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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
6章 ライダーズオンザストーム
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6-5話 略奪と拉致


 アラアバブの街に来て、5日が経った。この街のどこに何があるか、人々の生活パターンなどおおよそではあるが、傾向を掴んできたシルバは恐らく、数日以内に再び襲撃に来るであろうパイド・ライダーの対策を考えていた。


「では私は留守番だと?」


「バイク乗れへんし、街を守れるやつがおらんからな」


「そもそも、勇者マキナ以外は出来るだけ殺さんで済むなら殺さんようにしたい。もちろん、勇者マキナも説得に応じるようなら殺さんのが一番良い」


「とても現実的な考えとは思えんな。悪人は悪人だ。更生したといくら口で言っても邪悪な本質は変わらんものだぞ」


 ラーダンの言い分も理解している。一度の過ちで人を殺してしまった人間と、自主的に殺し回っている人間ではまるで話が違う。


 本人が仮に殺しをやめたいと思っていてもやめられない。


 だから、俺を捕まえてくれと懇願するシリアルキラーや、罪の意識に耐えられず自殺するものもいるくらい強烈な殺しの欲求をコントロールするのは困難を極める。


 赤の他人のシルバが、やめろと諭して解決するほど簡単ではない。


 説得するにしても『信頼関係』を構築して少しずつ理解を深めるべきだし、それすらも成功するとは限らない。


 ましてや、この街にそんな更生出来るような環境が用意されていることもないし、住民の感情を考えれば誰かが義憤に駆られて殺そうとするだろう。


 シルバ自身も先を急ぐ身ではあるし、そこまで付き合ってられない。


 ある種、殺して解決というのは無責任とも思える。


 しかし、知らぬ存ぜぬで見ないフリをして放置というのも闇の神との約束を反故にすることになる。


 だから──殺す。


 殺すことで、これ以上の問題を増やさない。人を裁くほど偉い立場でもない。無責任ながらの責任の取り方。


 殺して止める。終わらせる。これが現実的な解決策。


「そんなことは分かってる……だから、最後の最後、無理なら責任を持って殺す。その覚悟はしてる……初めっからな」


 初めっから。この世界に来ると決意したその時から。そういう約束でこの世界に生を受けた。だから、やるしかない。


 やるしかないからこそ、殺す相手は見極める。こちらから一方的に断罪はしない。


 その為のプロファイリング。出来る限り相手の行動、心理を分析して理解に努める。


 シルバは剣の柄を握り、離し、握り……己の覚悟を確認する。いつでもその時が来れば、抜く。迷うことなく抜けと自分を鼓舞する。


 ブォンブォンブォンッ!空気の振動が鼓膜を揺らし、その独特の音から、パイド・ライダーが近付いてくるのをシルバは察知した。


 ついに来たか──否、予想よりも早い襲来に引っかかりを覚える。


 予定通り、ラーダンと共に見つからぬよう動きを監視する。


 住民には一切抵抗せず、欲しがるものを渡せと伝えてある。数が多い相手だ。まともに戦えばこちらの被害ゼロでは済まない。


 即時に無力化する方法はラーダンの大出力の魔法攻撃によって可能だ。だが、それではダメだ。それは一線を超えたただの虐殺。


 ボルガ団とは性質が違う。自らの意思に反して連れられたこの街の子供がいる。その中にはリーシェルの弟もいる。


 生きて連れて帰ることを約束した以上、その手は使わないし、使えない。


「マキナ……勇者らしき存在が見えないな」


「御使いは下っ端だけってことか?」


 バイク、それに自動車が隊列を成して10台ほど街の中に入ってくる。


 広場をグルグルと旋回しながら、排気ガスと砂煙を巻き上げて、一団は停止する。


「パイド・ライダーがリーダー! マキナの命令だァッ! 水、食料! 布! 傷薬(ポーション)を用意しろぉ! さっさとしやがれ轢き殺すぞお前らぁッ!」


