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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
5章 エブリバディ・プレイザフール
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5-16話 空を飛ぶ男たち



「カイトォッ! 久しぶrrrルィィッ! やっぱ俺たちの再会はド派手に行かないとなあァッ!? 人間花火は楽しんでくれたかァッ!?」


 ニノマエは空中で叫ぶ。獅子の毛皮のような素材のマントを靡かせて、カイトのいる方向を睥睨した。


 そのカイトは既に抜刀しながら周囲の王族をいつでも守れる体勢に入り慎重にニノマエの行動を観察する。


「陛下……あいつの狙いは俺です。俺の近くにいると危険です避難をしてください」


「う、うむ……聞いたな皆の者。このままでは危険な上にナオイ卿の足手纏いになる警備を固めて避難を開始せよッ! 来賓の御仁たちに怪我をさせることも許さぬ」


「「「御意ッ!」」」


 王と王族、およびその側近、騎士はすぐに闘技場から避難を開始する。こうなることは事前に可能性として共有されており、避難経路も確保されていた。


「この愚か者めッ……」


「殿下ッ! 下がってくださいッ!」


 フリードリヒ王子はその場に立ち尽くし、ニノマエを睨んでいた。

 それをカイトと騎士が窘める。


「危険ですッ!」


「ナオイ卿、警備局の長、そして王に代わり命ずる。奴を殺せ。国に刃向かうなど許されぬ。あの愚か者が何を敵に回したのか思い知らせよ」


 それだけ言い残し、反転してフリードリヒ王子は避難していった。


「……邪魔は消えたようだなぁ。これでサシで話せる……色々積もる話があるよなぁ? どうだ、茶でも飲んで感動の再会、昔話でもしようじゃあねえか」


「昔話……?」


 カイトは内心、ニノマエの言っている意味が理解出来ていなかった。


 なにせ、ニノマエとは大して接した期間がない。思い出もない。


 この世界に来て成り行きでパーティを組み、上手くやっていけないと思ったから正式な仲間入りは諦めてもらった。


 意味不明な理由で逆ギレしたニノマエを抑止して喧嘩分かれ。後味は悪かったが、元々そういう契約だったのだから文句を言われる筋合いもない。


 実際に過ごした期間は1ヶ月にも満たないほどの短期間。


 修学旅行での民泊先の家族程度の浅い関わり──下手すればそれ以下でしかなく、手紙が来るまでその存在すら完全に失念していた程度の関係性。


 だが、ニノマエ本人はあの時のことを鮮明に覚えており、まるで衝撃的な出来事だったかのように語る。


 カイトからすれば、ニノマエと別れた後の出来事の方が濃厚で鮮烈であり、旅の道中で起こったハプニングと比較すれば、同窓会でふと名前を上げられて「ニノマエッ! あ〜そんな奴いたいたッ! あいつ今どうしてるの?」

 程度の反応をする存在でしかない。


 そんな存在が狂気をはらんだ目でカイトを見つめ、関係のない人々を爆死させ、シャイナ国全体を敵に回すようなテロリストと化して現れた。


 意味が分からない。そこまで恨まれるようなことはしてない。大体、失礼な言動が目立ち出来るだけ後腐れのないように丁寧な対応で、パーティ参加を認めないことを伝えた。


 試しに入ってみて、無理そうだったらやめる。というのも事前にニノマエは了承していた。


 こいつは頭がおかしい。


 カイトからすればそれに尽きる。


 だが、それを今は口にしない。彼の発言を否定しない。


 ニノマエから目を逸らさず、周辺視野で周囲の状況を捉えて王族及び観戦者の避難が完了するのを待つ為の時間稼ぎに徹する。


 ある調査官から聞いた性格的に否定しては状況を悪化させるという分析を信じてこれ以上の被害拡大を防ぐのに努める。


「行く先々でお前の話は嫌と言うほど聞いた……英雄として担がれるのはさぞ気持ちが良かっただろぉ……?

