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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
6章 ライダーズオンザストーム
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6-6話 バムッカ神殿



「ドォワアアアアッ!? なんちゅーことすんねんクソガキどもがぁッ!」


 砂漠というのは平坦な道ではない。小さな丘が連続しているような立体感のある斜面を飛び越え、爆風に曝されながらシルバは疾走する。


 そのシルバに続いてスポーツバイク、オフロードバイク、バギー、トラックなど合計7台が追跡する。


 パイド・ライダーは『爆裂槍』と呼ばれる、車の燃料にもなる素材を利用した独自の武器を使い攻撃を繰り返していた。


 カーチェイスというものを体験したことのないシルバは気が付けばあっという間に四方を囲まれることになる。


 連携力に翻弄されながら、なんとか攻撃を回避するのに必死だ。そもそもバイクに乗ればスピードこそ出るが戦闘における回避については素人でしかない。


 整地されていない道を走るのに慣れた集団相手では不利だ。


「マスッ! もっと寄せろよせろッ!」


「分かってるってぇ〜ッ! へへっ! 人間の獲物を追うのは久しぶりでワクワクすんなあッ!」


「こいつ結構運転上手いぜ! ルルーの壊れたバイク拾って修理したのか!? 」


「フォオオオオオッ! 弾けろォオオッ!」


「そいつは俺のだあアアッ! 俺のバイク返せえええっ!」


 少年たちはシルバと並走しながら興奮気味に狩りを楽しんでいる。


 鬼ごっこをしているような、年相応の顔つきで目をキラキラと光らせながら次々とシルバに爆裂槍を投げる。


 上半身裸の姿に、皮のベルトやジャケットを羽織るその肌には傷の痕が大量にある。中には眼帯をしている者もいる。


 バンバンとドアやボンネットを叩きながらはしゃいで爆裂槍を投げ続ける。


「こいつら! ガキのくせに肩めちゃくちゃ強いやんけ!? 砂漠のモンスター狩ってレベリングしてやがるな!」


 シルバを追っているパイド・ライダーの平均レベルは約30。


 騎乗スキルと投擲スキルが高い。


 まだ身体の完成していない子供であっても、その見た目からは想像出来ないほど鋭い投擲を行いシルバを徐々に追いつめていった。


「バイクだ! バイク狙って足を止めろ!」


「パイド・ライダー舐めんじゃあねえぞぉッ!」


「退魔石積んでねえからこの砂漠で転けたらソッコー餌食だぜェッ!」


(あかん、このままやとマジでジリ貧や……! ガキやからって手加減してたらリーシェルたちが手遅れになるかも知れんぞ……!)


「食いやがれッ!」


 シルバは後方に風刃を放つ。直接は当てない。進行方向の足元を狙い、転倒させることが目的だ。


 ボフゥッ! ──っと、大きな衝撃で砂が舞い、バイクの一台が視界を塞がれたことで目論見通り転倒する。


「ギンッ!?」


「あいつ魔法使いやがるぜ! 注意しろ! 距離を取るんだ!」


 その光景を見て、パイド・ライダーたちはシルバから離れていく。


「直接当てなくて良い! こかすんだ!」


「同時に投げろッ!」


「1、2の3ッ!」


(ヤバいッ!)