 隻腕の少年が車のボンネットの上に立ち上がり、住民に物資の提供をさせる。


 鑑定をすると、平均年齢は16歳。シルバからすれば子供だが、この世界では成人として認められている年齢。

 だから自己責任、自分で考えて行動の結果の責任を負わせるべきか、一瞬の迷いがあった。


 やはり、身体的な障害を持った者しかおらず意図的に集められた人材だということが分かる。


 肝心のマキナは今回来ていないので、彼個人のプロファイリングは難しいが、集団特有の力関係などは行動から知ることが出来る。


 気配を殺してジッと観察を続けた。


 打ち合わせ通り、望むもの全てを抵抗せず素直に住民は用意して渡した。


「今のところは異常なし……ッ!?」


 滞りなく、住民は物資を彼らの前に差し出してトラックの荷台に載せていき、今回の襲来は怪我人がなく完了したとホッとしたのも束の間のことだった。


 パイド・ライダーは女性を二人、無理やり乗せて街を飛び出した。


「シルバ、どういうことだ?」


「……すぐに殺されるってことはないやろう。問題は『誰』をターゲットにしたか。あの場には老若男女色んな種類の者がいた。

 でも、女二人。そのうちの一人はパイド・ライダーのメンバーの姉、リーシェル。そして、もう少し年齢が上の主婦。そこから分析や」


「何を呑気なことを……! 拉致されているのだぞ、今すぐバイクに乗って追うべきであろう!」


「拉致されたからッ! 拉致されたってことはあの二人は人質になってしまうっ! 人質の解放、交渉ってのはめちゃくちゃ繊細な仕事になる! 下手に刺激出来ひんのや!」


 シルバはラーダンに掴まれた腕を振り払い怒鳴りつける。こっちだって呑気にしてるわけではないと怒気をコントロールして震えながら答えた。


 人質を取られ立て篭もりなどが発生した場合、交渉役という者が出てくる。


 まずは窓口の確保。人質を取った側の要望を聞く為の電話などによる繋がりを得る。


 知識としては大まかな流れは知っているがシルバは交渉をした経験がない。勿論、教えたアウルムだって知らない。


 一歩間違えれば死なせてしまうというハイリスクな役目をこれから負わなければならないプレッシャーにシルバは軽いパニックに陥りかけていた。


(落ち着け……落ち着け……俺が動揺して下手打ったら取り返しがつかん。こんな時、アウルムなら何を考えるか、どう対処するのか、それを考えるんや……まずは犯行の手口の変化! そして被害者学! ここから答えを探るべきや!)


 集団による犯罪行為の際に注意するべきはそれが個人の意思によるものか、集団の意思によるものかということ。


 不安定な組織はトップの意思に反した行動を取り、瓦解する。そして、人質を取った集団を検挙する側は時として仲間割れを狙う。


 しかし、どうだろう。見事な隊列、拉致時の集団の混乱のなさからして、独断で女が欲しくなったというのはまず考えられなさそうだ。


 勝手なことをすれば、反発する者がいるはず。一言、咎める声が聞こえるはず。


 それは無かった。つまり計画的。意図して女を拉致した。何かしらの理由があって女を必要とした。


 では、その女とはどんな女なのか。


 身内だから? リーシェルではない方の主婦にパイド・ライダーのメンバーは居ない。であれば、身内という線は薄い。


 性欲処理が目的か? 集団の中には少女もいた。


 女がいる組織で女に性的暴力を振るうのは考えにくい。組織全体の年齢からもそれに加担するのは心理的に大きな影響を与える。


 女性のシリアルキラー、犯罪者による性的要素のある殺人は非常に珍しい。統計的にもごく僅かだ。


 自らの保身の為に女を献上するという心理。であれば、組織の規模を考えると二人では足りないはずだ。

 何故、前回、または初回で拉致を行わなかったのか。今回、急に女が欲しくなったと考えるのは不自然だ。


 だとすると、もっと別の理由、女を確保したい事情がパイド・ライダーの中で不測の事態が発生したのではないか。


 女でなければならない事情とはなんだ?


 組織の内の少女たちではダメで、リーシェル、そして主婦の彼女を攫った目的はなんだ?


