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第1話:死の宣告

全20話の短期集中連載です。

 ふと目を開けると、目の前が真っ白だった。

 どうにもこうにも、濃い霧の中というか、そんな場所である。


「夢?」

 俺は首を傾げた。しかし、どうにも夢にしてはリアルすぎる。夢ってーのは、もっとこう曖昧で支離滅裂なもののはずだ。視覚じゃないもので物を視ているような。でも、ここは目でものを見ているっていう実感がある。

 いや、でも俺? 確か寝ていたはずだよな?


「いいえ、ここは夢ではありません」

 霧の中から、唐突に少女が目の前に現れた。見た目と背丈から判断して、年齢は小学校高学年か中学1年生くらいで、スーツを着ている。

 俺はいぶかしげに目を細める。


「落ち着いて聞いて下さい。U沢T也さん。あなたは、死にました」

「は?」

 おいおい、唐突に何て事言うんだこの少女? 冗談にしちゃ悪趣味すぎるぜ。

 しかし、少女は沈痛な面持ちを浮かべてくる。


「いえ、本当です。残念ですが、あなたは先ほど、お亡くなりになりました。この度は、本当にご愁傷様です」

「え? は?」

 いやいやいやいや? 突然そんな事言われても?

 俺は手を横に振る。


「ですが、本当なんです。ここは死後の世界なんです。信じて下さい」

「ええと? マジで?」

「はい。マジです」

 真面目くさった少女の顔に、じわじわと焦燥感が募ってくる。

 そして、それが我慢の限界に達したとき、俺は絶叫した。


「嘘だ~!? 嘘だと言ってくれ~っ!? 俺には、まだまだやり残したことが沢山あるんだよっ! やりたいことが沢山あるんだよっ!」

「お気持ちはお察しします」

「未消化の積みゲーとか、見たかったアニメとか続きの気になる漫画とかっ! 特に銀〇伝っ! それから、PCのHDDの中身も消去していないし。ブラゲのイベントだって――」

「いい歳して、遊ぶことばっかりじゃないですか」


「やかましいっ! あ、あと投稿している自作小説だってまだ未完なんだよっ!」

「どうせ、底辺じゃないですか」

 俺は、絶句した。


「真顔でなんて事言うのこの少女っ!? それ、底辺物書きに絶対言っちゃ駄目なヤツ~っ! そんな事言われたら、事実でも書き手はショックで死んじゃうんだよ?」

「いえ、もう死んでますから? あなた」

 俺もうこの子嫌い。いくら見た目がツヤツヤ黒髪ロングストレートの美少女でも、これはねえよ。


「というか、なんで死んだの俺? 確かに――歳のおっさんだけど、健康診断によると肉体年齢はまだ30歳で、持病も無く健康そのものだったんだけど?」

「無駄に健康でしたよねえ。いい歳して独り身のくせに。あと、若作りで」

「うるせえ」

「それが孤独死って。流石に少し同情します」

「大家さんにも迷惑かけちゃうよなあ」


 まあ、死んじゃった以上はもうそこはどうしようもないし、割とどうでもいいが。

 家族や親族も、どうせほとんど縁を切ったようなもので、互いに何年も顔も見せていないし。え? そんなことになった理由? まあ、人生長く生きていれば色々あるんだよ。色々と。


「それで死因ですが」

「うん」

 事故か災害にでも巻き込まれたかなあ? 寝ている間に、火事が起きたり、殺人鬼が侵入してきたりとか。


「テクノブレイクというものだそうです」

 は?

「今、なんつった?」

「ですから、テクノブレイクだそうです」

 ちょっと、何言ってるか分からない。

 俺は首を傾げる。


「記憶にございません」

「本当に?」

「はい」

「おかしいですね。資料では死因は確かにテクノブレイクで、その原因となった行為を寝る前に過剰に行い、身体に急激なダメージを引き起こし、そのまま寝ている間に死亡とありましけど?」

「いやいや? 用法用量はきちん守っているはずだから?」


 少女が少し頬を赤らめる。

「いえ、(Pi♪)日に(Pi♪)回は流石にやり過ぎでは?」

「知ってるの?」

「いいえ、知りませんけど?」

 嘘吐け。これは絶対に知っている顔だ。声も少し上擦っていた。さも自分は何も知らないおぼこな純情娘ですって装ってからに。


 ちなみに、俺はあくまでも用法用量をきちんと守っているっ! 他人様の平均は知らないけれど、きっと普通の範囲内のはずだっ!

 誰に言い訳してんだと思うが。

 まあ、思い返しても布団に入っていた事は覚えているし。死体が見付かったときにそんな理由だと特定されることは無いはずだ。

 もはやどうしようも無い以上、生前の恥は掻き捨てっていう気もするけど。


「ちなみに、証拠画像がこちらになります」

「ちょおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!?」

 少女が右の手の平を上に向けると、映像が浮かび上がる。そこでは、下半身丸出しの俺が白目を剥いて横たわっていた。でもって、周囲にはこれでもかと丸められたティッシュとエロ雑誌が散乱していた。


「嘘だ~っ!? これは絶対に捏造だ~っ! 本気でこんな記憶ねえって~っ?」

「亡くなられる直前、ショックで一時的に記憶が飛ぶことはよくあります」

「あるかも知れんけど、流石にこれは無いわっ!」

「彼女いない歴〇〇年の中年男性の末路がこれって。本当に惨めなものですよね」

「ふ~ざ~け~ん~な~っ! いくらなんでも認められるか、こんな死に方っ!」

 俺は絶叫した。


「ご家族や親族の方達も……どういう反応されますかねえ? ふっふっふっ」

「何笑ってんだよこの野郎っ!」

 必死で息を整える。

 俺は、少女の肩を掴んだ。ぐいと顔を近づける。


「あのさ? 何とか、生き返ること出来ない? 流石にこの死に方は認められねえんだけど? あと、さっきも言ったけど、やり残したこと沢山あるんだけど?」

「そうですよねえ。そのお気持ち、よく分かります」

 うんうんと少女が頷く。


「そんなU沢T也さんに朗報です。実は何と、U沢T也さんには生き返ることが出来るかも知れないチャンスがあるんです」

「マジでっ!?」

「マジです」

 俺は軽く息を吐いた。


「なぁんだよ。そんなチャンスがあるんなら早く言ってくれよ。でもあれだろ? こういうの、どうせただでとは言わないんだろ?」

「ええまあ、そうなりますね。話が早いというか、察しがいいというか」

「何かしらお得な事言ってくる人間って、必ず代価を請求してくるしな」

 世の中、そういうものである。

 さすがにおっさんまで生きていれば、その程度は世の中分かるものだ。


「で? 俺に何をやれっての?」

「はい、異世界に転生して世界を救って下さい。そうしたら、元の世界に生き返らせることが出来ます」

「は?」


「あ、申し遅れました。私、こういうものです」

 少女はスーツの胸ポケットから名刺を取り出し、俺に渡してきた。

 名刺には「死神部 異世界転生課 白花那姫神(シラカナヒメ)」と書いてあった。

【登場人物紹介?】

U沢T也:おっさん。小説投稿サイトに小説を投稿するのが趣味。底辺物書き。

なお、漆沢刀也とは全然全く関係が無い。

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