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ブラックリスト勇者を殺してくれ  作者: 七條こよみ
5章 エブリバディ・プレイザフール

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5-15話 原初の実の欠点



 時は爆発から数分前に遡る。


「お師匠とやらが参加してるのか? どれだ」


「ほら、あれ……」


「……あれか」


 言うまでもなく、並ぶ参加者の中で目立つ男が居た。彼でまず間違いないだろうという風格を遠目からでも確認出来る。


(どう考えても参加者最強……というか、場違いとすら感じるほどにレベルが違うだろあいつ……)


 黒く、光の反射によっては濃い緑色のように見える髪と、翠色の鋭い光を持つ瞳の男。


 体格はシルバよりもやや大きい。


 カイトを思わせる達人の領域に至った者の隙のない立ち姿。


 ミアと同様、鑑定妨害をしていると思われる為正確な実力は不明。だが、ミアよりも数段格上だということは分かる。

 ミアが実際そう言っていたのも嘘ではないと確信出来る。


 何故、武闘大会に?


 腕試しや名声欲しさに参加する領域はとうに超えているはずの存在は嫌でも目立つ。


「彼の名前は? どうみても名が知れてるレベルの達人……いや、それ以上だろあれ」


「あ〜……やっぱり分かっちゃうよね。お師匠、一応伝説級の人だから……ラーダンって言えば分かる?」


「おい……冗談って訳じゃないんだろ?」


 ラーダン。龍人族でもっとも知られた存在の名。光神教の影響の強いヒューマンの国においては物語の悪役として度々名前が出てくる超がつくほどの有名人。


 もし、ミアの話が本当だとして龍人族の寿命を考えれば、生きていても不思議ではないがそんな男がこの武闘大会に参加している事実は無視出来ない。


「うん、まあちょっと事情があってどうしても参加したいって……」


「それは優勝した際にこの国の出来る範囲で願いを一つ叶えてやるという褒賞が目当てでか?」


「それが叶えられるかは分からないけど、探してる物を見つける手がかりとしてね」


「ああ、勇者に関係した記憶がどうとか言っていたな。クラウンという存在に関しての情報提供が報酬か……仮にそいつが勇者なら正直に話すとは思えんがな」


「それならそれで別の情報やコネを頂くまで──」


 その時だった。


 視界が閃光に覆われ、真っ白になり高熱がアウルムを襲う。


 爆発の衝撃で3メートルほど吹き飛ばされ、キーンと耳鳴りがして聴覚を一時的に奪われた。

 すぐに起き上がり、混乱しながらもポーションを飲みダメージの回復に移行する。


 ヒリヒリと焼けた肌の痛みが消えていき、聴覚も戻った頃ようやく周囲の状況を把握し始める。


 この間、僅か10秒程度のこと。しかし、アウルムの視界には阿鼻叫喚とした闘技場の様子が映る。

 複数箇所で同時に爆発が起こったことが分かった。


「……な、何が起こった!?」


「フレイ! 無事かッ!?」


「ああ……私は大丈夫だ」


 爆発はミアの方から起こった。フレイとミアの間にいたアウルムがモロに衝撃を食らったことでフレイには大した怪我はなくホッとする。


「ミアッ! おいっ!」


 しかし、爆発に近かったミアを探すと下顎が吹き飛び口内から煙を上げながら血を流すミアの姿が目に入った。


「生きてる……」


(アウルムッ!?)


 すぐにシルバから念話が来て把握している現状を共有する。


 そしてすぐにニノマエが闘技場の空中に現れ、高らかに宣言をした。


(マズイっ……! シルバッ! ニノマエをマークしろ勇者たちはVIPの護衛で動けんッ! 奴が移動したら追えッ!)


(分かってるッ! ミアはッ!?)


(今は治療しているところだッ! そっちは任せたぞ!)


 念話をすぐに終えて、ミアの顔にポーションをかける。


「チッ……顎と舌が吹き飛んで爆風で喉が腫れてやがる」


 ポーションとは、人体の回復力を魔力を利用することで底上げし、急速に治癒させるものである。


 あくまで自己再生を助けるものであり皮膚や筋肉、血を短時間で身体から作り出すのを可能にするが欠損した部位を新たに生やすほど効果は高くない。


 腕を切断しても、腕が残っていればポーションをかけて、飲むことで引っ付けることは可能だが、腕を一から生やすまでは出来ない。


 ミアの肉片はバラバラに吹き飛んでおり、今すぐに回収することは不可能。

 そして、ポーションの効果を最も高くする方法はかけるよりも飲み、吸収させることだがそれも出来ない。


 当然、こうなると原初の実を『食べる』という行為も選択出来ない。


「龍人族の生命力とステータスでなんとか即死は免れているが、人体の内部は鍛えるのは無理だ……というか何故爆発が……? 爆発物などなかったことは確認した! 食べ物も含むあらゆる持ち込み物はチェックされているッ!」


「アウルム殿ッ!私は市民の避難をさせるッ!」


 フレイが応急処置をしているアウルムに話しかけるが、返事どころではなかった。


「……ッ! こっちだっ! こちら側から慌てずに押したりせず避難せよっ!」


 フレイはその場を走りながら混乱の中にある人たちの避難誘導を開始する。


「一体どこから爆発したんだッ!? ……馬鹿なっ!? 火属性の魔石が粉末状になっているだと……しかも爆発はミアの『体内から』発生しているッ! 内臓もダメージを負っているッ……! 体内に急に魔石が出現したとでも言うのかッ!?」


