最終話:とある底辺書き手の嘆きと喜び
そして、ほんの少しだけ時は流れて……。
俺は舌打ちした。
これは、かなりヤバい状況だ。
眼前のモニターの一つに、一人の青年の姿が映し出されている。立派な剣や鎧を装備しながらも、悲壮な表情を浮かべている。
それもそうだろう。今まさに、彼の命は尽きようとしているのだから。
次から次へと、それこそ無数に湧き上がる蟲型の魔物が群れを成して彼に襲いかかっている。積み上げられた蟲の死骸の数も凄まじいが、囲む蟲の数はそれを遙かに上回る。
全速力でアフターバーナーを吹かし、群れへと向かっていく。
ターゲットのロックオンなんて、待っていられない。目視で大雑把に範囲を指定。全武装、一斉射撃っ!
無数の爆発と共に、蟲たちが千切れ、舞い上がった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
蟲の群れの中に突っ込んで、十数分。
ようやく、蟲の群れを片付けることが出来た。荒野の一面、見渡す限りが蟲の死骸で埋め尽くされていた。まったく、どこから湧いてきたのだかと。
どこぞの名作アニメ映画よろしく、蟲達の棲む巨大な森があって、そいつを焼き払おうとでもしたのかと。いや、流石にあのアニメ映画のレベルで蟲が湧いたんだったら、このスーパーロボットでも勝てる気がしないんだけど。どんだけ薙ぎ払っても延々と湧いてでてきそうだし。
周囲の安全を確認し、俺はロボットから降りた。
肩で息をしたまま、まだ血の気が引いたままの青年の前へと近付く。
「あー? ええと? 無事?」
「は、はい。無事……です。助けてくれたんですか? あ、有り難うございます。僕、本当に死ぬかと思って」
ひぐっ! ひぐっ! とかかなり荒れた息がここまで聞こえてくる。
ああうん。そりゃあマジで恐かったと思うわ。俺も、持っているスキルがこんなのじゃなくて、聖剣だとかそういうのでこの群れを相手にしろって言われたらこうなるわ。
「まあ、なんだ。無事でよかったよ。これで死なれてたら、俺も寝覚め悪いし」
「はひっ!」
そこでようやく、そいつは引き攣った笑みを浮かべてきた。ほとんど、泣き笑い状態だけど。
一方で俺は、大仰に溜息を吐いた。
「でさあ? 助けたばっかりで悪いんだけどさあ? ちょっと、おじさんの頼みを聞いてくれねえかなあ?」
にやあ。と、俺は唇を歪める。
「あ。お、お礼ですか? そうですよね? あの、本当に有り難うございました。僕に出来ることだったら、何だってします」
「ん? 今、何でもするって言った?」
「えっ!?」
途端、そいつは顔を引き攣らせたまま、両手でお尻を隠した。
俺は半眼を浮かべ、手を横に振る。
「いや、別にそういう意味じゃないよ? 俺、そういう性癖はマジで無いからね?」
「そう、ですよね? あはは、あは。失礼しました」
うん。早とちりが過ぎると思うぞ? それに、そういう性癖の人達だって、誰だっていいってもんじゃないだろうし。そこは節操とかあると思うぞ?
