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23.特別メッセージ

 そうしてまた、しばらくの日が過ぎ去ったある朝。

 目が覚めてホームでウインドウを確認すると、特別メッセージなる非常に重要そうなものが来ていた。



 『宙藤(そらふじ)莞爾(かんじ)様 研究協力を要請します。また現実での肉体移動を伴うので都合の良いタイミングを連絡してください。 イーストエテルニタス』



 特別メッセージ。それは少なくとも管理者相当の権限がなければ送ることができない。いたずらである可能性はまずない。

 そして最後のイーストエテルニタスという言葉。これを特別メッセージの送り主として載せる以上、何かの間違いで送られたということもないだろう。



 この世界は科学技術の発展によって、エネルギー生産効率と利用効率の大幅な上昇、より高い資源発掘能力を得た。さらにロボットやAIの発展も加わり、工業生産能力も大きく高まることになる。

 またフルダイブ型のVR技術も革新を重ね、現実と遜色ないレベルの仮想世界が実現するようになり、現実世界と仮想世界のライフバランスが声高に議論されていた。

 そんな中、文字通りに降って湧いたような唐突さで、思考加速技術が世にお披露目された。

 当時はまだ2倍速にも満たない性能であったが、急激に高まった仮想世界の価値に人は目の色を変えた。

 社会格差による紆余曲折はあったが、社会システムを安全に維持するために、やがて全ての人が仮想世界を利用するようになる。

 そんな激動の時代において、現実世界における需要が大幅に低下していった。美食もおしゃれも観光も、現実でする必要はない。あらゆるものが仮想世界にある。それに現実世界では皆あまり時間を使いたくないのだから。

 多くの企業が破綻し、統廃合に追い込まれた。そして最後に残ったのが、VR技術と思考加速技術を握る、ウェストインフィニタス社とイーストエテルニタス社を筆頭とする巨大企業グループだった。

 この二社と傘下企業だけで、世界経済の99パーセント以上を占める。それは世界の全ての物と金がこの二社だけで回っているといっていい。株も為替も全てコントロール可能だから、国すら敵に回すことはできない。

 当然軍隊も持っているし、そもそも軍を構成する機械兵がこの二社の息がかかった製品なのだから、この二社を相手にしてまともに機能するとは思えない。

 つまり、この二社こそがこの世界を支配する王だ。



 そんな巨大企業の一つ、イーストエテルニタス社から直々に研究協力の要請がきた。それはもう命令だ。断れるわけがない。


 「肉体移動か、まあ今日このあと現実に戻った時かなあ」


 そう呟きながらメッセージを返信する。するとなんと、仮想世界に居たままでVR機器ごと移動させてくれるらしい。そんなことできるのか。

 何度かメッセージをやり取りして、今すぐに移動することが決まる。既に準備万端だったようだ。

 今日はこのまま仮想世界で過ごして、寝る前に現実に戻ったら別の新しい部屋にいるわけか。かなり良い設備を持った部屋で、そこに新しいVR機器を用意しているから乗り換えるようにいわれた。


 ふう、なんかおかしなことになったけど、まあなるようにしかならないか。

 今日はアマネと遊ぶ約束だ。楽しみ、楽しみ。さあ行くか。

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