2話
本日3回目の視界が切り替わる体験をした後、目に入って来たのは一面の岩。
あの皇帝の話を聞いている限り、ここはダンジョン。それも誰もクリアした事が無いような鬼畜難易度。
焦る気持ちを押し殺してステータスプレートを表示する。
ステータスプレートは体内に吸収されており表示すると脳内に文字の羅列が見える仕様らしい。おかげで光があるかは関係ない。
王城での説明通りにステータスオープンと念じるとステータスが映し出される。
名前:沙川彩月
種族:人間
称号:もじばけ
魔法: 〈豁サ鬲疲ウ〉〈血醳彎吥〉
権能: 【豁サ鬲疲ウ】
【豁サ鬲疲ウ】
常用スキル...
戦闘スキル...
耐性:
自分のステータスを見て初めに浮かんだ感想がうわぁです。何も読めません。
皇帝にあんな啖呵を切っておいて早々に死んだんじゃ流石に格好がつかないですしね。
そしてこの状況を生き抜く為に今ある力だけでここを乗り越えれるように強くなります。
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視界が眩い光に飲み込まれ再び視界が開けた時、私は私の生徒を一人失った。
沙川彩月さん。
世界有数の大事業家に生まれ、世界経済界の居なくてはらない人物というを親に持つ将来を約束された少女。
しかし、実際には産まれながらに先天性白皮症……つまりはアルビノであり、太陽の日に当たる事ができず。
また周囲との差異から幼い頃からイジメを受けたりと辛い経緯を持っている。
そんな少女が、せっかく来てくれた修学旅行。
でも異世界に連れてこられて、しかもアルビノと言うだけで……
この出来事が起こるまで、この世界に来てまだ1日もたっていない。
にも関わらず私は生徒を守る事ができなかった。
私たちの前にいる皇帝様はさっきの出来事が無かったかの様に柔らかい笑みを浮かべている。
でも国王様は自分に不利益な存在だと判断したら簡単に私たちを切り捨てると思う。
私はこの世界に来てから多分先生という立場は無くなったも当然だから私はこの世界で強くなり彼女を助けに行く。でも彼女は多分大丈夫だと私は思う、なんとくだが。
そして、あの国王様が私たちを簡単に処分する事が出来ないように何か単純な力や権力を持ち私たちの立場を強くしなければならない。
こんな、よくわからない環境の中いち早くこの事に気づく事ができたのは、彩月の犠牲があったから。
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「取り敢えずここから脱出したいです」
独り言が冴える私の周囲には先程まではなかった光がある。
何故魔法の光があるのか、と言う疑問にお答えしましょう。私はこの世界に魔法があることは知ってましたので
よくある詠唱というやつを適当に言っていたらこの魔法が使えました。私、才能があるんでしょうか。
何で異世界にまで来てこんな面倒な事をしなければならないのか?せっかく勉強をしなくてもいい世界に来たというのに。
しかし、ここを出ない事には、ゴロゴロして好きな事して過ごす日々を送る事はできないのでしょうがないですけど……
「はぁ、仕方ないですよね」
その時、何かがゾワっと背筋を走った。
なにこれ?
