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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
6章 ライダーズオンザストーム
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6-15話 囚人たちとの出会い



 太陽の光が一切届かず、時間感覚の狂う薄暗い地下監獄の看守たちにとって、朝も昼も夜も関係がなかった。


 交代の時間と食事で時間を把握してはいる。だが、環境が環境なだけに相応のストレスを抱える。


 食事が唯一の娯楽で、暴動が起きて入り口の檻よりも奥側に侵入出来ない以上、外の待機所で時間を潰すしかない。


 根本的な解決方法が現在はない。


 一定の間隔で囚人たちに物資を届けるタイミングのみが交渉出来るチャンスであるが、随分とやつれた看守の前を引きずり、ナイフを首に当てて生きていることだけを伝えて後は物資を乱暴に奪い取るのみ。


 人質解放の交渉術のノウハウなど持ち合わせていない看守たちには何も出来なかった。


 しかしながら、この現状は上層部にもしられているはず。何故対処出来るような人材を派遣しないのか、仲間を助けるつもりがあるのかないのか、態度がハッキリしないと看守たちは愚痴る。


 それについては闇に潜みながら監視を続けるアウルムとしても同意見だった。


(上が騒がしくてそれどころではない……か?)


 暴動はヒカルによる一連の犯行の一つにしか過ぎない。被害度合いで言えば上の方が甚大であるのは間違いない。


 こちらに回せるような優秀な人材は忙しい。囚人たちが外に出られないのであれば優先度は下がる。そういう判断だろうかとも思う。


 ただ、不審な点はある。暴動が起こせるのであれば、囚人を脱獄させ更なる混乱を招き目くらましにすることが出来たはずという点だ。


 出来なかったのか、敢えてやらなかったのか、恐らくは後者。

 何故やらなかったのか、それが問題だ。


 内部の様子は不明だが、そろそろ潜入しようとアウルムは行動を開始する。


 食後、血糖値の上昇により眠くなって集中力が落ちる頃合い。

 立てこもり犯の突入するタイミングを伺う警察のように時間、バイオリズムまでも計算に入れる。


 やることのない看守はウトウトとし始める。


 眠気の強くなる無香料の香を焚いて更に眠りやすくする。うっかり居眠りしてしまった程度の認識の強さ。


 ほんの一瞬だけ、檻に対しての注意が逸れれば良い。


『解析する者』によって看守全員が浅い睡眠状態になったことを確認して檻の前に立ち、霧化を使い隙間から侵入する。


 真っ直ぐの一本道を歩けばそのまま囚人のテリトリーに続く。


 この世界において、服装とは露骨に身分を示する役割がある。逆に服を見れば社会的な階級がすぐに分かる。


 囚人服──制服以外では社会的な身分を表すのに元の世界で特にポピュラーなものだろう。


 囚人という立場上、一目で分かる必要があり派手な色や模様などで囚人であると表すデザインがされている。


 このシャイナ王国にて、刑務所というものは表向き存在しない。何かしらの犯罪があれば着の身着のまま逮捕され、すぐに裁かれる。


 一時的に収容される牢屋には更生施設というニュアンスは含まれていない。よって囚人服はない。


 暴動を起こした囚人が要求した物資の中には新しい服もあり、アウルムはその一着を拝借した。


 顔をマスクで変えようが、自分は囚人であると囚人に理解させるには、最低限の装備として囚人服が必要だった。


 黒の長袖、腕の部分に黄色の線が入っているものが、奈落における囚人服のデザインだった。


 闇の神の象徴の双月から来ているのだろうが、こういうところにも宗教的な善と悪の認識が入り込んでいるのだなと、闇の神の使徒であるアウルムは、まるで悪者扱いされているような気になり苦笑いをする。


 薄暗い道のなかですぐに着替えてパッと身は薄汚い囚人に見える。


(問題は囚人にバレないかだな……中にいる人数や管理体制にもよって話が変わってくる。こればっかりは出たとこ勝負か)


 新入りは注目の的になるのが刑務所という場所。まるで最初から居たかのように周囲に認識させなくてはいけない。


 どういった場所なのかは詳細が不明であり、アウルムにとってもリスクの高い行動ではあった。


 何かあればすぐに離脱可能とは言え、手ぶらで帰りたくはない。失敗は許されない。慎重に動く必要がある。


(ん? 急に騒がしいな……なんだ?)