 四方から同時の攻撃、シルバ自体に深刻なダメージはないものの、衝撃によって地面が変形する。


「うおああああっ!?」


 前輪が凹んだ穴によって引っかかり、車体方向が慣性によって一気に持ち上がる。そのエネルギーは乗り手のシルバにも伝わり、シルバは宙を舞い、投げ出される形となった。


 時速100km以上の高速運転によるエネルギーは着地後も消えず、シルバは砂の上を何度もバウンドしながら転がり続ける。


「アダダダッ! ダァッ! ア……アッツゥ〜〜〜ッ!」


 摩擦によって生じる熱に加えて、日光によって生卵に火が入るほどの砂の熱さにシルバは悶絶する。


 通常の人間であれば、皮膚はズル向けになっているような勢いの事故現場だ。


 高いステータスだからこそ、かすり傷で済んだが打ちどころが悪ければ首の骨だって折れていた可能性もある。


「バイク壊せえ〜ッ!」


「うおおおっ! やめろおおおおおッ! せっかく修理したんやぞおおおおッ!」


 シルバは手を横に広げながら、頼むからバイクを壊すのはやめてくれと懇願する。


 それを面白そうにニヤリと笑い、パイド・ライダーたちはシルバを無視してバイクに殺到する。


 ──そして、シルバのバイクに5本の爆裂槍が突き刺さり、爆発による熱風と共に金属片がシルバの頬を掠めた。


 更には、エンジンに火が上がり、燃料タンクにも引火、もう一度大きな爆発を呼ぶ。


「あぁ〜ハッハッハッハッ!」


「ぶっ飛んだぜぇ〜ッ!」


「俺たちに逆らうからこうなるだよ間抜けがァッ!」


「モンスターのご飯になるのを怯えて待ちなぁ!」


「アラアバブまではどんだけ頑張って走ったって夜までには着かねえぜっ! ざまあ見ろッ!」


「撤収だァッ! こいつにこれ以上用は無い! 基地に戻るぞ〜!」


「「「オオ〜ッ!」」」


 パイド・ライダーたちは捨て台詞を吐きながら、シルバの横をすり抜けて走り去っていく。


「ま、待ってくれ〜! おいて行かんといてくれ〜ッ! 一人で死ぬのは嫌や〜ッ!」


「あいつ泣いてやがるぜ」


「いい歳してダッセェ!」


 シルバは彼らを走って追いかける。しかし、人の足で追いつけるはずもなく、しばらくするうちに姿は見えなくなる。


「……な、訳ないやろうがッ!」


 シルバはカーチェイスを不利と悟り、諦めた。自分が死ぬまで追い回すであろう彼らを相手し続けるのは時間の無駄だ。


 となれば、やられたフリ。これが最適と判断した。


 バイクさえ、壊せばこいつはそのうち死ぬ。砂漠でバイクや車を使い移動している彼らだからこそ、その恐ろしさは理解している。


 その心理を利用させてもらった。


 確かにバイクを壊されたら、移動手段を失いそのうちモンスターに襲われ続けて死ぬ。


「俺は何回でもバイク直せるんじゃアホガキどもがっ! 待ってろ……リーシェルたちの安全を確保したらキツ〜イお仕置きや。

 洗脳されてるかは知らんけど、殺しを楽しむようなやつにはお灸を据えたらぁッ!」


 シルバは燃え盛るバイクに方向転換して、消火活動を始める。


「おっと……水魔法はあかんのやった。風魔法で酸素を奪ってと……よし、消えた。

 あーあー、ボロボロやんけ……『非常識な速さ(マイ・ペース)』で手早く直さんと……」


 火を消して、破損箇所に手を当てる。1分ほど前の破損であれば瞬時に復元が可能。


 僅か、30秒でバイクを完全に修理してアイテムボックスから燃料を補給する。


「よし、あいつらは俺が死んだとてっきり思ってるやろう。追っ手が来たという緊張、そしてそこから迎撃成功という感情のジェットコースター。安心による緩みで油断してるはずや」


 その場その場で、臨機応変に作戦を変更して最適解を見つけるという柔軟さによってシルバはパイド・ライダーの追跡を撒くことに成功した。


 後は轍を辿り、バムッカ神殿に近づくだけ。


 ***


 日が沈み、周囲が暗くなる頃、数時間かけてシルバはバムッカ神殿に到着する。


「日が沈む前に間に合って良かった。いくら砂煙が見えんくても、ヘッドライトはバレるからな……にしてもデカいな……」


 バムッカ神殿をシルバは見上げる。何かしらの宗教的な施設だったのだろう、という立派な神殿はエジプトのアブ・シンベル神殿を彷彿とさせる佇まいだった。


 二体の顔部分が風化によって破損した像が向かい合った神殿の前には、いくつもの自動車やバイクが出入りした形跡がある。


「ちゃうちゃう、異世界観光しとる訳じゃ無いんや。リーシェルを探さんと……見張りは無し、舐めてんのか、自信があるのか……後者やろうな」


 像の影に隠れながらパイド・ライダーのアジトに侵入する。丁度、日が完全に地平線に隠れて、一気に暗くなった。


(奥の方に明かり……このまま進むか、周辺の探索か……)


 ──エコロケーション。


 シルバは一度舌打ちをする。神殿の中をぶつかり反響する音から、全体像をザックリと把握。


(固まっとるな……笑い声あげながら酒盛り、なんてイメージやったがそれにしては静かや……)


 奥の方でざわめきはあるが、大騒ぎではない。慎重に、気配のする方向へ足を進める。


「──ッアアアアアッ!」


「ッ!?」


 女の甲高い泣き叫ぶような悲鳴が神殿の中に響いた。


 反射的にシルバは腰の剣を掴む。


(……拷問? とにかく状況はあんまり良くなさそうや)


