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第6話:さようなら異世界

 白いスモークが炊かれた空間に、俺は戻ってきた。

「お帰りなさい。早かったですね」

「おう」

 荒んだ視線を白花那姫神に送る。


「でも凄いですよね。何だかんだ、ものの数ヶ月であの魔王を倒して世界に平和を取り戻すだなんて。流石です。こんな真似、そうそう出来る人いませんよ」

「おう」


「あの異世界の人達もとても喜んでいましたよ。感謝しているって言ってました」

「おう」

 それ、直接聞いた覚え無いんだけどな?


「でも、大変でしたよね?」

「まあな」

「特に、最初の巨大ザメに襲われたときとか。まさか、あそこで衣服変更の魔法をあんな風に使うだなんて」

「おう」


 ちなみに、何をやったかというと着ているものを巨大ロボットに変えたのである。スーパーなロボットの大戦ゲームに出てきそうな奴。あれに出てくるロボットには「スーツ」という名前が付いているものもあるから、巨大ロボットだって広義の意味で服なのだ。きっと、多分。


「でも、ほら? U沢さんって趣味で小説を書いて投稿しているんですよね? どうですか? このご経験はネタに活かせると思いませんか?」

「全然」

「ええ? どうしてですか?」


「いや、だって俺。ひたすら巨大ロボットに乗って、片っ端から魔物ぶちのめして、服従魔法使って下僕にしてを繰り返していただけだからな? ワンパターンすぎてネタにならねえよ。ゲームで例えるなら、圧倒的すぎてバランス崩壊しているというか、盛り上がりに欠けるというか。そんな感じだったし」


 そんなものを書いても、飽きられてダレてエタるに違いない。つか、俺がまず書くのに飽きる。

 巨大ロボット対策に、魔王もそれなりに考えたのか、例えば邪龍の大群を仕向けてきたり、似たような巨人像を用意してきたのだったが。結果はどれも、やっておいて何だが「何というかごめん」な感じだった。見せ場にならない。あと見方を変えると、こっちの方が鬼畜外道な殺戮者に見えるかも知れない。最後、服従させた魔物すべてに「殺し合え」「自害しろ」ってやったし。


 でもって、そんだけ暴れまくっていたのに、最初に召喚されたところ以外で、全然人の姿が見付からなかったあたり、あの世界はマジで危機に瀕していたのだと思う。

 巨大ロボットを操縦出来たのは、男として少し楽しかった。これくらいだろうか? あっちに行ってよかったと思える事って。衣食住は最悪だったし。

 ちなみに、事前に渡された『異世界生活のススメ』はそれなりに役に立った。特に、サバイバル知識とか、科学知識とかは参考になった。あれ無かったら、マジで死んでたかもしれない。先人の苦労が忍ばれる。