『解析する者』から得られた答え、それは闘技場内で何人かの観戦者が食べていたお菓子による爆発。


 魔石を体内に取り込んだ場合、魔石内の魔力と体内の魔力が反応する為、食べることは出来ない。

 もし食べれば、今回の爆発のようなことが起こる。


 例外としてモンスターは魔石のエネルギーを吸収することが出来るが、逆に言えばモンスターでない存在は食べることは出来ない。どんなに魔力の少ない子供であろうと、この世界で生きる者は魔力を多少は帯びているからだ。


「ミア……多少痛むが我慢しろ!」


 アウルムはミアの喉に切り込みを入れて錬金術の調合に使用していた細長い管を差し込む。


 焼けて腫れた喉のせいで呼吸が出来ていなかった。応急処置として、その管から呼吸を出来るようにする。

 ヒューヒューと管から自発呼吸の音が出ていることを確認する。


 そして、もう一つ管を取り出す。


「まだ人体で実験は出来てないんだが……やむを得ないな」


 切り込みの入った針をミアの静脈に差し込む。そして針の先から注射でポーションを流し込む。


 以前から、原初の実を『食べる』という行為の欠点について気がついていたアウルムは意識がないものや、内臓が吹き飛んだ場合に対する処置方法を考えていた。


 結果、点滴という方法に至る。


 ただし、ポーションを点滴したという事例がなく点滴する道具も存在していなかった。そこで道具を作り出し、マウスによる実験に成功していた。


 しかし、飲むこと、かけることと、注射で静脈の中に流すではまるで違う。


 ましてや、この世界はヒューマン以外の種族も普通に生活しており人体の構造も異なる。龍人族のミアにまだデータの足りない医療行為とも言えぬことをするのは躊躇われた。


 だが、放置すれば確実に死ぬ。そこいらのヒューマンに比べれば多少は長持ちするだろうがいずれ死ぬ。

 それだけは間違いないと『解析する者』が告げている。


「頼む……ッ!」


 一か八か、アウルムはポーションの注射を開始し、推移を見守る。


 20秒程経った頃だろうか、ミアの顔色がやや良くなることが認められた。

 拒絶反応も今のところない。


「効いたか……ッ!? しかし問題はこの後ッ……使うべきか……?」


 喉の腫れが引き、差していた管を抜いて傷口にポーションをかけると傷は消え、呼吸も可能になった。


 しかし、顎と舌がない。これを治し内臓のダメージも完治させるには原初の実を食べさせるしか有効な治療方法がない。


 原初の実を砕き、食道に流し込む程度の回復処置は出来た。

 問題はよく知りもしない彼女の為に原初の実をこの場で取り出し使用することが本当にリスクに見合った妥当な行為かどうか。


「……どうかしてるな。だが、このまま見捨てるのもどうかしてる……ッ! 俺は正しい選択をするッ!」


 アウルムはアイテムボックスから原初の実を取り出すと同時に光魔法を使用する。


 原初の実の皮の波長を光魔法で変化させ、周囲の人間には一見ただのリンゴか何かにしか見えない。


 だが、もし勇者が鑑定でもすれば一発で原初の実だとバレる危険がある。


 原初の実を風と水魔法でミキサーのように細かく砕き流動食のようにしてミアの食道へと管を使い流し込む。


 効果が現れる際の発光は闇魔法で打ち消す。


 ミアの欠損した下顎はみるみるうちに回復し元通りの綺麗な顔に戻る。


「……どうなって……」


「目が覚めたか……ニノマエって勇者がお前が食ってた菓子を何らかの爆発させてお前はそのせいで怪我した。俺がポーションと応急処置で回復させたから大丈夫だ」


「手間をかけたね……それにしてもびっくりするくらい身体の調子が良いんだけど何したの?」


「だからポーションで治療したと言っただろう。お前が元々頑丈だから奇跡的に助かったというだけだ……他の被害者はあんな感じでな」


 クイッとアウルムが首をひねると、その先には首から上が吹き飛び、倒れた死体があった。


「俺は仕事に戻る。これ以上お前の世話は出来ない」


 アウルムは立ち上がると袖をミアが掴んだ。


「……この件、カタがついたら詳しく話してもらうからね?」


「拒否する。お前は死なずに済んだ。それだけで満足してろ」


「……分かったよ、命の恩人を困らせても仕方ないしね」


 ギラリと光るミアの目を見たアウルムはそっぽを向き、ミアはやれやれと肩をすくめながら諦めた。


「言っておくが、ここから先はこの国のものの仕事だ下手に手を出してややこしくするな?」


「私はまずお師匠と合流するよ」


「……闘技場の外でも煙? 同時多発的にやりやがったな」


「って聞いてないし……んじゃ私行くねありがとう!」


 ミアはすぐに立ち上がり下の舞台に続く階段を駆けていく。


 一方、アウルムは闘技場の階段を登り、壁を飛び越えて街の状態を確認しに行った。


「爆発だけじゃない……誰かが戦ってるな。ニノマエ単独の犯行ではなかったのか? プロファイリングが間違っていた……?」


 街中で煙が上がり、大きな音が聞こえる。


 アウルムはその光景に違和感を覚えていた。

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