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君に××をかけられて  作者: 山田 ミキヒサ
2/7

第1話

部活なんて、くだらない。


そう割り切って、部活の勧誘で騒がしい校門を足早に後にする。


青春王道漫画や小説、その類の作品たちは部活で青春を謳歌するキャラクターを描くが、実際はそうとも限らないと、俺は思う。


「一宮ぁ!お前はテニス部だー!テニス部に入ってくれーー!」


「.....」


「そ、そんな睨むなよ〜」


「俺は誰に何を言われようが帰宅部だ」


「んも〜、それ貫く?」


「もちろん!」


春は新入生達が新しいことを始めたり、今までの事を続けようとこぞってそれぞれの部の門を叩く。


なんにせよ、高校2年生に進学した、俺こと、一宮真央は帰宅部である。


明日は帰宅後バイトの面接、かく言う俺も新しいものを始めようとしていた。


「あの、一宮くん」


「.....何」


長い黒髪をたなびかせ、桜を前髪につけたまま息を切らして通せんぼしてきた彼女は、学校内でも有名な委員長、久能かほるだった。


本を1冊大事そうに胸に抱き、震える犬のように俺を見つめる。

少し距離があるにもかかわらず、はっきりと見受けられるまつ毛が、目をパチパチと瞬きする度にひらりひらりと蝶のようにはためく。


澄んだ瞳にも思わず目を奪われ、俺は見とれ、立ち止まってしまった。


「一生のお願いなの......」


久能さんのなんとも言えぬライトな声に、学校中の視線が集まる。

1年のとき同じクラスでも何でもなかったし、なんなら今日今ここではじめて喋ったし、本当になんの接点も無いはずだが、この展開...。


まさか、告白...!?


野次馬がざわめき出す。

あんなに冴えない男なのに、久能さんってもしかしてB専?イケメン好きじゃないのかな、だの、

うおおお俺らの久能さんが〜!、だのやかましい。


っていうか、俺に対する批判多いな!


それにしても、確かになんの取り柄もないような俺になんのようなのか。


心做しか、久能さんも妙に顔が赤らんできているような気がしてきた。


何だこの状況は...!


「な、なんだよ」


「この本、読んで感想聞かせてください!」


野次馬共はズッコケ、俺も少し肩を落とした。


あ〜よかった、久能さんがあんな地味メンに告白するはずがない、だのなんだの言いながら野次馬の群れは無くなった。


本のタイトルは、『無くし物』

角谷蜜の10年ほど前に出版された短編小説だった。


「これ...」


「その本、私、大好きなの!

さっき教室で角谷蜜の本読んでたから好きかなって思って!私あんまり小説の話できるような友達いないの......。だから話がしたくて!一宮君ってよく本読むの?最近の本屋さん大賞の本読んだ?私まだ読めてなくて!でもでも、もし読んでるんだったらネタバレはしちゃダメだからね!そういえば、今日一宮君が読んでた本って角谷蜜の『三隅荘』でしょ!?私もそれ読んだよ!犯人は...」


「えっと、俺も読んだよ。『無くし物』」


「あ、そ、そうなんだ!」


マシンガントークで話し続ける久能さんの言葉を遮った。いっぺんに喋ったからか、また息を切らして顔を赤らめている。


「良かったら、今度一緒に読書会しようよ」


「読書会?」


「放課後一緒にお互い同じ本を読むの!キリがいいところで感想をいい合う!」


少し、面白そうかも。


「嫌じゃなかったら、クッキーとか焼いてくるし、お茶も出すし」


「.....」


「だめ、かな?」


「うっ.....」


また潤んだ瞳で見つめられ、ギョッとした。本当に趣味の合う人を見つけたというだけだろうか?

なにか裏があるはずだ。



***


「今日は来てくれてありがとう!私、クッキーいっぱい焼いてきたんだよ!ほら!」


「わ〜、うまそう」


なんだかんだ言われるがままに放課後、文芸部の部室にやってきた俺は、久能さんにクッキーを見せびらかされる。


「さ、ここ、サインしよっか」


久能さんは文芸部の入部届をすっと俺の前に滑らせた。しかも手際よくボールペンまで用意された。


「って、文芸部の勧誘かよ!!」


「ごめんね〜!どうしても人が必要だったの!」


「人が必要って、俺以外にもいるだろ!部員なんていくらでも!」


「ん〜......」


人差し指で頬を触りながら首を傾げる久能さんが、目を泳がせた。


「私、1人なの。廃部寸前なんだ〜」


「いや!俺はこれからアルバイトライフで金銭面もガッチリした感じで青春を謳歌する予定なんだ!断じて文芸部へは入部しない!」


「もー!そんなこと言わないで、人助けだと思って入部して!お願い!」


「いや、無理だね!人をだまくらかしてまで入部させようとするとは見損なっ」


パッと右手を、久能さんの両手が包む。

そのまま久能さんの胸に右手が押し付けられてしまった。

すごいふかふか、と思っているのもつかの間。


「お願い...!」


お互いだけを見つめ合う時間が何秒も流れた。

気恥ずかしくて、でも、綺麗な瞳に吸い込まれる。


俺は、俺は....





あっさりと入部してしまった。


でもまあ、本を読んでクッキー食うだけの部活なんてちょろい。


そんなこんなで、文芸部への入部を決めてしまったのだった。




家に帰ると、アルバイトの採用通知がメールできていた。

来月から飲食店のキッチンだ。

ガッツリ稼いで、ガッツリ遊んでこの高校時代を終えてやる!

中々なろうに慣れません。お手柔らかに。

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