「んじゃあ、まず君の名前を教えてくれる?」
「名前……ですか?」
俺は頷くが。
彼はどこか警戒するような視線を向けてきた。
「あの? 名前を教えると相手を傀儡にする魔法とか、持ってないですよね?」
「持ってねえよっ! 悪魔じゃないんだから」
むしろ、もっとヤバいスキル持ってるわい。怯えさせてもいかんから言わないけど。
「大概、失礼じゃないかね君? これでも俺。君の危ないところを救った恩人だと思うんだけど?」
「そうですよね。それは、分かっています。本当に失礼しました。何かこう、言い訳にもならないとは思いますけど、色々あったもので、つい疑い深くなってしまって。本当にすみませんでした」
深々と、頭を下げる青年。
まあ、その気持ちも分かるけどなあ。相手の弱みに付け込んで毟り取っていくような連中、多いもんなあ。こいつも、まだ若いのに色々と苦労してきたんだろうなあ。世知辛い世の中だもんなあ本当に。
「僕の名前は、きり――」
「あ、別に本名じゃなくていい」
名前を言おうとする青年を俺は制した。
「君さ? どこか、小説投稿サイトで小説書いていたり、読んでいたりする?」
「え? ええ、まあ。はい」
「うん。じゃあ、その名前を教えて?」
「はい。アルファっていう名前で登録してますけど」
俺は手を合わせ、拝む。
「頼むっ! 俺の書いた小説を読んでくれっ! あと、出来ればブクマや評価をしてくれっ!」
顔を上げると、青年の目が点になっていた。
「ちなみに俺はU沢T也っていうんだけどさ。いや、本当に頼む。俺の幸せのためにもっ!」
「いえあの? 意味が分からないんですけど?」
「一言で言うとさ? 自分の置かれている状況を少しでも何とかしたいんだよ」
「は、はあ?」
やっぱり分からないと、青年が首を傾げてくる。
まあ、そうだよなあ。俺もどこから話せば良いのか分からないし。
「ええと? 君もさ? どうせあのクソ死神にこの異世界に送り込まれたクチだろ? 俺も何だよ。それで、色々とあって、クソ死神が『へっへっへっ。お父さん? 頑張り次第で、異世界で愛した女と、残してきた子供に会えるようにも出来るんですが、どうでしょうか?』なんて提案してくるんだよ」
「『頑張り次第』って、それブラック労働の常套句じゃないですか」
「分かってるよ! 分かってんだよ! でも、それでも、そんな事言われたらやるしか無いだろ?」
「それで、U沢さんはこうして僕達みたいな、転生者の窮地を救うことをしているとか?」
「うん」
「うんって」
呆れたように、アルファ氏は呻いた。
「何だかんだで、こうして異世界でさっきの君みたいに窮地に陥って、あまつさえ死んじゃったりすると、そこからのやり直しの為に死神達の仕事が増えるのよ。異世界救済も遅延したりで、依頼が一向に片付かないことになるし」
「ああ、はい」
「俺も、しょっちゅう異世界救出をまるまるやるのは、ちょっといい加減しんどいのよ。特に、連続とかになると」
「何回ぐらい世界を救ったんですか?」
「知らん。10回越えたあたりから、正直もうどうでもよくなった」
「うわあ」
それは尊敬の声か? ドン引きの声か?
まあ、両方のような気がしたけど。
「んで、まあ取りあえずネックになっている異世界転生者のフォローをして、少しでも成長して貰って、増えていく依頼に対して完遂が追い着くようにしようと。そうやって、地道に俺の待遇も改善させようと。そういう訳」
「なるほど。ようやく話が少し分かりました」
うんうんとアルファ氏は頷く。
「ちなみに、ブクマと評価は何故です?」
「人手不足解消のため。死神達の求めるイメージにより近い人材の情報を集めるためにも、異世界救出のやり甲斐だとか夢や希望を詰め込みつつ、現実味も含めた小説書いているんだけどさ。これがほとんど読まれなくてな?」
「つまり、U沢さんの書いているその小説の評価が上がって、人目について読まれるようになれば、U沢さんや僕以外の人達が、死神の犠牲になってくれる可能性が上がると。そういう訳ですか?」
「うん」
「うんって」
今度ははっきりと、アルファ氏は肩を落としてきた。いや、言っておいて何だが気持ちは凄くよく分かる。
「しかも連中、最近はテコ入れとか言ってはもっと神々しく転生役の女神を書けとか、ギャグとツッコミにパワーが足りないとか。お色気を追加しろとか要求してきてさ? あいつらの言うお色気をそのまま書いたらBANされるっての。もう、どこの編集かと。意見を付き合わせるのも大変だし。うんざりなんだよ」
「苦労しているんですね」
俺は頷いた。
「まあでも、君にとっても、決して悪い話ではないと思いますが? 読んでくれて、ほんのちょっとでも面白いと思ってくれたら、ブラウザでポチッとブクマや評価を入れるだけで済むんですぜ?」
「はあ、それはまあ。分かりましたけど」
アルファ氏は空を見上げ、遠い目を浮かべた。
「僕は、異世界転生ものの小説って好きだったんですよ」
そう言って、彼は嘆息してくる。
「ひょっとして、僕もそういうのを読んでいたから、こうして異世界救出のために送り込まれたんですかね?」
「その可能性。大いにあると思うよ?」
沈黙。
アルファ氏は項垂れた。
「よくも騙したああああああああああぁぁぁぁっ! 騙してくれたなあああぁぁぁっ! なぁにが女神だ。死神だったんじゃないかあああああぁぁぁぁっ!?」
なるほど、疑う経験がまだ浅い若い子達には、あいつらこうして騙していたんだなあ。しかもあいつら、ただの地方公務員だからな?
