夏の日常
三題噺もどき―よんじゅうよん。
お題:扇風機・麺・布団
「あっづい……。」
8月某日。
アスファルトから湯気が出てきそうなほど暑い夏。
むしろ溶けるんじゃないかという程に暑い。
セミたちが、自らの短い命を嘆いて鳴き続けている。
―セミには申し訳ないが暑さが増すので辞めて欲しい。
家に唯一ある冷房機器の、扇風機を前に唸っていた。
クーラーは、元からない。
目の前でバタバタと羽を回して、生ぬるい風を送り続けている。
暑い空気でも速度があれば、まあまあ涼は取れる。
汗が滝のように流れてきて、敷きっぱなしになってる布団の上にシミを作っていた。
「あ…」
……昼メシどうしよ。
暑くて、脳ミソが溶けようと、何もしないでいようと、腹は減るようで。
ま、人間の三大欲求に数えられるぐらいだから、それはそうか。
半ばゾンビのように、ズルズルと冷蔵庫に近づく。
「……んぁ。」
その時、冷蔵庫の横においてあった、箱に目がいく。
先日、母が送ってきたのだ。
独り暮らしにはありがたいが、毎度量が多かったりする。
(なんか、麺が入ってたよな…)
素麺だったか、蕎麦だったか。
インスタントの、乾麺が入っていた気がする。
(あーでも、お湯沸かさないと食えないじゃん)
この暑い中、わざわざ更に暑くなるような事などしたくはない。
というか正直動きたくすらないのだ。
(どーすっかなー。コンビニ行くしかないのかー)
しかし、仕方あるまい。
食欲はどうにかしないと、死んでしまいかねない。
グタグタと、ダラダラと考えながら、寝巻きから着替え、財布を探す。
(ついでに、アイスでも買うかなー)
何とか、外に出れるようになるまで思考を回復させる。
そして、熱湯に放り込まれたような夏の世界に足を踏み出す。
(あ、扇風機の電源切るのわすれてた。)
―ま、いっか。すぐ帰ってくるし。
無人の部屋では、バタバタと扇風機が動き続けていた。