第5話:こんにちは異世界
右手を突き出した格好で、俺は魔法陣の上に立っていた。
妙にだだっ広く、白い壁に囲まれた部屋で。何かの道場のような場所だ。
更にその周囲を十数人くらいの男女が囲んでいた。この世界のファッションはよく分からないけど、何か立派な格好しているから、きっとみんな偉いのだろう。
いや? でもあのさ? 恥ずかしいんだけど? こう、見得を切って「見参っ!」みたいな格好で人前に現れるの。
「おおお、遂に。遂にこの世界にも勇者様がっ!」
「これで、この世界も救われる」
「女神様。有り難うございます」
口々に、そんな声が聞こえてくる。
うん? でもあのさ? そんな盛大に喜ばないで? こう、物凄く期待が重いから。こっち、そういうの見てると胸と胃が痛くなってきちゃうから?
嫌な予感してならない。現場の希望と持っているスキルのアンマッチによる悲劇は、仕事でも何度も経験してきた話だ。
だいたい、営業がお客にいい顔して、「こっちがいや無理だって言ってんだろ」と言っても現場に無理矢理ねじ込んで。やっぱり無理だろ? な感じになってきたら「何とか頑張って下さい」と努力を全部こっちに押し付けるという。
成長するために努力は当然するけど、無理なもんは無理だから先に言っていたってのに。
あ、思い出したら腹立ってきた。
"子らよ。悩める人の子らよ"
と、自分の隣に白花那姫神の姿が現れた。
微妙に透けて見えるから。実体ではなく、立体イメージを送り込んでいるという感じなのだろうが。
その姿に、再び周りの人達がどよめく。
"魔王という災厄によって世界が崩壊し、あなた達の大切なものが脅かされ。その嘆きや悲しみに私達は心を痛めていました"
いやあのさ? 白花那姫神ちゃん?
何かこう、厳かな雰囲気出しているけどさ? 衣装もスーツじゃなくて巫女服みたいになっているけどさ?
君、ただの公務員の新人だよね? 何を偉い女神様っぽい雰囲気出しているの? 何その後光? それも多分、スモークと同じただの演出だよね?
"今ここに、私達は心優しき勇者をあなた達の地に送ります。その者はきっとあなた達の力となり、支えとなります。また、願わくばその者を支え、共に戦っては頂けないでしょうか。さすれば、きっと魔王を討ち果たせるはずです"
「女神様。女神様あ」
「何という心優しきお言葉じゃあ」
「約束します。必ずや、勇者を支え、魔王を討ち果たして見せます」
「人の世に光りあれっ!」
そんな歓声を聞きながら。
俺は、正直「うわぁ」とか呻いていた。
これ、まさにあれじゃん? 現場にいいこと盛りに盛って社員を送り込む営業じゃん。
自分は散々お客にいいこと言って、いい顔見せておいて、その後は実際に作業する人に「頑張ってね」で済ませるパターンじゃん。
"ありがとう。その言葉を聞けて、私は安心しました。それでは、勇者U沢T也。この世界のこと、頼みましたよ。必ずや、魔王を討ち果たし、この世界に平和を取り戻して下さい。辛いことがあれば、いつでも言って下さい。私はいつも見守っています"
そう言って、にっこりと。ああうん、まさに女神様な笑顔をこちらに向けた後、白花那姫神は姿を消した。
要するに「後は全部よろしく」という態度だ。丸投げである。
辛いことがあればいつでも言って下さい? 見守っている? 嘘こけ。こういう営業って、本当に辛くなって色々言っても何にもしないで本当に聞くだけ。んで、何も解決策を出さずに「頑張って」しか言ってこないのだ。
正直、問題解決能力は期待出来ない。ましてやこの子、新人らしいし。
「それでは、勇者様。早速ですが、あなた様について教えては頂けないでしょうか? 例えば、どのような事が出来るのかとか」
「そうそう。女神様からは、何でも素晴らしい能力を与えられて、こちらに来たのだとか」
「どんな能力なのでしょうか? 是非とも、教えて頂きたい」
うっわ、心が痛い。そんな期待に輝いた視線を向けないで?