「というわけで、やることやったから、もう俺、生き返らせて貰っていいんだよな?」

「はい。勿論です。お疲れ様でした」

「ただ、その前にちょっとあの眼鏡のお姉さん。高美蔓姫神って言ったっけ? あの人、呼んでくれないかな? 話したいことがあるから」


「え? はい。分かりました。少々お待ち下さい」

 白花那姫神がスマホをポケットから取り出し、電話をかける。

「あ、もしもし? 先輩ですか? すみません、ちょっとU沢さんが先輩に話したいことがあるそうです。え? はい、分かりました。よろしくお願いします」


 白花那姫神が電話を切ると、高美蔓姫神はすぐに現れた。

「お呼びですか?」

「ああ」

 俺は高美蔓姫神に頷いた。


「それと、白花那姫神ちゃん? ちょっと、しばらく二人だけにさせて貰えないかな?」

「え? はい、分かりました。どのくらいでしょうか?」

「そうだなあ。30分くらいでいいと思う。大丈夫?」

 本当はもっと長い時間をお願いしたいが。ここで怪しまれても困る。


「はい、私なら大丈夫です。先輩はどうですか?」

「私も構いませんが」

 白花那姫神と高美蔓姫神は、互いに頷いた。

「では、私は少し席を外しますね。終わったら、呼んで下さい」

 そう言って、白花那姫神は姿を消した。


 それを見届けて、俺は口を開く。

「何というかさ、俺。この数ヶ月間、いやこの空間的には時間どうなっているのか知らないけど、ずっと独りぼっちだったのよ」

「はあ」

「寂しかったんだよ。すっごく」

「それは、寂しいですよね」


「あの白花那姫神ちゃんも、報告しようとしてもろくに顔出さないんだよ。せめてさ、そういうときくらい、ささやかにでも人と話がしたかったんだよ」

「ええ? それはいけませんね。白花那姫神には、担当している異世界転生の人へのフォローはきちんとしなさいっていつも言っているんですが。申し訳ありません」


「うん、よく言っておいた方がいいと思う。それと――」

「それと?」

「後輩のフォローは先輩の役目。だったよな?」

「え? ええ」

 俺は高美蔓姫神に右手を突き出す。


「えい。服従魔法っ! そして、発情魔法っ!」

「あふんっ❤」

 俺が魔法を使うのと同時に、高美蔓姫神の全身をピンク色のオーラが包み込んだ。

「一体何を?」


 ふらりと脚をよろめかせ、自分の体を抱いて、こっちを見てくる。足を折り曲げているせいで、その目線は少し上目遣い気味になっている。イイね。実にイイ。こいつのこういう姿を見たかった。

 俺はくっくっとほくそ笑んだ。

 つかつかと彼女の元へと近付いていく。

 そして、くいっと彼女の顎を持ち上げた。


「一言で言っちゃうとさ? 今の俺、飢えているんだよ」

「な、何にですか?」

 俺は舌なめずりをした。


「人の温もりってやつにだよ」

「それで、私をどうしようっていうんですか?」

 この状況下で何を言っているんだこいつ? 分かっているんだろう?

 いいさ、それでも分からないふりをするというのなら、はっきり言ってやる。


「抱かせろ」

「っ!?」

 高美蔓姫神の目が大きく見開く。うん、一時期よく見かけたエロ漫画の広告そのまんまの反応だ。

「男の人って、いつもそうですね。女の事を一体何だと思っているんですかっ!」

「お前らの方こそ、人の魂を何だと思ってやがる」


 何かもう、怒りとか性欲とかそういうのがごちゃごちゃになって、とにかく全部吐き出してやりたい。そんな気分だった。これで現世の利益とやらがなんぼかマイナスされても知ったことかっ!

「次はこれだ。精力絶倫魔法っ!」

 効果は絶大だ。かつて無いほどに、マイサンが自己主張してきた。

 凄いなこれ。これなら確かにどんだけでも犯れそうだ。


「やめ。やめて……下さい」

「そんな発情した雌顔で涙を流しても、男にとっては媚薬にしかならねえんだよ」

 うわぁ、自分で言っておいてなんだけど何て、えっちな台詞。言ってて凄く興奮する。

 高美蔓姫神の目尻から零れる涙を親指でなぞって、俺は彼女の顔に唇を寄せ――。


「あ、ごめんなさい。この部屋の使用を待っている人がいたみたいなので、U沢さんは早く生き返って下さいっ!」

 突如として、白花那姫神のそんな声が聞こえてきた。

 でもって、視界が暗転する。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 唇にぺったり、つるりとした感触が当たる。

 唇ではない。そういう、ぷにっとかむにっとかいう感じとは全然違う。

 半眼で、俺は対象を確認した。買った覚えの無いエロ雑誌だ。

 スマホからは目覚ましアラームがやかましく鳴っていた。


 自分の姿を確認する。大量の丸められたティッシュとエロ雑誌の中で、下半身丸出しで横たわっていた。マイサンはそりゃもうこれでもかと、ギンギンに起床していた。

「~~~~~~~っ!」

 俺は声無き声で叫んだ。

 こんな状態から、仕事に何て行けるかボケ~っ!

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