買い、保護している。


 チャックのような立場の弱い者に拒否権などなく、抱く権利なども勝手に景品のようにされてしまう。


 変態の汚名を被りながら、アウルムはチャックを保護したことにより懐かれていた。


(なんとか、こいつだけでも逃がしてやりたいが……)


「ねえ、ロア……本当にその……ボクのこと使わなくていいの?」


「そういう趣味はねえ。死んだ弟に似てて不憫だからってだけだ。それにあんまり俺を善人と思うな。所詮お前のことを金で買ってる連中と変わりはない」


「違うと思うけどな……」


 チャックはすっかりアウルムに心を預けている。ストックホルム症候群とも言える状態でしかなく、そんな簡単に信用するべきではない。危なっかしくて、見ているこっちがヒヤヒヤするとアウルムはため息をついた。


 だが、話してみると意外と頭は悪くなかった。むしろ、この場所の人間関係の機微などアウルムよりもよっぽど繊細に観察していたし、それを言語化する能力もあった。


 シュラスコについての話もやっと聞けた。


 シュラスコはこの広場のスペースのど真ん中で適当に選んだ囚人の拷問を遊びがわりにやっていたらしい。


 ユニークスキルの効果によるものだろうが、拷問に使う道具などは何もないところからいきなり現れるようで、半透明の膜のような空間を展開する。


 そして、その空間の中で三角木馬や手術台のようなものを召喚して縛りつけ、拷問を開始する。


 不思議なことにシュラスコの拷問で、人が死ぬことはない。腕を切られても血を失って死ぬことはなく、解放されると傷も治っている。


 いくらでも『遊ぶ』ことが出来るようで、毎日毎日、囚人の悲鳴がこの場に響き渡り、決まった時間になると囚人たちは選ばないでくれと部屋の片隅で震えながら神に祈る。


 いっそ、殺してくれた方が救いになるというほど、拷問は残酷で苛烈なものだったとチャックは語った。


 チャック自身は運良く、選ばれたことが無かったがその現場を目撃したトラウマ自体は消えておらず、話している時も気分が悪そうだった。


「ねえ、それより外の話してよ! あっ、戦い方の方が良いかな、こんなところにいるんだから多少ボクも強くならないとね!」


「……中途半端に戦い方を覚える方がよっぽど危険だ。戦うな、出来るだけ逃げるんだ。捕まったら相手と会話して自分の名前を呼ばせろ」


「なんで……?」


「お前を単なる殺す相手ではなく、生きた人間だと認識させることで罪悪感を覚えさせるには名前とか、どういうものが好きとか、チャック個人の話をして知ってもらうんだ。戦えないが人に不快感を与えない会話をするのが得意なお前にとって、それが一番助かる可能性が高い。

 だから、下手に戦えると勘違いするような技を教えるつもりはない」


「分かった……」


 露骨に落ち込んでしまったチャックを見て、アウルムは頬を掻いた。


「これはササルカって南方の街の話なんだがな……」


 アウルムの話をチャックは楽しそうに聞いていた。


 ***


 次の日の事だった。


「だぁれがぁッ! 俺のお守り盗みやがったぁ!?」


 独房で軽く睡眠をとっていたアウルムは大きな声にビクっと反応して目が覚める。


「なんだ……ガララン、何騒いでんだ?」


「俺のォウッ! お守りがねぇんだよぉッ! 誰かが盗みやがったッ! テメェか? おいッ! ロアッ!?」


「知るか、お前のお守りなんか興味ねえっての」


「なぁらッ! お前の部屋調べさせてもらっても構わねえな?」


 目を血走らせて、興奮した様子のガラランはアウルムの胸ぐらを掴んだ。アウルムはすぐにそれを振り払う。


「良いが、勝手に疑っておいて何もありませんでした、じゃあ済まねえぞ?」


「この独房エリアに入れるのは俺たちルシウスの仲間だけだ! 新入りのテメェを一番最初に疑うのは当然……自然な事だろうがヨォ!? だが、無かったらその時は素直に詫びを入れるぜ」


「なら気の済むまで調べろや」


 ガラランはアウルムの独房を調べてベッドなどをひっくり返す。


「おいっ! 片付けもやれよな!」


「ああ、何も無かったらやってやる……ねえな」


「気が済んだか? なら、さっさと元に戻しやがれ──」


「うん? うぅんッ!? ちょっと待ったァッ! よ〜く考えたら、俺ら以外にこの独房に出入りした奴がいるなぁッ!?」


「……」


「そうッ! テメェの恋人チャックさぁッ! オイッ! ちょっと済まねえがチャックの牢を調べて来てくれるか? 人のもん盗むなんて最低なことするやつは許されねえからなぁッ! 可能性があるとしたらあいつだッ!」


 ガラランは他の仲間に頼みチャックの牢を調べさせる。


「ガララン……お前、チャック……いや、俺をハメやがったな?」


「はぁ? 何のことだ?」


「殺すぞ……」


「やめねえかッ!」


 睨み合っていたところに、ルシウスが割って入る。


「仲間内での喧嘩は許さねえッ! ガラランッ! 頭冷やしやがれ、確定してもないのにロアを疑ってんじゃねえ!」


「す、すまねえルシウスさん……俺昔っからこうでよ、すぐ頭がカァーッとなっちまうんだ……」


「ロアも落ち着け、チャックはやってねえと思ってんならお前は信じてそこに座ってろ!」


「……」


「ルシウスッ! チャックの部屋にこれがあった!」


 仲間がチャックの髪を引っ張りながら連れてくる。その手にはブレスレットのようなものがあった。


「それだよぉッ! それッ! それッ! 俺のお守りじゃねえかッ! やっぱりそのガキが盗んでやがったんだなッ!」


「ロアッ! ボク盗んでないよッ!? 痛ッ……!」


(チッ……面倒なことしやがってガラランめ)


「ほぉら見たことかッ! テメェの恋人の不始末どうつけてくれんだ! ええッ!?」


 アウルムの方を向き、ルシウスたちに背を向けたガラランは、してやったりと大きな前歯を覗かせて邪悪な笑みを浮かべた。

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