日常生活で肌に当たる事は殆ど無いこの感覚、しかし私はこれ正体を知っている。
これはついさっき、あの皇帝や兵士達から向けられたあの感じです。
その正体は殺気。
しかしこの殺気はあの時城で向けられたものとは次元が違う。あの城での殺気を猫のそれとしたならば、これは虎やライオンでしょうか。
どこか荒々しくそれでいて純粋で巨大な殺気。その殺気に当てられて全身から嫌な汗が吹き出し、体が硬直する。
今私の周囲数十メートルには何もいないと思う。
近くにいる感じはしますがどうしましょうか。
あのドラゴンがこっちに気付く前に早くここを離れた方が良さそうですね。
開けた視界を駆使し全速力で地面を駆ける。
今までに無いほどの速度が出てる気がしますが、きっと気のせいでは無くステータスなどの補正のおかげだと思います。
しかし、現役ヒキニートだった私に体力がある訳もなくすぐに息が上がる。それでも足を止めずに走り続ける。
しばらくして心臓を掴まれているような感覚が消えた。
恐らくは殺気が届く範囲を脱したのでしょう。
それにしてもこれはマズイですね。
ダンジョンと言うからには、色んな魔物がいるのでしょうか。
しかし、この階層で獲物を探していたと言う事は恐らくはこの階層にいる魔物よりは弱いはず。それでも今の私が勝てるとは思えませんが……
この世界で生きるためには必要なことは
「……強くなるしか無いようですね」
覚悟を決めるために声に出す。強くなるのだと。
黙って魔物の餌になるのか?嫌だ、流石にそんな死に方は嫌です。
だから強くなるしか無い。そして自由な日常を勝ち取るのだと強く決意する為に。
強くなる為にはまず私のステータスの文字化けを直す必要があるようです。
この世界において、魔物や生物を殺すと経験値が得られその経験値に応じてレベルが上がる。レベルが上がるとステータスが上昇して強くなる事ができるそうです。そして考え事をしていると、唸り声が聞こえました。
「グルルゥゥゥ」
まるで犬が威嚇でもするかのような唸り声を上げながら接近してくる1匹の魔物。
しかし、その姿は犬とはかけ離れており、2メートルを超える体躯に漆黒の体毛を纏い、赤く爛々と輝く2対の瞳がこちらをジッと捉えて離さない。
その視線から感じるのは殺気などでは無く唯々、純粋な空腹の感情。餌を見る目。その口から滴り落ちる涎がそれを如実に物語っています。
コイツは私の事を敵として見ていない。コイツの、この目はよく知っています。物心ついた時から散々向けられてきた目。私わを虐めてきた奴らと同じ、格下を嘲笑う目です。
そして黒い魔物は悠々と、その畏怖を見せつけるかの様にゆっくり一歩ずつ私に歩み寄ってくる。つまりはコイツは私のことを舐めていると言うことですね。近づいてくる魔物に向けてスッと腕を翳す。それを見た魔物が意地の悪い笑みを浮かべた様な気がしました。私はなんの躊躇もせずに赤い火球を打ち込みました。当たった魔物は首から上が吹き飛び
血が吹き出した倒れた。
ここは当たり前の事だが、地球とは違う。あれらの出来事のおかげで私は早々に理解できました。日本とは違い、この世界では命は軽いのだと。
勿論、地球でも戦争地帯などでは幾多もの命が失われている事は知っています。しかし、それは戦争での事であってこの世界のそれとは異なります。
この世界では日常的に命が軽い。権力者の感情1つ、魔物の気分1つで簡単に命が消えるような世界。
尤も、私は理由もなく命を奪う事はしないと思います。
私がしなくても私がしようとしてることが人が死ぬかもしれませんが。しかし、殺気を放ち、私殺そうと近づいてくる存在に情けをかける必要がどこにあると言うのか?
私が自由に過ごす為に。ここから出る為に、私の前に立ちはだかる奴を殺すのに何の理由が必要なのか?
自分の私欲の為に命を奪うのはよく無い事だと普通は考える。俺もつい今朝まではそう考えていた。
しかし、私は皇帝に理不尽に追放された時に決めたのだ。もう我慢は辞めだと。アルビノのせいで。家の名前を守る為に。今まで我慢して来た事は数知れない。
けど、それはもう辞めると。相手が好き勝手に、理不尽に接してくるのなら私が好き勝手にやって何が悪い?
ですが、口だけで言うのは簡単です。この世界では、いや地球でも奪われる側は強者に、奪う側の奴に喰われて終わるだけ。だからこそ奪う側にならなければならない、生きる為に。
ここはそう言う場所だ。もしかしたら地上ではそうでは無いのかもしれません。この世界の普通の人にとってはそうでは無いのかもしれない。
しかし、ここはそうでは無い。私が生き残る為には、私がどれほど望もうが、普通ではいられないのですから。
まぁ何はともあれ、これからは下階層を目指して道中で魔物を狩って行くとしましょうか!