20.ベンチ
学園から戻り、またいつもの日常に戻っている。
今日はアマネとも予定が合わず、一人で「ルインズクエストオンライン」に来ている。だが何だか一人で遊ぶ気にもなれず、街にあるベンチに座り、ぼんやりとプレイヤーが行き交う様を眺めていた。
このゲームはMMOなので、俺やアマネ以外にもプレイヤーは居るが、モンスターの居るエリアで遭遇することはめったに無い。
このゲームは戦闘はぬるいが、その代わりにマップが広く、他のプレイヤーと遭遇する確率が低いからだ。エリアは地上だけで1000以上ある。ダンジョンや隠しエリアを含めるともっと増える。
さらに未クリアのエリアもあり、その先の開放されていないエリアを考えると、将来はもっと増えるといわれている。正直どうかしてると思う。
だから俺とアマネのように偶然出会えるのは、とても稀で劇的といえる。
だが街に来るとそれなりにプレイヤーを見かける。年齢には多少ばらつきがあるが、どのプレイヤーも美男美女ばかりだ。
この世界のゲームアバターは基本的に現実と同じ性別になるし、髪色や髪型など一部を除けば容姿も実際のものからあまり変化させることができない。なのになぜ美男美女が多いかというと、過去の歴史に原因がある。
今から何百年か前に、人の知能はほぼ後天的なもので決定するという仮説が主流となった。それにより子孫を作るためのパートナーを、容姿だけで決めることが流行してしまったのだ。そのために現在、容姿が整った人がとても多い。アマネもヒミカもユウトもリナもミサキも美形だった。ちなみに宙藤莞爾も前世なら間違いなくイケメン扱いされる。
今はもう少し穏当な仮説が主流となっており、そんな流行もなくなっているが、美形だらけになったせいで容姿を気にする人が少数派となったのは皮肉かもしれない。
今、俺の心はゆらゆらとしている。こんな時は、あまり良くないことを考えてしまうものだ。
例えば、ここにいる人たちは、なぜ生きているんだろう、とか。
生物がより快楽を求めて生きるとするなら、快楽神経を刺激して、何もせずともただ幸福感に身を浸していればいい。無論、そんな社会を根底から崩壊させるような機能は無い。でもこの世界の技術なら、やろうと思えばできるはずだ。ならば、快楽だけを求めてしまえば、人は生きる目的を見失う。
陳腐だが、やはり愛なのだろうか。俺はアマネのことを思い浮かべる。でも、この人を愛することで得られる幸福感すら、機械が脳に刺激を与えて再現できるのではないか。
ああ、だめだ。この思考は良くない。俺は首を振り、頭の中の考えを追い出そうとする。何か冷たいものでも飲もう。
何も考えないようにしていると、またアマネのことが思い浮かぶ。
俺のアマネへの想いは本物だ。根拠はないし、理屈もない。
でも、俺はこのアマネが好きだという想いを信じる。
俺が、強く信じている想いなのだから、これはきっと本物なのだ。




