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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
6章 ライダーズオンザストーム

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6-13話 虎穴に入らずんば虎子を得ず


 シルバとラーダンが砂漠に飛ばされた一方で、王都は混乱の極みに達していた。王国祭は中止になり威信は傷つけられ、復興も進まぬまま3日が過ぎていた。


「汝、ヒカル・フセ、レイト・ニノマエの此度の騒ぎに助力したか、否か」


「否」


「汝、シャイナ王国、王家に仇なす意思をもって此度の騒ぎに何かしら関与した自覚があるか、否か」


「否」


「……行って良しッ!」


 薄暗く、互いの顔の見えないほどの小さな部屋、部屋というよりはむしろ箱と言ったほうが正しいか、カトリックにおける告解室のような場所でアウルムは審問を受けていた。


 真偽官と呼ばれる嘘発見器(ポリグラフ)のようなスキルを持った専門職の者たちに質問がされる。


 今回の騒動を王家は非常に重く見た。互いに相手が誰か分からない仕組みであり、それはつまり、国に敵対する行為をしたと判定されれば、如何なる身分に置いても罰せられるというほどの厳重な審問だった。


 ヤヒコがフリードリヒに対して相当に威圧的な態度を取り、勇者と王国の関係もかなり悪化しかけている。

 他国への牽制でもある勇者を数多く抱えているからこそ、近隣諸国よりも優位な立場を取れているシャイナ王国としては都合が悪い。


 これを機に立場をハッキリさせる必要があると上層部は判断したようだ。貴族にしては異例の速さで決定された。通常は少なくとも1ヶ月はかかるだろう案件であることを考えれば、どれだけ王族が焦っているのかが分かる。


(にしても、カイトの土地をくり抜く行動は驚いたな。対人だけじゃなく対軍レベルの火力を出せるとは危険過ぎる。

 あれとそこそこ渡り合ったニノマエはかなり強かったと言っても良いだろう。

 もっとも、パーティの連携の強さを改めて認識させられた戦いとも言える。

 相性的には俺とシルバなら勝てただろうがな。『不可侵の領域』に篭って『破れぬ誓約』か『現実となる幻影』のコンボでほぼ勝てる。

 カイトの『界刀』で結界が破壊される可能性を考えたらカイトと戦うのは現状リスクが高過ぎることも分かったのは大きい)


 カイトとニノマエの戦いを回想する。あれが敵に回ると流石に苦労する。単純にパーティという人数の不利も厄介だ。


 現状は敵対していないと立場を明らかに出来たのはメリットも多少ある。


 今回された質問の内容は非常にシンプルで、例えば『国にとって不利益なことをしたことがあるか、否か』のような漠然とした質問はない。


 何故ならば、誰であれ大なり小なり悪事は働いているからだ。貴族として探れて痛くもない腹などあり得ない。


 全く関係のない話で罪人として断罪されてはたまったものではないと、今回の事件に関与したかどうかという限定的な質問をすること、と会議で決められた。


 これに関してはどの貴族としてもまずいと思ったのだろう、過去の罪まで審問しない方向に誰も異を唱えなかった。


 アウルムもまた、キラドの部下、会議や警備に参加した要員として審問を受けることを命じられた。実際、ニノマエやヒカルに対しては助力どころか、対抗していたのでこの審問を受けることに何ら問題は無かった。


