第16話:死神のお仕事
私は溜息を吐いた。
また、無茶な案件が振ってきたものだと思う。そう簡単に、世界を救えるような人材が用意出来るものかと。
とはいえ、誰かしら紹介しないことには仕事が片付かない訳で。
むむぅと、自分でも考えてみるが、どうしてもこの問題を解決出来る方法が思い浮かばない。
出来れば、もう少し自分の力で何とか出来る様になりたいし、成長したいのだけれど。今の経験や実力では無理そうだと判断した。
諦めて、席を立ち高美蔓姫神先輩の席へと向かう。これ以上は悩んでいても、時間の無駄だ。
「先輩、すみません。お時間よろしければ、また相談に乗って頂きたいのですが」
「あら? どうしたの白花那姫神さん? 仕事の話? 遠慮なんて要らないから、聞いて頂戴ね」
「うう、ありがとうございます」
私は深く先輩に頭を下げた。
高美蔓姫神先輩は、いつだってこうして優しく私に向き合ってくれる。私のよくないところは、丁寧に教えてくれるし、出来ないことは私の目線に立って、どうすれば出来るようになるのか一緒に考えてくれる。
本当に、先輩には恵まれたと思う。
だからこそ、そんな先輩に甘えっぱなしというのは嫌で、早く仕事を覚えたい。
「はい、実はこういう案件が私に割り当てられたんですけれど」
私は印刷した資料を先輩に見せた。
「え~と? どれどれ?」
先輩は眉をひそめた。
「これは、確かに難しいわね。魔王の軍勢がかなり強いし、治安も崩壊しかかってるじゃない。それを建て直せる人ってなると。この依頼料ではとても用意出来ないわね」
「そうなんです」
私は項垂れた。
「ある程度、経験が無いとあっさりと返り討ちにされちゃうのが目に見えちゃいますし。そうなると、生き返りの準備とか益々私達の仕事は増えちゃいますし。かといって、この依頼料で用意出来そうな人となると、かなり厳しいかなって」
「そうよねえ」
「かといって、向こうの世界も相当に切羽詰まっているらしくて。色々と拝み倒されたり、上にコネを使われたりしたみたいで断ることも難しいみたいです」
「それは、困ったわねえ」
先輩は顎に手を当てて嘆息した。
「でも、U沢さんとかなら、何とかならないかしら? 予算的にはぎりぎり収まる範囲だと思うけれど?」
「それなんですけど」
私は唸った。
「私も、頼めるとしたらU沢さんくらいしか無理かなあって思うんです。ですが、U沢さんをどうやって呼べばいいかなあって」
「理由なら、これまで通りテクノブレイクでいいんじゃない?」
「それは確かにそうなんですが」
これは先輩から教えて貰った仕事のやり方をそのまま真似しているのだけど。
先輩曰く、経験的には男の人を転生者に仕立て上げたい場合は死因をテクノブレイクということにするのが一番効果的らしい。
まず、基本的に大体の人間は生に執着している。だから、生き返る方法有りますよと言っておけば、それだけで話に乗ってくるし意欲も出してくる。
しかし、それだけでは少し足りない。単に病気や怪我、事故や災害で死んでしまったなら、それも運命だと受け入れてしまう可能性がある。これは、異世界に転生して苦難にぶつかった場合、心折れることにも繋がりかねない。依頼の完遂のためには、運命だとかで諦められては困るのだ。もっと強い意志を持ち続けて貰わなければならない。
そこで。
男の人というのは、口ではどう言ってもえっちな本能には逆らえない。そういう生き物だそうだ。その上で、プライドの塊で見栄っ張り。
なので死因がテクノブレイクだなどということになれば、やり残した事への後悔に加え、死因の隠蔽というどうしても譲れない目的が出来る訳で。説得は速やかに進むし、異世界を救うモチベーションにも繋がるという理屈である。
世の中に絶望しきって生への執着が薄い人や。逆に生への執着が、そう、性への執着に直結しているような童貞男子だとまた別のアプローチがあるそうなので。それはそれで、今後教えると白花那姫神先輩は言っているけれど。
「流石に、四度目ともなると、いい加減反応薄くならないかって思います。前回で既に反応が弱かったですし。私達にこれ以上の不信感持たれても、今後のお仕事をお願いしにくくなりますし」
世界を救った実績がある人材というのは、貴重なのです。ましてやU沢さんのように短期間で片付けてくれるような人は。出来ればこれからも末永くお付き合い願いたい。
「確かに、それもそうねえ」
「それで、素直にお願いして引き受けてくれるなら有り難いんですけど。お願い出来るような理由が思い付かないんですよねえ。なので、どうお話ししたらいいものかって」
「なるほどね」
ふむ。と、先輩は顎に手を当てて頷いた。
「それじゃあ、白花那姫神さん。こういうときはまず、前にも教えたとおり、基本的なところから確認しましょう」
「基本的なところですか?」
「そう。例えば、今のU沢さんにとって大切で譲れないものって何かしら?」
「そうですねえ」
先輩は、こういう場合「こうしろ」っていう答えは教えてくれない。あくまでも、どう考えていけばいいのかだけ示してくるだけだ。そこからは自分で考えるので、私も責任感や納得感は湧くし、自分で考えられたという自信も付く。
この繰り返しで、私は成長出来るのだと実感している。
U沢さんの譲れない大事なもの。それ、一つ心当たりがあります。