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7.十字路の草原

 今日はアマネとパーティを組んで一緒に遊ぶ日だ。特にトラブルもなくアマネと合流する。

 アマネは水色を基調としたローブと帽子を着用しており、木製と思われる簡素な杖を手にしている。魔法使いの序盤の装備なのだろう。

 アマネはすでにチュートリアルを終えており、さらに近場のエリアで一人で少しレベルを上げていたらしい。自分が好きなゲームを年下の子が追いかけるようにして遊んでいるのを見るのは、何だかくすぐったいような気分になる。


 「カンジさん、今日はよろしくお願いしますね」

 「こちらこそよろしく、じゃあ早速出発しようか」

 「はい、チャックンも一緒だね」


 チャックンは触手をうねうねさせながら俺の背中に張り付いている。折角仲間になったのだから一緒にいる。でも足が遅そうなのでこの定位置だ。戦闘では多分役に立たないだろう。


 アマネはまだ始めたばかりなので、移動ゲートがあまり開放されていない。だから最初の街(王都という設定)に隣接したエリアへと移動する。

 ここは「十字路の草原」というエリアで、最序盤から行けるエリアの中では下から3番目くらいの難易度だ。


 このゲームはジョブレベル制というパワーアップシステムになっている。俺はジョブが重戦士で、アマネは魔法使いだ。各ジョブにはレベルがあり最大レベル99まで成長できる。またレベル50を超えると転職が可能となり、別のジョブに就くことができる。転職してまだレベルが低いうちは転職前よりも弱くなるが、ある程度レベルを上げると追いつけるようにできている。そうやって転職を繰り返すことで徐々に強い力を得ることができる。

 このジョブレベル制というのも単純すぎるためにかなり古びたシステムと見なされていて、相変わらずの懐古趣味路線といえる。


 俺は今回、重戦士を騎士のジョブへと転職してきている。もちろんレベル1ではなく多少レベルを上げているが、まだ重戦士の頃よりは弱いため。アマネとの強さの差を縮めることができる。また騎士には後方の仲間を守れる特性があるので、後衛の魔法使いであるアマネと相性がいいと考えたからだ。

 そのあたりの情報共有は既に終わっているので、俺たちは「十字路の草原」エリアへと足を踏み入れる。


 晴れ渡った草原を二つに分けるように真っ直ぐと街道が東へと伸びている。道は広めに作られていて馬車なんかも通れそうだ。そこを俺はアマネと二人並んで歩いている。散歩、ハイキング、デート、そのどれとも違う不思議な状況に、妙な高揚感を覚えて空の方を見上げる。そしてつい思ったことを口に出して言った。


 「いい天気だなあ、なんてゲームで言うのはやっぱりおかしいのかな」

 「ふふ、わたしもぽかぽか陽気は好きですよ。たまにですけど、雲がゆっくり流れているのを眺めたりすることもあります」

 「雲を眺めるのしたなあ、俺も子供の頃やった覚えがある」

 「でも、わざわざ悪い天気の場所に行かない限りは普通いい天気ばかりなので、天気に目を向ける人ってあまり居ないんですよ」

 「……まあ、そうだよな、やっぱり少しおかしな言葉だったか」

 「そんなことないですよ、わたしも青空がきれないだなあって思ってましたし」

 「だったら良かった」


 俺たちは少し顔を向け合い微笑みを交わす。そして歩き続ける。


 しばらくしてようやくモンスターが現れた。グラスブルーウルフという全長1メートルほどで、青みがかったくすんだ緑色の毛色を持つ狼型のモンスターだ。そのグラスブルーウルフが2匹現れた。道沿いで2匹現れるのは少しついてないが問題はない。

 俺はアマネよりも前に出て、グラスブルーウルフ達からアマネを隠すようにして槍斧(ハルバード)を構える。こうすると騎士の特性により、グラスブルーウルフは後ろにいるアマネを攻撃対象にすることができなくなる。チャックンも背中で威嚇らしきものをしている。

 2匹のグラスブルーウルフは少し時間差を付けて俺に飛びかかってくる。アマネを守っているので大きな回避はできない。俺は1匹目を槍斧で弾き返すようにしていなし、2匹目を武器で正面からガードする。ガードしたとはいえダメージを受けるが、思ったよりダメージ量が少ない。これも騎士の効果かもしれない。

 そのガードされたことで生じた隙をついて、2匹めのグラスブルーウルフにアマネの炎の魔法が直撃する。その直後、さらにグラスブルーウルフに僅かな隙が見える。俺はすかさず汎用武器スキル「スイング」を発動して強力な横薙ぎの一撃をグラスブルーウルフに叩きつける。俺の体を薄く青いオーラのようなエフェクトが覆い、いつもよりも強力な攻撃となる。グラスブルーウルフのHPはあっけなく尽きて消滅した。

 もう1匹のグラスブルーウルフが再び俺に襲いかかってくる。俺は先程と同じように武器でいなし、その後に生じた隙を突いて斜め上方から武器を振るう。さらにアマネの雷の魔法が追撃するがHPは削りきれず、その次のグラスブルーウルフの攻撃に対処してから倒すことができた。


 「よし戦闘終了、何とかなりそうだな」

 「雷の魔法はうまくタイミングが合いませんでした……」

 「アマネさんならそのうち成功するよ、さっきのも惜しかったと思ったし」

 「そうですね、次は成功させます!」


 「ルインズクエストオンライン」のパーティ戦闘ではチェインというシステムが追加される。これはこちらの攻撃がモンスターに当たった時に生じるごく僅かな隙に、タイミングに合わせて追撃すると与えるダメージが大きく上昇するシステムだ。このチェインによる追撃はタイミングさえ合えば何度でも重ねることができるが、回数が増すとタイミングがよりシビアになるので成功しにくくなる。1回のチェインなら比較的楽だが、2回のチェインは滅多に成功しない。3回以上のチェインとなるとまず不可能といわれている。

 だが1回のチェインだけでも十分強力なため、ただでさえ戦闘が楽なゲームがさらにヌルゲーと化す。アマネがチェインを使いこなせるようになれば、もっと色んなエリアに行くことができるだろう。

 俺たちは戦闘を終え、周囲に他にモンスターが居ないことを確認すると、また一緒に道を進み始めた。

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