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第14話:ケダモノたちの世界

 ベッドの上に腰掛け、優しく背中を愛撫すると、ネコ耳の少女は俺の腕の中で身悶えした。

 ハァハァと荒い吐息が俺の耳に届いてくる。


「ダメ……勇者様。そこは、ダメ……私、そこは弱いのにゃ。あぁんっ❤」

「そうだな。いつも君はそうだもんな」

「んっ!? んんんんんん~~~~っ❤」


 俺は少女が感じた箇所に強く指先を押し当て、擦った。

 その刺激に堪えられないと、生まれたままの姿の少女は、俺の体へとしがみついてくる。少女の柔らかい温もりが俺に強く伝わってきた。


「そうかそうか。ほれほれ」

「ふにぃ~❤ そこは、ダメぇ❤ 弱いって言っているのにぃ❤」

「ほれほれ」


「んにゃあっ❤ そこっ。そこをこりこりされるの好きぃっ! 大好きっ! もっと❤ もっとおっ❤」

「そんなにおねだりするなんて、君は欲しがりさんだなあ」

「はいっ❤ 私、欲しがりなんですっ❤ 我慢出来ないんですっ❤ だから、だからぁっ❤」

 ネコ耳少女の甘く昂ぶった声が俺の耳を刺激する。


 ――が。俺はというと、全然興奮していなかったりする。

 だってこいつら、毛むくじゃらだもん。

 ケモ度ってあるだろ? 知らない人のために説明しておくけど。


 レベル1:人間に対して耳とか尻尾とか、体の一部だけが動物

 レベル2:全身が毛深くなる

 レベル3:毛皮だから着ている服も申し訳程度。顔はかなり動物寄り

 レベル4:骨格からして、単に二足歩行している動物

 レベル5:もう、完全に動物だよこれ


 これで分類すると、彼女はレベル3である。というか、この世界の住人みんなそうだ。

 世の中、レベル3とか全然余裕という人もいるんだろうけど、生憎と俺はその域には達していない。あくまでも、レベル1までしか性的な目で見れない。レベル2でも、レベル1寄りだったなら、まだぎりぎりイケたかもしれない。


 逆に、これがいっその事レベル5だったなら、メルヘンというかアニマルセラピーというか? えっちな感情は捨て去って、純粋にもふもふを堪能して癒やされていたんだと思うんだが。

 なのでこう、目を瞑って、声だけ聞いて脳内のイメージを変換すると、そこそこ悪くない気もするんだけど。撫でたときのもふもふ感が現実に引き戻してくる。

 中途半端。何というか、すっごい中途半端っ!


 あのクソ死神どもめっ! 嘘じゃないかも知れないけど、こんなの詐欺じゃねえかっ! 少しでも期待した俺が馬鹿だったっ!

 ちなみに、今も少女に対して、特に変なところは触っていない。この子、どうやら顎の下とか耳の付け根とか背中を触られるのが大好きなようで、そこをこうして撫でてやると喜ぶ。うん、本当にここら辺は猫だな。