 事前に質問される内容も把握していたし、都合の悪いものであれば雲隠れするか、幻術でどうとでもなっていた。


「さて、ホコリなど叩けばいくらでも出るだろうが、現実を直視出来るのかね、この国は」


 アウルムの考えではそれなりの数の貴族が罰せられることにより、各所のバランスが崩壊するだろうと予測している。


 特に王位継承に関しては酷い混乱具合だ。


 第一王子と第二王子の継承争いは王国祭までは第二王子、フリードリヒが優勢との見方があった。


 しかし、蓋を開けてみればニノマエ、ヒカルのテロ行為により王都の治安を維持する役割は果たせていなかった。


 国家治安警備局、文字通り国家の治安を維持するこの国の警察機構は第二王子のフリードリヒが大臣に就いている。


 一方、第一王子のヴィルヘルムは軍の大臣、つまるところ総帥という立場にあり、両者は国内、国外それぞれの統括をしている。


 魔王は既に滅び、平和な世が訪れたことで現在の軍の影響力は徐々に弱くなっており、逆に国内の治安維持をする警備局が力を強めていたという背景がある。


 そこに、テロを防ぐことが出来なかったという大きな失点によって、第一王子派閥が息を吹き返したのである。


 王宮内の権力闘争に関わるつもりはないアウルムではあるが、客観的に見れば第二王子派閥の人間ということになってしまう。


 テロ対策会議では発言などしたこともあり、キラドからも審問を受けて欲しいと頼まれた。本来はそういった責務を免除されるという契約ではあったが、シルバが行方不明になってしまっている現状では、拒否をするのは賢い選択とは思えなかった。


 ここで妙な勘ぐりをされては困る。


 ***


「そうか……無事終わったか。それにしても冬蝕の方は心配だな」


「死体も痕跡も無かった故、追跡して、どこかで生きてはいるはずですが……」


 アウルムの審問に問題無しと廃墟にてキラドに報告をしにいくとホッとした様子だった。

 キラドとしても、まさかとは思うがシルバがヒカルの一味だったという疑念はあった。相棒のアウルムが無罪となると、その可能性も限りなくゼロになる。


 ただ、やはりどうしても疑念は残る。厄介なことをしてくれたとアウルムも内心は面白くない。


 それだけでもヒカルは殺したいと思う。


「して、夏蝕よ今後はどうする?」


「緊急時に落ち合うポイントなどは事前に決めております、取り敢えずはそこに向かい捜索しようかと」


「う〜む、其方らは完全な外部の人間故に、どの派閥の息もかかっておらんからな……手放すのは惜しいな。此度も無理を言って協力してもらっている手前、我儘というものか」


「いえ、正当な評価を頂いていることはありがたく思っていますが本来は旅の身ですので」


「そうであったな。並の文官以上の知性を持っておるのでつい忘れてしまう時がある。此度の騒ぎ、他国が裏で糸を引いていたのであれば其方らを真っ先に疑っていたがな」


「…………」


 キラドの猛禽類のような鋭い視線と洞察に富んだ一言にアウルムは答えを一瞬迷った。


「私を甘く見るなよ、調査官を束ね諜報を専門とする副大臣ぞ、シャイナの言葉をいくら巧みに使おうとこの国出身でないことくらいは分かる。密偵の可能性もあると思い泳がせておった面もあるからの。

 だが、逆に今回の一件でそれに関しての容疑はほぼ晴れた。安心せい」


(『ほぼ』晴れたか、上手い言い方だ。食えないおっさんだな、やはり。実務をこなし実質的に警備局を差配する副大臣は伊達ではないか……)


 妙な真似をするなよ、と暗に言っている。異国の出身であるということは家の息がかかっておらず、派閥争いに関与していない。

 しかし、間者である可能性はある。そのリスクと天秤にかけても現状は有用であり恩もあるということで、深い詮索はされていないだけだと釘を刺された。


「まあ、良い。脅すような物言いはしたが成果は評価している。此度は助かった。受け取れ」


「……ありがたく頂戴します」


 渡されたのはかなりの重みのある袋。金貨のジャラと音がする。


(あるとこにはあるんだな、やっぱり)


 貴族といっても経済事情はピンキリであるが、副大臣かつ、領主であるキラドの報酬の額は割とバカにならない額だ。


「忠告しておく。この先、旅の道中で軍には調査官の身分を明かして現場に入るのはやめておけ、もとより犬猿の仲であったが今は特にだ。

 軍の中にも妙な企みをしておる奴は多い……ヴィルヘルム殿下の黒い噂も耳にしたことはあるだろう」


 真面目な顔つきで、キラドはアウルムに忠告をした。関係上、軍人の縄張りを荒らせば派閥間の問題になりかねず、出来るだけ関わるのは避けろと。


 そして、ヴィルヘルムには黒い噂がある。残虐な性格で無実の人間をかなりの数殺しているという噂だ。


 今のところ、確たる証拠はない。敵対派閥の情報操作かと思っていたが、第二王子派閥のキラドがアウルムに対して警告するのだから、どうやらそうではない。


 特に子供を攫い、秘密の場所で殺しているというのだから、これが事実であれば大スキャンダルだ。


 立場が立場なだけに、手を出すこと自体が難しく軍所属ということもあり、警備局としても噂程度にとどまっている。


(ヴィルヘルム……噂が事実なら、やってることはジル・ド・レに近いな)


