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9.現実2

 さて、俺はこの世界に転生して色々と調べた後、あることをやっておきたいと思った。

 それはこの世界の現実で働くことだ。


 この世界にもお金のようなものがあり、必需品ポイントとYENポイントがある。

 必需品ポイントはNPと呼ばれ、食料や最低限の衣類、洗面周りの道具など必需品を購入するために使われる。このNPは定期的に支給され、利用期限あるので一定以上は貯めることができない。

 YENポイントはYPと呼ばれ、これがこの国の本来の通貨に相当する。部屋もVR機器も最小の機能を備えたものが貸与されるので、NPさえあれば衣食住満たされて生きていくことができ、娯楽に困ることもない。だが必需品以外のものが欲しければYPを稼いで購入しなくてはならない。


 俺はそれなりに身だしなみを整えると外出する。トレーニングジムも外に出なくても行ける場所にあるので、最初の入院以来の外出になる。


 外に出て周りを見渡す。堅牢そうな大きな建物が立ち並んでいる。この国は地震が多いことから超高層の建物は少なめだそうだが、そうは思えないほどどれも高い。建物から垣間見える空は少し曇りのある天気のようだ。未来だからといって大気汚染があるわけではなく、空気に変な匂いは感じない。

 そうしていると俺の上空に建物の出入り口に備え付けられたドローンが1台やってくる。このドローンが道案内をしてくれる。また俺の警護と監視も兼ねている。


 この世界ではドローンを付けずに外出することは許されない。もし付けずに外出すれば、捕縛されて罰を受ける。国によっては射殺もあり得るらしい。仮想世界と違い、現実世界で人が自由に振る舞うことは社会システムにとってリスクが高いからだ。


 ドローンに案内されて少し歩くと広い道路に出て、そこに停まっていたヴィークルに乗るよう促される。小型の乗り物で中は二人乗りくらいの広さがあり、タイヤは付いていない。多分浮くのだろう。

 ヴィークルに乗り込むとだんだんと加速をして進み出す。窓がついているので外を見ることができる。途中に緑が植えられた公園のような場所があったが、それ以外は高層建築の似たような景色で代わり映えはしない。人は全く見かけないし、たまに別の大型のヴィークルとすれ違う程度だ。

 しばらく窓の外を眺めてると、ヴィークルは少しづつ減速をし始め、やがて停止した。

 ヴィークルの扉が開き外に出ると、そこはかなり大きな建物の前だった。横にも縦にも大きい商業施設のようなイメージだ。

 どこからともなくドローンがまた俺のそばに来て案内を始める。さっきのドローンとはおそらく別のだろう。

 ドローンに従って建物に入ると、目の前には1メートルくらいの高さの円筒形のロボが居て、そこから声が聞こえてきた。


 『宙藤(そらふじ)莞爾(かんじ)さんですね、ようこそ。この案内ロボの指示に従って行動してください』

 「わかった」


 ロボに返事するのが普通なのかは分からないが、そう返事をして俺の仕事が始まった。


 仕事内容はVR研究の試験協力だ。

 用意されたVR機器を使って仮想世界へと行く。体に圧迫感や温感、チクリとした痛みなどの刺激が与えられ、どんなだったか感想を伝える。食事をして味や食感を伝える。

 終わるとまた別のVR機器を使って同じようなことを繰り返す。途中に小休止を挟みながら淡々と指示をこなしていると、いつの間にか仕事が終わる時間になっていた。


 帰りは来た道を逆になぞるようにして、特に何事もなく俺は部屋へと戻ってきた。結局、仕事中すらも誰とも会うことはなかった。仕事内容からして他にも人が居るはずだが、かち合わないように調整されていたのだろう。

 労働時間は現実で約3時間だった。移動時間を含めると現実で3時間半ほどかかっていた。得られた報酬はこの労働時間にしてはかなり破格に感じる。



 宙藤莞爾の記憶を探ると、現実で働くことに少し忌避感を覚えていたことが分かる。

 現実での3時間は仮想世界での9時間に相当するので、仮想時間を基準に考えれば6時間が失われたことになる。だがそれなら実際に9時間働いたと思えばいいし、9時間だとしても報酬は十分に多い。


 だが、そういうことではない。この世界の人はあまりこのようには考えないのだ。おそらく労働に対する考え方が違うのだと思う。前世では労働を辛いものと考える人が多かったと思うが、今世では人生を彩る時間の一つと考える人が多いのだと思う。だからこの6時間が、そのまま人生から奪われることのように感じる。

 この世界で現実で働くということは、きっと寿命を売る行為に近い。

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