 道を進んでいくと奥の方から男たちの声が聞こえてきた。怒鳴り声や笑い声、ヤジのようなものも飛んでいる。


 何が起きているのかと、隠遁で姿を消して道の先に出てみると、更に下の方に空間があり意外にも立体的な牢屋が並ぶ想像以上の規模がある開けた場所に出た。


 アウルムが現在いる場所は奈落の一番上。恐らく、平常時はここに看守がたち、全体を把握するだろういう見晴らしのいい場所だった。


 両サイドに牢屋が並び、中央はくり抜かれて、5階下に広場のようなスペースがある。


 そのスペースにアウルムと同じ黒と黄色の線の囚人服を着た囚人たちが集まり、その真ん中に二人の男が立っている。


(決闘か……それを見世物にしてんのか?)


 全員が囚人服と魔力を封じる枷を首にはめられており、素手による殺し合いが娯楽として消費されていることは一目瞭然だった。


 そして人数だが、アウルムの視界に入ったのは235人。看守の姿は見えなかった。


(にしても、思ったよりも大規模だな。人種はシャイナの平民よりも比率はやや白人系が多い……ドワーフやエルフの妖精系、ビースト系もいるのか)


 全て男ではあるが、人種に極端な偏りはなかった。


 ただ、刑務所という性質上なのか同じ人種でグループになっているのは、『解析する者』を使うまでもなく顕著だった。


 ひとまず、姿を隠しながら決闘を観戦した。


 誰が仕切っているのか、この場の弱い属性とは何なのか、集団における力学を知る為だ。


 アメリカの刑務所などでは有名な話ではあるが、囚人にもランクがある。小児性愛者、元警官などは最下層のグループに属しリンチされたり殺されたりする。


 マフィアのボスやシリアルキラーは尊敬され比較的安全なポジションにいる。


 アウルムとしては犯罪者に上も下もないだろと思うのだが、刑務所という一般社会から隔絶された特殊なコミュニティの中では、常識は通用せず彼らの中の流儀がある。


 異世界の刑務所となると、その流儀もまたアウルムの知っているものとは別なはずで、それを知ることこそがここで上手くやっていく条件でもある。


(そもそも、こいつらの罪状は何だ? 一体何をしたら通常の処罰ではなく、こんな特殊な秘密施設に送られる?)


 鑑定によって殺人を犯したことがあるなどという情報は表示可能だが、経緯についてまでは分からない。個別に聞き取りをしていかないことには、奈落の存在意義も分からず、シュラスコというブラックリストについても情報を得ることが出来ない。


(一般房と独房があるのか、この辺りは普通の刑務所と同じだな……)


 一部屋に二人、二段ベッドの牢屋はアメリカでよく見られるスタイルだった。


 現在は暴動中ということもあり、一般房全てが解放され囚人たちは自由に出入り出来るようになっているようだ。


 独房は更に下のフロアにあるようで、目視は出来ていない。


 また、集まっている囚人が一般房、独房どちらに元々いたのかも分かっていない。


(前途多難だなこりゃ……だが、この人数なら一人増えてもバレないかも知れないな。独房にいたってことにすりゃ、顔を知らなくても不思議ではない……か?)


 先行きの不透明さに漠然とした不安があるまま、観戦をしていると、殴り合っていた男の一人が顎を撃ち抜かれて倒れた。


「……まだだ、殺すまで終わらねえッ!」


「クッ……同房のダチなんだぞッ!」


「関係ねえ、掟には従え」


「殺れ……殺れ……」


「「「「殺れッ! 殺れッ! 殺れッ!」」」」


 一人の呟いた声がやがて大きくなり大合唱となる。


 勝負ありかと思ったが、この決闘はどちらかが死ぬまで終わらないらしい。涙を流しながら決闘に参加していた男は気絶した同房の友人の首の骨を折る。


(気分が悪いな、だがここを仕切ってるやつは分かった)


 短い暗めの金髪をした大柄な男が殺すことを命じており、すぐ近くには参謀や用心棒タイプの取り巻きがいる。


 ルシウス、と鑑定では表示されている。ステータスはこの場にいる囚人の中では一番高い。


 実力でこの場を支配しているのだろう。


(しかし、ボスが一番強いってことは組織の中では意外とないんだがな……腕力よりも恐怖のコントロールやカリスマ性のあるやつが適性があるもんだが、この奈落独特の秩序なのか?)