 ジル・ド・レ──ジャンヌ・ダルクと共にフランスの百年戦争にて活躍した救国の英雄。


 ジャンヌ・ダルクの死後はその喪失感からか、正気を失い少年を何百人という数殺したと言われている。


 最期は火刑により処刑された。


 ジル・ド・レはジャンヌ・ダルクと共に戦い晩年は精神を病んだ末の悲惨な末路を辿った人物として知られているがアウルムは彼をシリアルキラーとして見ている。


 戦争中に人を殺すのではなく、一定の間隔を置き、特定のターゲットを狙い何度も犯行を繰り返すという行動はシリアルキラーそのものである。


 ジャンヌ・ダルクの喪失という要因などもシリアルキラーと判断出来る理由がいくつかある。


 ただ、過去の人間を死後プロファイリングするというのはある種の御法度であり、断定は出来ないが行動から学ぶところはある。


 実際、ヴィルヘルムは妻を病で失っており軍人であり、ジル・ド・レと被る点は無視出来ない。


 だからとは言え、アウルムが出来ることはほぼない。あくまで勇者を殺すのが使命であり、シャイナ王国の内情にそこまで干渉する義理もメリットもない。


 しかし、純粋な興味はある。シリアルキラー、異常犯罪をする人間の行動や心理についてはいくらでも知っておいて損はない。


 今まで本としての知識しかなかったが、実際に分析し、追跡し、殺し、少しずつ知識が実践的なものとして身についてきた。


 膨大なデータの蓄積によって分析の精度が上がっていく。


 また、王族などの身分制度や魔法の存在、宗教、元の世界には無かった要素も絡んできてそのまま当てはめることも出来ない。


 この世界で通用するプロファイリング理論とデータを磨かなければ致命的な読み違いをする可能性は常に危惧している。


(軽く情報を集めるくらいはしておくか……)


「肝に銘じておきます。また、旅の道中で何か情報を掴めばご報告させて頂きます。では、そろそろ……」


「ああ、どこに向かうかは知らぬし、聞きもせぬが気をつけろ」


「……はい」


(流石にまさか、俺が奈落に向かうとは思うまいな……)


 シルバとの合流地、バズベガにはカメリアとKTの2名のブラックリストの勇者がいる噂がある。


 KTはケンイチを殺した相手だ。それにラナエルたちを奴隷として売った者たちと繋がりがある。


 KTはまるで尻尾の掴めない謎の犯罪組織を乗っ取った。


 その犯罪組織は現在は『オーティス』と呼ばれているがまだ全容が掴めていない。


 その手がかりを掴むため、犯罪者の終着地『奈落』に潜入する予定だ。餅は餅屋。奈落に収容されるレベルの重要な犯罪者であれば持っている情報もそれなりに期待が出来る。


 複雑な迷路の地下を『解析する者』でマッピングし、看守を『現実となる幻影』で欺き、何かあれば『虚空の城』で脱出可能なアウルムだからこそ、実現出来る作戦。


 ミアにはバズベガの軍資金を稼ぐ為に冒険者ギルドで依頼をこなしてもらうことになっている。

 あまりに無謀な発想なので、ミアには難色を示された。だが、女のミアでは協力出来ない場所で出来ると言えるだけの根拠があると説得して納得させたのはつい昨日の話だ。


「刑務所は犯罪の学校って言うからな……これもはや『学園編』と言っても過言ではないな……あ〜ネタが通じるやつがいないって意外にキツイな」


 キラドと別れ、誰もいない路地裏でアウルムは寂しく呟いた。

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