 膝の上に座らせてこういう真似をしているので、これが毛むくじゃらを相手にしているのでなければ、端から見ればかなりえっちにも見えたかも知れないが。

 というか、彼女らと同種族の男が見たら、激しく嫉妬するのかも知れないが。

 繰り返しになるけど、俺は全然興奮出来ない。


 プードルみたいに全身の毛を剃ったら、もう少しはその気になれるかなあという気もしたけど。

 それは流石に彼女らにとっても、割と辛すぎるような気配を感じたので、止めた。そんな無理強いさせても、罪悪感が半端なくて萎えそう。上手くいく保証も無いし。

 嫌がる相手を無理矢理というのも、男の欲望というか、興奮するシチュエーションではあるかも知れんけど。妄想の限りでは、俺も結構好きだけど。


 リアルはなあ。やっぱり無理だわ。つか、嫌がるの方向も違う気がするし。

 なぁんてこと考えていると。ネコ耳少女が息も絶え絶えに、俺にしなだれかかってきた。

 ひとしきり興奮して疲れたのだろう。俺は優しくその背中を撫でてやった。


「勇者様」

「うん、何?」

「私は。いえ、私達は勇者様を慰めることが出来ているのにゃ?」

 静かな声色で。

 それは、このネコ耳娘が初めて訊いてきたことだった。


「それは――」

 不意を突かれた。それもあるが、答えを用意していなかったので、俺は押し黙る。


「至らないことがあったなら、言って下さいにゃ。何だったら、全身の毛を剃り落としても構いませんにゃ。私は、勇者様の為だったら、この世界の為だったらなんだってしますにゃっ!」

 切なく、震えた口調で言ってくる。

「どうして? そこまで?」

 少女が息を飲むのが分かった。


「こんなこと、本当は言うべきでは無いのかも知れませんのにゃ」

 躊躇いがちに、彼女は言ってきた。

「いいよ。言いな」

 何だかんだで、彼女らの世話になっているのは間違いない。その胸に抱えているものを吐き出して、それで楽になるというのなら、聞いてやろうと思った。


「私は、本当は今は無きニャハール王国の王女なのにゃ」

「えっ!?」

 遠慮無くもふっていたけど、この子王女様だったの!? いや、言われてみれば真っ白で艶やかな毛皮とか凄く綺麗だし、高貴なオーラが漂っていたような気もするけど。


「祖国を襲った魔王の軍勢。あの日のことは、生涯忘れませんにゃ。焼かれる城下。逃げ惑い、殺されていく愛しい民達。私を守るために、死地へと向かっていった兵士達。父も母も失い、生き残っているのは、私を残してほんの一握りの者だけにゃ」

 彼女の声が、堪えかねるように震えていた。


「私は誓ったにゃ。魔王を倒すためなら、なんだってしようと。でも、悲しいけど私には戦う力が無いのにゃ。ですから、勇者様がいらっしゃると聞いて、私は嬉しかったのにゃ。この身一つで済むのなら、ささやかでも魔王の討伐に役に立てるというのなら、それこそが喜びだって」

 いつしか、啜り泣く声が俺の耳元から聞こえてきた。


「ですから。お願いしますにゃ。必ず魔王を倒して。勇者様が毎日頑張っておられるのは分かっていますにゃ。でも、私にはもうこんなことしか出来ないのにゃ。何でもしますにゃ。純潔だって捧げる覚悟でしたにゃ。それなのに勇者様は決してそんな風には手を出そうとしてこないにゃ。だから、だからぁっ!」

 重い。なんつーか重い。まさか、さっきまで俺のフィンガーテクでにゃんにゃん喘ぎまくっていた少女にこんな重い過去があったとは思いもしなかった。


 でも、言われてみればそうかも知れない。そこまでの悲劇があり、窮していたからこそ、彼女らは世界を救う勇者を求めていたのだ。

 俺は、もう一度だけ、彼女を強く抱き締めて、その背中を撫でてやった。


「分かった」

 彼女を膝の上から下ろし、立ち上がる。

「勇者様?」

 俺を見上げ、涙を浮かべる少女に俺は笑顔を返した。


「ありがとう。俺、目が覚めたよ」

「にゃ? それはどういう?」

「幸せに、なってくれ」

 それだけ言って、俺は彼女に背中を向けた。部屋の外へと向かう。


 毛むくじゃら? そんなことは関係ない。女の子が辛い目に遭って泣いていて、必死になって頼んできて。そんな涙を見て。

 ここで奮い立たなければ男じゃねえんだよっ!


 これまではワークライフバランスを考えた討伐計画を考えていたが。それももうお終いだ。俺がこうしている間にも、次々と彼女のような犠牲者が現れているのだ。

 そう考えて、暢気にしていられるか。これからは本気の本気で戦ってやる。

 魔王ぶっ殺してやらあっ!

【キャラ紹介?】

ニャハール王国王女:猫です。名前はまだ無い。よろしくお願いします。

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