 誰が叫んでいるのかは分からないが良い知らせではない。シルバは先を急いだ。


 炎の光が見える。ユラユラと入り口から来た風で瞬きながら、ボンヤリと周辺を照らす。


 影の中に潜むシルバは驚くべき光景を目にした。


 目と右腕と両足の無い少女の腹がはち切れそうなほど膨らみ、その彼女を拉致されたリーシェルと主婦が出産の手伝いをしている。

 祭壇と思われる一際高い階段の上の台に乗せられた少女は涙を流していた。


 その様子をパイド・ライダーの少年少女たちはジッと互いの手を握りながら、固唾を飲んで見守っていた。


 悲鳴は出産の激痛に悶える少女のものだった。そして鑑定ではその少女の年齢は13歳。


 いくら日本に比べて結婚や出産の平均年齢が低いとは言え、13歳の少女の成長しきっていない身体には負担が大きい。


「うああああっ! 死ぬッ! 死にたいッ! 殺じでッ……」


 泣き叫ぶ少女と、パイド・ライダーの奥に車椅子に座った、ドクロの左側だけ頭部の欠けたマスクの隙間からはみ出して見える黒髪の男がいた。


(あいつがマキナ……)


 鑑定では『???』と表示され、マキナであることが確定する。


 マキナのズボンは膝から下の部分が厚みがなく、そこから足が不自由なことが分かる。


(プロファイル通り、身体障害者やったな)


 マキナ自身もパイド・ライダーたちと同様に傷が目立っていた。そしてその眼には世を恨む者特有の昏さがあった。


 マスクで明かりが届いていないせいではない。痩せて、落ち窪んだ眼窩に光はあらず、そして燃える炎のような強い意思を持った両目で、出産に臨む少女をジッと静かに見ていた。


 ***


 難産だった。シルバは影の中からジッと様子を伺っていた。下手に動けば母子共に危険に陥る可能性がある。


 何も出来ないのを悔しく思いながら、ただひたすら耐えた。


 夜が開け出した頃だった。少女とともに額から汗を大量に流すリーシェルが叫ぶ。


「産まれたッ! 産まれたよッ!」


「おめでとう……お疲れ様……」


 リーシェルは取り上げた赤ん坊を見て顔色を悪くする。


 呼吸をしておらず、唇は青く全体的に小さい。


 そして、少女の股からの出血が止まらない。


「血が……リーシェル! あんたは赤ちゃんを!」


 主婦の女はタオルを押し当て止血を試みる。リーシェルは赤ん坊の両脚を掴み、逆さ吊りにして尻を叩いた。


「起きなさい! 死んじゃダメッ! お母さん頑張ってあなたを産んだんだから挨拶しないと! ほらっ! 起きて!」


「何すんだお前!?」


「赤ん坊を叩くなよ!」


「やっぱり『普通の奴ら』は俺たちを虐めるのが楽しいんだ!」


 リーシェルの必死の努力の意図は少年たちには伝わっていなかった。弱い自分たちに暴力を振るう人間と自分たちを赤ん坊に重ね合わせて混乱をもたらした。


 数人はナイフを手に取った。


(マズイっ! 言って聞くような状態じゃないッ!)


 シルバは影から飛び出し、三歩で階段を跳躍して祭壇の前に降り立った。


「『不可侵の領域(マイ・テリトリー)』ッ! お前ら近づくなァッ!」


「シルバッ!? なんでここに!?」


 リーシェルが素っ頓狂な声を上げる。

 突如現れたシルバに豆鉄砲を喰らった鳩のように一瞬硬直があった。そのすぐ後に、強い怒りの籠ったドスの効いた声がする。


「……誰だお前は」


 奥にいたマキナが車椅子を進めながら炎の下に近付いてきた。


「ボスッ! こいつッ……! 追跡してきた奴だ!」


「なんでなんで!? バイク燃やしたのになんで!?」


「……アメド、こいつは街の人間か?」


 マキナはリーシェルに顔のよく似た車椅子に乗るピンク髪の少年に質問する。


「いや……見たことない。よそもんだと思う」


「チッ……薄汚い金で雇われた冒険者風情が立ち入るんじゃねえよ……アメド、ルスカ、タキン、アラアバブをぶっ壊してこい。お前らの街だ。お前らでカタをつけろ。

 俺はこいつを始末する」


 マキナはシルバを睨みつけながら、袋をアメドに投げた。


 それを受け取ったアメドたちは神殿の入り口に向かう。

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