 だぁがしかぁしッ! 仲間を追放した裏切り者とは誰もしらねぇ……!

 カイトォッ! これはお前が招いた事態だッ! 5年前の選択は過ちだったなぁッ! 俺がどんな気持ちでこの5年間やってきたかお前は知らんだrrrrrルォッオッ!?

 最強の英雄……? 笑わせてくれる……仲間の気持ちを踏み躙ったクソ野郎がッ!

 認めない……最強の英雄のせいでこんなことになった……! 後悔するんだなぁッ! ええッ! おいッ!?


 ……シズクとの仲も引き裂きやがってこの主人公気取りのボケがァッ!」


「シズク……? 何故ここでシズクの名前が出てくる?」


 パーティから理不尽にも追放され、恨みを抱いているようだというのは話から何となく理解出来た。


 だが、『シズクとの仲』という言葉は意味が分からなかった。


「俺と良い感じだったのに嫉妬して水を差したくせにとぼけるのか……? ふん、男の嫉妬ほどみっともないものはないな……強引にパーティから追放までさせた癖に知らんふりとは笑える」


「……同じ言葉を話しているはずなのに、こうも話が通じないか……疲れるな、あり得ないほど通じない」


「それはお前だろうガァッ! このボケェエーーッ!」


 カイトはニノマエを怒らせた。無意識に出た言葉でない。選んで出した言葉だ。


 時間稼ぎはここまで。既に避難は完了していることを確認した上での発言。


 敢えてニノマエが怒るような言葉を選ぶ。挑発によって集中を乱し感情を昂らせることでミスを犯すのを誘う。


 カイトは剣の腕だけでなく言葉を使った心理的な駆け引きにも長けている。己の剣の実力を過信せずただひたすらに勝利に導く為の地道な努力を怠らない。


 ニノマエのような感情的な相手には怒らせて揺さぶりをかけるのが効果的ということは数えきれない実践で証明している。


「楽に死ねると思うなッ……!」


 ニノマエはカイトに向かい手をかざした。


 その瞬間──カイトに『何か』が飛来する。


 見えない何かが、カイトに向かって急接近することを直感的に理解し、気配を感じ取り数歩移動して回避した。


「ほお……『ステュムパロス』を避けるか、多少強くなったようだな……だが、いつまで避けきれるかなッ!?」


 カイトの元いた場所は『何か』が直撃し、石で出来た地面は砕けていた。しかし、そこには何もない。何も見えない。


 ニノマエが『ステュムパロス』と呼ぶ技か、武器か魔法かマジックアイテムか、何かしらが飛来して攻撃してきたことをカイトは確認する。


 カイトのユニークスキルによって生み出される触れたものを破壊する能力を持つ『壊刀』で破壊が出来たかもしれない。


 だが、闘技場の人間が突如爆発したことを考えれば迂闊に迎撃するのは賢明ではないと判断した上で回避を選択し、ニノマエの攻撃を分析した。


(爆発は……してないな。別の能力か)


 地面は砕けたが、直撃したことによる衝撃であり爆発を伴ったものではなかった。


 つまり、破壊しても問題がない攻撃。カイトは次の攻撃は壊刀の使用を選択する。


(制空権を取られてるのは厄介だな、こっちからの攻撃を届かせようと思えば出来るがここは王都のど真ん中だ。外した時のリスクが大きい。一方であいつはどれだけ被害が及んでもお構いなしだ……やり辛い……)


 能力が不明なまま、迂闊に攻撃は出来ない。ニノマエがどういった攻撃をするのか、それを見極めるまでは派手な戦闘は避ける。


 立場があり、守る側の戦い方の面倒さにカイトは歯軋りをした。


(カイトッ! 街は大混乱だニノマエが現れてめちゃくちゃに暴れてやがる!)


(カイト……ニノマエが……えっ!? ちょっとヤヒコどう言うこと!?)


