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君に××をかけられて  作者: 山田 ミキヒサ
4/7

第3話

「一宮ー! どうだこれ! ほら! ほら!」


乳が溢れんばかりにたわわに強調された金髪の美少女が表紙いっぱいに描かれた同人誌を顔面ギリギリのところまで押し付けられた。


俺は身を引き後ずさるように、言った。


「あー! もう! 押し付けるな! ハレンチなやつめ」


「それがいいんだよ!」


今日は同じクラスの友人、立花とアニメのグッズショップに来ていた。

立花はテニスのアニメに感化されてからテニス部に入部するようなお気楽なやつで、少し伸びた前髪をセンターで分けている。顔も丸いのでてんとう虫に、少し似ている。


高校1年から同じクラスの立花は、身を粉にするようなオタクの鏡だ。最新のアニメは欠かさず、気に入ったものは順々にDVDなどを購入していく。(少し多めにいつも買う)それを仲間に布教しては、感想を求め合う。


とかなんとか言って、俺も部活で同じようなことしているが......。


立花が特に好きなのはハーレムもののアニメ。

正直、理解し難い。


でも、誰よりも楽しそうだ。

立花と買い物に行く時は、大抵アニメのグッズショップか中古ショップ、それ以外だとカードゲーム屋だった。


作品たちには興味がなかったが、不思議と立花といるのは気が楽で、苦ではなかった。


「一宮あ〜、お前もこれ見ろって! ほんと面白いから!」


「それあれだろ、主人公が猫になって女共とイチャコラするやつだろ。だいぶ前に見た」


「おお!」


「1話だけ」


「なんだよ〜! マジで3話からが特に面白いんだって!」


店の中だって言うのに、腕いっぱい広げて良さをアピールしてくる立花に、笑いが込み上げてくる。

何がそんなに良くてこの作品を俺に見せたいのか。

わからなくて、それが面白かった。



***


一宮と立花は、昼過ぎに早々と食事を済ませた。

立花は腹が緩いと言って席をたち、席に1人一宮は残された。


「何? 1人? 良かったらさ〜、友達から始めちゃおうよ」


少し離れた席で、同い年くらいの女の子が絡まれているのを見て、一宮はいてもたってもいられなくなった。


一方的に話しかける男は中年よりも少し若いくらいの、黒い大きなヘッドフォンを首にかけた、汚らしい風貌だ。

何を思って彼女に声をかけたのかは謎だ。


桜色の髪でハーフツインの女の子は、俯いて、男の話を聞かないように、一生懸命にそっぽを向いている。細身で小さいのに、さらに小さくなろうとしていた。


一宮は水を2人分ドリンクコーナーから持ってきて、テーブルに水がこぼれるようでこぼれないように、トンと置いた。


「ごめん、待たせちゃって!」


俯いていた彼女は顔を思わず上げた。


「!」


「なんだよ、彼氏持ちかよ」


女の子の向かいの席に当たり前のように腰掛け、何気ない話を男が店を後にするまでし続けた。


一宮は小さく桃のような頬に少し見とれてから、なんでもない話をし、席を離れようとした。


「あ、ありがとう」


「全然、俺も急に話しかけちゃってごめんね。

今日友達と来てるんだけど、あいつトイレ長くて今待たされてんの!」


「ちょっと!あたしまだ食事中なんだけど!」


「はは、ごめん! ごめん!」


「まあいいや! あんたのおかげで助かったし、今度、一緒にデートしてあげる」


小さく人差し指で刺され、彼女の顔をまじまじと見た。

ややつり目で、胸がキュッとなるような高飛車な話し方をするも、サッパリしていて嫌な気がしない。


「え!?」


胸の真ん中が高鳴る直前、


「一宮あ〜...!待たせた〜!トホホすぎるぜ全く...って誰だよその美少女!? おま、お前! 俺に隠れてナンパかよ!」


立花は会話を遮るように、何事も無かったかのように一宮に絡む。


「あ、ごめん、友達帰ってきたわ。デートはまたいつか出会えたらしてもらう! またね!」


女の子にヒソヒソと顔を近ずけて話してから席を立った。


「う、うん! また!」


一宮と立花は、慌てて自席に戻り、帰り支度を始めた。早々に支払いも済ませ、店外へ出た。


「なあ/おい」


2人の声が重なり、指を差し合った。


「満を持して俺から先に言われてもらう!! なんであんな美少女に話しかけてんだお前は!!」


「なんでって...! しょうがねえだろうが! 困ってたんだから〜!」


「逆に逆に! 可愛くなかったら助けなかったろ!?」


「そんなことはない! 断じて!! 神に誓って!!」


「たははは、なんじゃそりゃ! やっぱり一宮、お前おもしれえわ」


2人はケラケラ笑いながら、帰り道を歩いた。


一宮は時折、にやけた顔になるのを咄嗟に抑えた。

飲食店で出会った彼女のことを思い出すと口が緩むのだ。


一宮は運命というものを信じていたし、その存在が好きだった。

いかに自身が主人公のように振る舞えたかだとか、彼女にとっての彼氏になれるような妄想を抱くだけで満たされた。

それだけで自己が満ちるのだ。


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