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第8話 翌日

 ――そして、翌日。


 長かった今週もようやく最終日だ。

 重たいまぶたをこすりつつ、俺はゆっくりのっそりいつもの道を通って学校へと向かう。


 せっかく潮凪さんと隣の席だというのに、起きているのか寝ているのか自分にも分からないままに一日を過ごし。


 そうして迎えた放課後。


 くぁ、と大きく欠伸をして伸びをする俺に声がかかる。聞き覚えのあるその声は、まるで、なにかの始まりを告げるようで。


「おー、遼太郎、ちょっと」


 ぱん、と強く叩かれた背中をささりつつ声の主を見ると、隣のクラスの青山祐希あおやまゆうきだった。


 こいつとは幼稚園の頃からの腐れ縁で、俺と違ってサッカー部に所属しわりと高校生活をエンジョイしている。なんかこう、俺にはないどこか爽やかな雰囲気があるんだよな。


 誰か一番仲のいいやつの名前を挙げろと言われれば、多分俺は青山を挙げるだろう。まあ、同じ質問をして向こうが俺の名前を挙げるかはかなり微妙なところではあるが。


「なんだよ。どうした急に?」


「……うわ、おまえ目のクマすごいな。さらにすごい目つきになってるぞ? なにしてたらそうなるんだ」


「ほっとけ。アオこそ、部活は?」


「いやこれから行くけどさ。ちょっと部活の後輩の男子から変な話聞いたから、気になって遼太郎んとこ来た」


「変な話?」


「……ちょっとこっち来い」


 青山は周囲をきょろきょろと見回すと、教室の隅の方へ俺を引っ張って行く。そうして、ひそひそと話し始めた。


「お前ってさ、潮凪さん好きって言ってたよな? 無謀にも」


「余計なお世話だ。……だからなんだよ? やめとけとか言われても俺は諦めないぞ? 昨日、改めて俺は決意したからな」


 青山は俺の好きな人を知っている唯一の人だ。

 いや……もう一人いたな。脳裏に浮かんだ彼女の顔をどうにか振り払う。


「だよな。いや、そうだと思ったから聞きに来たんだけどさ」


「……えらい勿体ぶるな? 早く言ってくれ、今の俺は何を言われても驚かない自信がある。あ、でも潮凪さんに彼氏が出来たとかなら死ぬぞ?」


 「んなわけねえだろ」とぼやいてから青山はもう一度辺りを確認し、真剣な面持ちで口を開いた。


「あのさ、七瀬小春って知ってるか?」


「は?」

 

 自らの意思とは関係なく、声が漏れた。

 彼女の背中、笑顔、そして涙。思い出すと心臓がばくばくと鳴って言うことをきかない。


 なんで、青山からその名前が出てくるんだ?

 ……わからない。なにか、繋がりがあるのだろうか?


「……その反応。やっぱ知ってんだな。一年の子なんだけど、なんか結構可愛くて人気あるみたいでさ」


 思わず息を飲む。なんだ? 七瀬が潮凪さんを好きだということをバラした? いや、それは七瀬になんのメリットも……。


「まあ後輩から聞いた話だから、俺も半信半疑なんだけど」


 青山が続けて放った言葉は。

 俺がどうしても、なにがあっても、彼女に会わなければならない理由となった。


「――遼太郎、その子にめちゃくちゃ熱い告白したって本当か?」


 教室から俺は飛び出し、ただひたすら走る。

 目指す場所はひとつ。七瀬のところだ。


 俺は心の中で叫ぶ。


 七瀬小春! 

 あんの、くそやろおぉぉぉぉぉ!!!


 一度さようならをして。

 そして俺たちはまた、始めなければならないらしい。




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