(えっ!? ニノマエは私のところにいるんだけど……どうなってるの?)


 ヤヒコ、シズク、シズクからのパーティによる念話が同時に繋がった。


(俺だ、今闘技場でニノマエの相手をしてるがそっちにもニノマエがいるんだな?)


(そっちにも!? どうなってんだ!? 影武者か!?)


「いや、分身……だろうな」


 カイトの仲間たちには街の要所となる場所に配置してもらい、どこから何があってもすぐに発見、対応が出来るようにしていた。


 しかしながら、ニノマエはカイトの仲間たちの全員の目の前に現れているという報告が入る。


「多分、ユニークスキルで分身しているんだろう。俺は手が離せない。各個撃破でいけるな? 能力の内容についても分かれば逐一共有するんだッ!」


(((了解ッ!)))


 カイトは念話を終える。


「おいおい、俺を差し置いておしゃべりとは呆れるぜ……そんな余裕があるのかよぉ?」


 声に出していた為、カイトの話していた内容はニノマエにも聞こえていた。


 ニノマエはそれを見て笑い、再び手を動かしカイトに攻撃を繰り出した。


「ステュムパロスッ!」


「壊刀……ッ!」


 見えず音もなく、飛来する攻撃を的確に捉えてカイトはその物質を破壊する。


「『カイトォ』だあッ!? お前攻撃に自分の名前つけてんのかよダッセェ〜〜〜ッ! 痛すぎんだろ!」


 ニノマエはそれを聞いてケタケタと空中で笑い転げた。


「……笑ってる場合か?」


「何ィッ!?」


 笑うニノマエの目の前にカイトがいた。一瞬、ニノマエが目を離した隙に跳躍して距離を詰めて剣を振りかぶっていた。


「ステュムパロスッ!」


 ニノマエはすぐに攻撃を放つが、その全てをカイトは空中で破壊し無力化する。


「一度に出せる数は限られてるようだな……」


 カイトは振りかぶり、ニノマエを斬るモーションに入る。


「馬鹿がっ! 忘れたかッ!? 俺に武器によるダメージは与えられねえぞっ!」


 カイトが唯一知っているニノマエのユニークスキルの能力。1日に1度だけ、武器による攻撃を完全に無効化する。

 対して、カイトの圧倒的な強さの能力の唯一の欠点とも言える、剣による攻撃しか出来ないという縛り。


 これがあるからこそ、ニノマエはカイトに対して強気で出られる。

 カイトに対してメタ的な能力を持っているからこそ、ニノマエはカイトを特別視していたのかも……と、カイトはやや思っていた。


『1度』の判定は一太刀浴びせれば解除とはいかず、持続時間がついたものである。


 それが1度発動してしまえば、ニノマエは一時的にカイトに対して無敵になる。攻撃が効かなければ、カイトの攻撃中にも隙が生まれてしまう。

 だからこそ、カイトは迂闊に直接的に攻撃はしてはいけない。


 ──と、カイトは考えるはずとニノマエは考えていた。


「ああ知ってるさ……ここじゃあ本気でお前を斬れねえからな……ぶっ飛びやがれッ! 『拐刀』ッ!」


『拐刀』──カイトが持つ能力の一つ。これを相手に使用するとダメージこそ与えられないが、任意の場所に強制的に移動させることが可能である。


 拐かすという言葉は『人を無理に連れ去る』という意味がある。


「な、なんだぁ〜〜ッ!? 身体がッ! 引っ張られるぅッ!?」


 ナイフほどに刀身の短くなった剣を振るとニノマエはダメージこそないがグンッ! と身体をつままれたように引っ張られ、慣性により身体がくの字の曲がりながら、闘技場の彼方へと飛んでいく。


 それを見たカイトは自身にも剣を振り、ニノマエを飛ばした場所へと移動をする。


 既にもぬけの殻となった闘技場はガランとしており、周囲の悲鳴や怒号が聞こえてくるほどに静寂を保っていた。

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