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第2話:異世界転生事情

 俺は少女から受け取った名刺と、目の前の少女を交互に見返した。

「死神?」

「はい」

「異世界転生課?」

「最近、この役所にも創設されました」

 お役所かよここ? いやまあ、ある意味では住民管理みたいなものなのだろうし、そう考えると、お役所というのは理屈は分からなくもないけど。


「いや、異世界転生課って何?」

「刈り取った魂に暫定的な肉体を与え、異世界に派遣する部署になります。あとは、送った人の働き具合とかを確認したり」

「何でそんなもんが出来たの?」


「死者のニーズと、異世界のニーズが噛み合っちゃったから、ですかね?」

 そう言って、白花那姫神は遠い目を浮かべた。

「は?」

 全然意味が分からん。


「いえね? 最近、何というかそういう事言ってくる死者が多いんですよ。特に若い子とか、車に轢かれてしまった人に。死んだんだからチートスキル寄越せ、でもって異世界に転生させろ~みたいなこと言ってくる人」

「あー、まあ。小説投稿サイトを中心として、そういう流行があるのは知っているけど。本気で言ってくる人、いるんだ?」

「ええまあ。結構いるんです」

 白花那姫神が大きく溜息を吐いた。


「で、同時に魔王とか魔物とかいるせいで、治安が安定しなくて生者の数を維持するのもままならない異世界ってまだまだ結構あるんですよ」

「ほう」

「そういう世界を管理しているお偉いさんが、こっちの世界の事情を聞きつけて。『よっしゃ、それならそういう人達をこっちに寄越してくれ』と言い出して。こうして、両者の思惑が一致したんです。異世界転生希望の人達も、夢が叶ったと喜んで行きました」

 俺は半眼を浮かべた。


「そうやって、何かしらスキルを与えて異世界転生させていたら、彼らも転生先で頑張って成果を出したらしく。それに喜んだ異世界から、もっと人を寄越せと頼まれまして」

「ほう?」

「ニーズに対して供給も足りなくなってきたので、ちょっとでも素質がありそうな人なら、もう異世界に送っちゃおうと。その為の手続きやノウハウも溜まってきたので、こうして部署として新設されました」


「俺としては、ブラック企業への派遣と同じようなもんにしか思えないんだけど? そんな過酷な世界に送られるって」

 そう言ってやると、白花那姫神は目を逸らした。うっわ、分かりやすい反応。


「ちなみに、そうやって送られた人達、どうなったの?」 

「大丈夫です。定着率がとても高い異世界ばかりですから」

「それ、むしろほとんど戻って来られていないって聞こえるんだが?」


「頑張り次第では、一国の王になったり、何人もの恋人といちゃこら生活も可能です」

「そういうのを可能にしたのが、何割いるんだという話なんだが?」

 「頑張り次第で」。俺にはどうにも、甘い言葉で乗せられて、ホイホイと過酷な異世界に送られて使い潰されている奴らばっかりな気がしてならない。特に、人生経験の少ない若い子達。これ、ブラック求人の常套句だからね?


「というか、そんな英雄みたいなの。異世界側で用意すりゃいいじゃないかと。そっち出身の魂に頼んで」

「それが、なかなか説得出来ないらしくて。もう、あんな世界に生まれるのやだ。どんなスキルがあっても魔王と戦うなんてごめんだ。このままずっと死んでいたいっていう人が多くて」

「どんだけ過酷なんだよその異世界っ!」

 いや、逆に現代日本が平和すぎるのかもだけどっ!


「あのさ、さっき君。俺を異世界転生させるって言ってなかった?」

「はい。言いました」

「何で、俺は生き返らせてくれる訳?」

「それが一番のご褒美になると判断したからです。他にも、望めば生き返り以外の方法とかも、報酬に選べますよ?」


「なら他の人の場合も、生き返らせているの?」

「はい。本人が望み、無事に目的を達成したならですが」

「異世界に送る人手、不足してんの?」

「はい」

 俺は、額に人差し指を当てて、しばし瞑目した。


「白花那姫神ちゃん? まさか、人手不足解消のために、適当な理由付けて人殺してないよね?」

「え? まさか? ソンナコトナイデスヨ?」

 白花那姫神は唇をとがらせ、ヒュウヒュウと口笛を吹く素振りをしてきた。

「こっちを見ろおおおおおおぉぉぉぉっ!!」

 そんな彼女に、俺は思いっきり怒声を浴びせた。

【登場人物紹介?】

白花那姫神:漆沢刀也が昔書いて封印した小説の登場人物。久しぶりに掘り起こしたら何かやさぐれてた。


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