第13話:甘美な条件
俺は、物凄く大きく溜息を吐いて、観念した。
もう、どうあっても選択肢は一つしか無いじゃないかと。
「ああ、はい。分かりました。分かりましたよ。また異世界に行きますよ。それで、救ってきますよ。それでお願いします。生き返らせて下さい。でもって、現世の利益っつーか、運も元に戻して下さい」
そう言ってやるのだが。目の前の二人は不満げに唇を尖らせた。
「ダメですよ。U沢さん。そんな投げやりな態度じゃ。U沢さんの助けを待っている異世界の人達も、そんな態度を見たらがっかりします」
「自分から言い出した以上、もっと真面目に、やる気を出して取り組んで貰いたいものです」
そんな気になれる訳ねえだろ馬鹿野郎。誰のせいだと思っているのかと。
そう思うが、もう怒鳴る気力も無い。
「ああ、それはまあ。はい、転生したときには気を付けるから。今度はどういう世界に送られるのか、もうちょっと詳しく確認させてくれないかな?」
「と、言いますと?」
「そうだな。まずは世界観とか文明レベル。生活インフラとかどうなっているのっていう」
「これまでに行って貰ったところと、ほぼ同じくらいですよ? 地球上での中世ヨーロッパ風味で、色々な魔物が生息している」
「それは分かった。じゃあ、町の概観とかそういうのを見せてくれないかな? 資料とかある?」
「そうですね。ありますよ? えっと、こんな感じです」
白花那姫神がスマホを操作し、無人の街並みを見せてくる。白花那姫神は中世ヨーロッパだと行っていたが、俺としてはどちらかというと、東南アジアと地中海沿岸の国々を足して割ったような。そんな雰囲気を感じた。
ぱっと見、これだけの家が並んでいるあたり結構文明レベルもあって、それなりに生活インフラも整備されている気がする。
「あとさ? 出来ればちゃんと、俺のチートスキルとかについて理解がある世界がいいんだけど? やっぱり、ずっと一人きりってのは辛いものがあるし。前回は、白花那姫神ちゃんにも小まめに連絡入れて貰ったけどさ。定期的な報告の方が、やっぱりいいかなって、落ち着かないし」
特に、魔物娘相手に、えっちな真似出来ないかなあとか思っちゃうぐらいに、追い詰められたときとかな。
「そうですね。そこは、私達も至らなかった点だと思います。反省しました。ですので、今度はきちんとU沢さんの人柄とかも含めて説明してあります。それでもいいって言って貰えたので、今度はいきなり酷い目に遭わされるとか、下手したら殺されかけるなんてこともないはずです」
「随分と手回しがいいなおい」
俺は半眼を浮かべた。
これもう、事前に話が付いていたとしか思えねえんだけど?
「あとですね?」
むふっ。と、白花那姫神と高美蔓姫神は口に手を当てて笑みを浮かべた。でもって、もう片方の手で「ちょいとちょいと、そこのお兄さん」みたいな感じで手招きする。
「聞いたところによると、U沢さんを癒やすために、あちらさんは予め数十人もの美女や美少女を用意して待っているとか? よかったですよね。今度こそ、もう寂しい思いなんてしなくて済みますよ」
「え? ええっ!?」
そんなこと急に言われても俺? 心の準備が?
「うっふっふっ。役得ですよねえ? 勿論、ちゃんと真面目に魔王を倒して貰う必要はありますけど、その間は女の子達を取っ替え引っ替えし放題。ご奉仕されまくり。男の夢じゃあありませんか?」
「べ、別に俺、そんなことを期待して異世界に行く訳じゃねえし?」
頬を掻きながら、俺は彼女らから目を背けた。
顔がやたらと熱く、全身が火照っているけど。あ~、ここ暑いな~。暖房利きすぎなんじゃないかなあ?
「ていうかさ? そんな真似して、その世界大丈夫なの? こう、国民からの反発とかさ? 無理矢理とかだったら、流石に女の子達も可哀相だし」
「大丈夫ですよ。まあ、確かに、それだけあちらも追い詰められているっていう事情はありますけど。それだけに納得済みです。女の子達も、承知の上ですから。U沢さんに対しても、悪くない反応でしたよ? U沢さん、お腹も出ていませんし、髪もふさふさですし?」
うん、日々、地道に運動していてよかったと思う。あと、禿げない遺伝子に感謝。
「ふ~ん? そうなんだ」
あ、やべぇ。声が上擦っている。心臓がばくばく鳴ってるし。
「こんないい条件の異世界、なかなか無いですよ? 行くなら今っ! ていう感じです」
「これまでの異世界転生での実績を評価したからこそ、U沢さんに提案出来る異世界になります」
「う、うん。まあ、言いたいことは分かる」
だが、もうちょっと待って欲しい。こういう美味しい話というのは大抵裏があるものなのだ。
「でもさ、そこまでされると。こう、本当に世界を救ったときに、どれだけの功績として俺に還元されるのかって不安になるんだけど? 生き返ったときに、また運がそれほど戻ってないままだとか。そこを上手く折り合い付けるために寿命減らされたら嫌って言うか」
「そんなことですか? 大丈夫です。そっちも心配ありません。私達もそんな無意味な事はしません。これまでの世界は、本当の本当に余裕が無かったので、U沢さんに還元出来る利益が得られなかったのですが。今度の世界は大丈夫です。救って貰えれば、無事にU沢さんの運は元通りですよ。あるいは、寿命だってもう少し延びるかも? っていうくらいです」
「その? 女の子達を相手したら、その分色々とさっ引かれるとか、無い?」
「無いですよ? そこら辺は、全部あちら持ちです」
「そっか、それなら、悪くはないか」
「ちなみに、U沢さんは獣人とかは大丈夫ですよね?」
「獣人? 何? 今度は、獣人の住む世界なの?」
「はい、U沢さんをお迎えする女性達ですが。ネコ耳。イヌ耳。ウサ耳。最近の流行だと聞いたのか、ウマ耳の人も用意されたそうなんですけど。そこは大丈夫ですか?」
「ほほう?」
ケモ耳ですか。
悪くない。いやむしろ好き。女の子に動物のチャームポイントを更に追加するとか、そりゃあもうグッとくるものを感じる。
二次元で見ることしか出来なかった存在を目の当たりに出来るというのは、好奇心がそそられる。いや、言っておくが、性的な意味でじゃないからな? 本当だからな?
「そうですか。それならよかったです。そこだけ、先方も少し心配されていたポイントだったので」
「なるほど」
さ~て? どうしようかなあ? と、俺は考えるふりをするが。
「やる気、出てきたんじゃありませんか?」
「口ではどう言い訳しても、所詮は男ですものねえ?」
もう、心は決まってますよね? 分かってますよ? と言わんばかりに、死神の二人は笑顔を向けていた。