「シルバ、彼らは布、傷薬(ポーション)など今までに略奪していたという話を聞いていたか?」


「いや、聞いてないけど。他の薬の材料なら奪ったのは知ってるが……あれだけの集団なら怪我人、病人は出る。誰かが怪我したから治療…………違うッ! そうか! もしかしたら……」


 ラーダンの質問でシルバはある一つの仮説に思い至る。


「なんだ?」


「パイド・ライダーの中に妊娠しとるやつがいるんとちゃうか……?」


「産婆かッ! ならば女を拉致したのも説明がつく」


「ここらはアラアバブの街しかない。どうせならもっとデカい国のある方向に向かうべき。にも関わらず、近くの神殿をアジトにして留まってたのは仲間の一人が妊娠してて動かせへんから……ちゃうか?」


「または既に出産は終わっており、赤ん坊の体調不良なども考えられるのではないか? 赤ん坊はこの砂漠で育てたことがない者が生きていくのは辛い環境だからな」


「しかし、そうなると問題は更にややこしくなってくるで」


 シルバの顔色が悪くなっていることにラーダンは気がついた。相手の弱みを知ったのだから、そこをつけば良いのではないかとシルバに聞く。


「あいつらは出産、または赤ん坊の世話出来るやつがおらんか、とは聞いてなかった。ホンマなら、出来るやつに聞いた方が良いし、指示は正確な方が助かる可能性が上がる。

 でも、言わんかった」


「知られたくはなかったと……であれば、助かった後は」


「口封じに殺すやろうな。だから時間がないんや……俺は今すぐあいつらを追いかける。留守番頼んだでラーダン」


 シルバはバイクをアイテムボックスから取り出し、飛び乗った。


 強くアクセルを回すことで車体全部がやや浮き上がるのを体重移動で抑え付け、アラアバブの街を出る。


「こんな何もない砂漠や。追跡はチョロいな」


 風によって作られた美しい自然な曲線の上にタイヤの人工的な轍が残っている。


 それを辿るだけでバムッカ神殿に到達する。バイクを走らせること、30分。シルバは一度停止する。


 轍が二方向に分かれていたのだ。


「……動物が使う止め足? いや、単純に別の用事があって半分は違う方向に行ったか?」


 神殿のある方向から3時の方向に移動していった形跡がある。


 問題は、リーシェルがどちらに行ったか。


「普通に考えたら神殿や。でも、違った場合居場所が分からんようになるのが痛いな」


 神殿にいれば、『不可侵の領域』で保護が可能だ。しかし、神殿に居なかった場合、大幅なタイムロスに加えて、最悪発見が出来ない。


「アウルムの力を借りるか……アウルムッ! 今良いか?」


「どうした? あまり良くないんだが……こっちはこっちで立て込んでてな。手早く頼む」


「──って事情なんやが、俺はどっちに進むべきか知恵を貸してくれ!」


 ことのあらましを説明し、アドバイスを求める。


「神殿だ。仲間割れを起こして離脱したような形跡がないのであれば、別方向に向かった連中も神殿に戻ってくる。お前のプロファイルは俺のとも一致している自信を持て。

 今、このタイミングでその二人を殺すということはまずないだろう。

 死体の捨て場所というのも傾向や心理が現れるものだ。街に死体を置いていたのに、ここにきて砂漠のど真ん中で処分するとは考えられないからな……それよりも警戒すべきは追っ手がいないかの確認の為にお前の背後に回っている可能性だ」


「拉致されたら反発するやつがおるかも知れんってことか……おっと、流石やなお前の読みは『正解』のようや」


 シルバの背後からエンジンの音が聞こえる。


 追跡している者がいるという事実を知られてしまった。

 シルバ目掛けて猛スピードで砂煙を上げながら走ってくる。

 そして、一台のバイクは横に逸れて神殿の方に向かってしまった。


「ヤバいな……俺の存在を知られたらリーシェルたちが危ない!」


「俺からは何も出来ん、健闘を祈る」


「言うのは簡単やでェッ!」


 シルバはアクセルを回して神殿の方に向かうバイクを追いかけた。


(まずはあいつを潰す! そしたら全員で俺を襲ってくるやろう。出来るだけ時間をかけずに制圧して神殿に潜入せんといかんッ! 別部隊が帰ってこんかったら流石に怪しまれるからなあッ!)


 パイド・ライダーの一人を追いかけている時だった。疾走するシルバの背後の砂が爆ぜ、噴水のように砂が空に向かって伸びる。


(地雷ッ!? いやっ、攻撃かっ!)


 サイドミラーで後方を確認すると、槍のようなものを持った少年たちが車の窓に腰掛けていたり、荷台の上に立っていた。


(あれが攻撃手段か!クソッ! 点の攻撃なら剣で弾けるが爆発系の面の攻撃は運転中はキツイぞ!?)


 となると、シルバが取れる手段は一つ。


 回避。徹底した回避一択。


 追うシルバを追うパイド・ライダーたち。


 砂漠のカーチェイスが始まった。

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