 経験則的に、冒険者のパーティ単位、騎士団などであれば一番強い奴がボスとなるのは分かるが、戦闘がメインでないのであれば、必ずしも強さは必要なものではない。


 決闘が終わり、囚人たちは解散してバラバラに動き出す。意外にもそれは秩序的な行動に見えた。


 ルシウスが秩序を作ったのか、元々なのかはまだ分からないが常に殺し合っているというわけではなさそうだった。


(このタイミングで紛れ込むか)


 下に降りて変装したアウルムと同じような人種のグループの群れに混ざるように歩いていく。


 ちょっとした会話や仕草も学んでおく。


「おい」


(早速バレたか?)


 アウルムの方をチラッと見た男が声をかける。緊張が走るが顔には出さずに相手の反応を見る。


「ゴナがどこにいるか分かるか?」


「……さっきあっちの方で見たな」


「あ〜いたいた」


 知り合いを探していただけのようで、特に怪しまれることはなく、安堵する。


 咄嗟に『解析する者』を使用してゴナに該当する人物の場所を表示して把握し、難を逃れた。


 話しかけられただけで、一瞬だが注目が集まってしまった。見ない顔だと指摘されるかと焦ったがすぐに興味を失ったのか指摘する者は出なかった。


 そのまま気配を消して独房エリアに向かい隠遁で再び様子を探る。


 光と水の魔法を使い、動かずに独房の中を一つずつチェックしていく。


(独房の連中も解放されてるのか……?)


 誰もいない牢屋が多く、鍵もかかっていない。


(一番奥の独立した部屋……独房じゃないな、物置か? 誰かいるな)


 独房ではなく、本来は牢屋として使われていなかったであろう、一畳程度の部屋に小さくうずくまっている薄汚い男がいることが分かる。


 後は鍵のかかった独房に3人の男がそれぞれ入れられている。すぐに囚人ではなく人質にされている看守だと分かった。顔は部屋の中が暗くてよく見えなかったが、服が違った。


 階段を降りてくる音が聞こえたので、魔法を消して大人しく隠れる。


 ルシウスを先頭に取り巻きたちが独房エリアに歩いてきた。


 どうやら、独房を個室として利用しているらしく地位の高いもののみが独房を使い、後は一つの一般房を共有する仕組みになっているようだった。


「おい、生きてるか確認しとけ」


「おう」


 ルシウスが取り巻きの一人に声をかける。鍵のかかった独房と物置きの窓から4人の男の様子を確認する。


 全員が手足を縛られて猿轡をされている為、自殺はないだろうが、念の為の生存確認をしていると思われる。


(看守は分かる。物資の為にも活かしておいた方が良い。だが、物置の方の男だけは囚人だが扱いが違う。何者だ?)


 鑑定するにしても直接目視しないことには詳しくは分からない。魔法を使って光をねじ曲げると見えはするが鑑定が有効にならない。


 もしそれが出来れば一歩も動かずに城の外から城の中側の監視が出来るのだが、そこまで上手くはいかない。


 あの物置きに入れられた男には何かがある。話を聞きたい。

 しかし、次にルシウスの一派が独房エリアを出るまではここでは動けない。


(まずは一般房で情報収集をするか……いや、待てよ。シュラスコは拷問をどこでしていた? それらしき場所は無かったが……)


 一般房エリア、その下には独房エリア。もう一つ下の階にあるのかと思いきや、下に続く階段などはない。


 独房エリアが最深部のようだ。


(隠し通路や扉、そんなものは無かった。拷問室や拷問道具も……出て行った時に持って行ったにしても痕跡は残っていそうなものだが……いや、待てよ。そういえば拷問されたような傷を負ってる囚人なんか居たか……?)


 昔の怪我の痕や隻眼の者はいたが、日常的に拷問をされたような形跡のある囚人は居なかった。


『解析する者』はあることを表示は出来るが、ないものをわざわざ教える機能はない。


 アウルムが思考することで自分から気付く必要がある。


(肉体的な拷問では無かった……? 例えば俺の『現実となる幻影』のような精神攻撃だったのか? いや、看守の口ぶりからして残忍な性格だったはずだ。とすれば客観的にその恐怖が理解しやすい方法、直接的な拷問のはずだが……これは体験した者に聞くしかないな……)


 アウルムは一般房エリアに戻った。

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