つか、言えるかあんなスキル。言ったらドン引きされるわ。
「ええと。その件については、後日改めて、落ち着いた頃に説明させて欲しいなと。何分、ちょっと説明が難しいもので、自分もどう言ったら良いものか、迷っているものですから」
冷や汗を流しながら答える。
うん、でもまあこうやって誤魔化し続けるしか無い。結構、しつこく聞かれるとは思うけど。
「あ、女神様から追加で神託が来ました」
「何と?」
「水晶玉に映し出されてきています。ええと?」
あんの馬鹿野郎~~っ!! 何してくれちゃってんのおおおおおぉぉぉぉっ!!
あんぐりと、俺は口を開けた。
「勇者U沢T也の所有スキルは【服従させる魔法】【発情させる魔法】【絶倫になる魔法】【衣服消滅魔法】【衣服変更魔法】です」
途端、部屋の空気が一気に冷えた。
「あは? あはははははははははは~?」
もう、乾いた笑いしか浮かばねえ。
「引っ捕らえろ~~っ!」
そんな声が響き渡るのを聞いた直後、俺は気を失った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
目が覚めると、俺は見渡す限り大海原のど真ん中にいた。
頭がずきずきと痛い。撫でると思いっきりたんこぶが出来ていた。いやこれ、こんだけ思いっきり叩かれていたら、下手したら死んでいたんじゃないか?
小舟の上で上半身を起こす。
と、懐に違和感を覚え、俺は手を入れてそれを取り出した。
そういえば、服装もいつの間にか替わっている。こっちの世界の服装だろうか? RPGで例えると「旅人の服」「旅人のズボン」「旅人の靴」とかそんな名前付いていそうな感じの。
ともあれ、俺は手にしたそれを確認する。手紙?
首を傾げ、開いて読んでみる。
見たことの無い文字だが、異世界転生時に上手いこと設定したのだろう。そういや、言葉も理解出来たし。不思議と読めた。
"勇者U沢T也様。この度はご応募誠に有り難うございました。あなたの勇気と優しさを私達は忘れません。ただ、厳正なる審査の結果、この度はご縁が無かったものとし、採用を見送らせていただきます。今後のご清栄を願っています。ささやかながら、数日分の食料と水を用意致しました。魔王討伐の旅にお役立て下さい"
「ざっけんなこらあああああああぁぁぁっ!」
俺は叫んで、不採用通知をその場に叩き付けた。
たった数日分の水と食料持たせて、こんな小舟に乗せて海に放置って、完全に殺しにかかっているじゃねえかっ! 海賊の粛正かよっ!
「って、え?」
何かこう、視界の端に、ヤバいものが見えた気がする。
三角形の大きな背びれが、波の隙間から。
見間違い。だよな? あれ? 背びれだけで俺の背丈ほどありそうだったんだけど?
だらだらと、背中に冷たい汗が噴き出る。
うん。見間違いだよきっと。見間違い……。
「じゃねえしっ!?」
俺の淡い期待をかき消すように、怪獣みたいにデカいサメがジャンプした。サメ映画?
あ、目と目があった。ヤバい気がする。
ざぶんとサメは飛び込んで、その背びれが遠ざかっていく。
「うん、頼むから、そのまま遠くに行って?」
言っても無駄だよなあとぼやくが。
「――やっぱりこういう展開かああああああああぁぁっ!!」
ある程度距離を取ったところで、サメは大きく口を開けて、こっち目掛けて泳いできた。
畜生。巫山戯んなっ!
U沢T也の戦いはこれからだっ!
ご愛読、有り難うございました。U沢T也の次の物語にご期待下さいっ!
いや、打ち切り漫画みたいな締めしようとすんじゃねぞ俺~っ!?
いや、まだ続きますからね?
一話目の前書きに全部の話数書きましたけど。