俺は無言で、彼の肩を抱いた。
今は泣け青年よ。
愚痴ぐらいなら、おっさん聞いてあげるからさ?
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
白いスモークが炊かれた空間に、俺は戻ってきた。
「お帰りなさい。お疲れ様でした」
「おう」
それだけ言って、俺は大きく溜息を吐いた。
「君らさ? 本当にマジで、異世界転生者を投げっぱなしにするんじゃなくて、フォローなり何なりしてやれよ? あの青年。相当に参っていたぞ? あれで少しは立ち直ってくれりゃあいいけど」
「いやあ。すみません。何ぶん、こちらも忙しくて、人手が足りないものですから」
薄笑いを浮かべながら、白花那姫神は頭を掻いた。本当に分かってんのかこいつは? これでも、クソ死神達への風当たりもある一定ラインを越えないように、俺も彼女らを貶しながら、同時にフォローを入れて、ヘイトをコントロールしてやっているのだが。
まあでも、これで彼も無事に異世界から生還出来たら俺の小説を読んでくれるって約束してくれたし。まあいいか。
底辺作家にとって、ブクマや評価、感想は何よりも重いものである。レビューなんて貰った日には子供の頃のクリスマスに匹敵するほどの一大イベントだ。
彼が無事に世界を救うことを願おう。彼に与えられた能力や装備、そして今後の計画についても相談に乗ったし。何とかやれる計画みたいなものも導き出せたし。いやこれ、本当は死神どものやるべき仕事なんだと思うが?
あと、俺も彼の小説を読んでブクマなり評価なりすることは約束したし。
え? 談合? 馴れ合い? 違うよ? これは同好の士による友情ってやつさ。……どうせ、ランキングとかに影響与えるようなことも無いだろうし。言っていて悲しくなるが。
それに、本当につまらないなら、無理にブクマや評価しなくてもいいって言っているし? 俺もそんな真似はしない。「底辺作家にとって、ブクマや評価、感想は何よりも重い」とはいっても、それはあくまでも読んでくれるからこそ価値があるものであって。そうでないのなら、虚しいのよな。強がりかもしれんけど。
「取りあえず、今回はこれで帰るから、生き返らせてくれ。よろしく」
「はい。お疲れ様でした」
俺の視界は途切れた。
この感覚も、もう慣れたものだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
現世に戻って、俺はイチモツから切れ目の入ったコンニャクを引っこ抜いてゴミ箱へと捨てた。
いや、本当にマジで何なんだろうな? あの子達のテクノブレイク工作にかける情熱は?
言っておくが、切れ目コンニャクとか、つるつるして全く刺激が無いから何の代用にもならんぞ? あと、黒いツブツブってあれ硬いから、下手すると粘膜を削ってエラいことになるぞ? と。連中、想像力足りないのだろうか?
いや、俺も試したことは無いけどね? 本当だからね?
俺はそこら辺に置いたティッシュを一枚取り、ぬめった股間を拭いた。
脱がされた下着とズボンを穿いて、PCを立ち上げ。小説投稿サイトへとログイン。
自分が投稿している小説の評価を確認する。
俺が助けた異世界転生者によるものかどうかは分からないけれど、ほんの少しだけ評価が上がっていた。
俺は、ぐっと拳を握る。
チートスキルがあってもエロには期待出来ないし。色々と理不尽に巻き込まれっぱなしではあるけれど。
何だかんだで、愛する人と巡り会えて、ほんのちょっとは小説読まれるようになったのは、やっぱり悪いことばかりでもないかなあと思ってしまう。
―END―
ここまでお読み頂き、有り難うございました。
ちょっとでも面白かったと思ってくれたなら、ブクマや評価くださいっ!
ああっ!? お願いします。引かないで下さいっ!?
あと、少し思うところがあるので。ひょっとしたら、いつか何らか別の形に書き直したものを出すかも知れません。
そんなときがあれば、またお付き合い頂ければ幸いです。




