表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/28

18.学園2

 ところで、さっきからあのヒミカの存在感が無い。どうしたのかと見渡すと、イベント映像を一人で見ているようだ。相変わらずの自由奔放ぶりだ。

 でも俺も取り残されてしまったし、ヒミカと一緒にイベントでも楽しむか。


 ヒミカの近くに行き、ヒミカが見ている3D映像を俺も見る。どうやら二人の少年がバトルをしているようだ。


 『キラニュン轟け! 俺の一撃を喰らえ!!』

 『轟くは我がキラニュン、十より一が失われし属性よ、我のもとへ集え!!』


 派手なスキルエフェクトを飛び交わしながら戦っている。キラニュン以外に轟けって言葉も流行ってるのかな。そんなことを思いながら観戦する。


 この世界にも、中二病という言葉はある。もはや中学二年生という生徒は存在しないが、残る言葉もあるということか。あの少年たちはこの世界では中二病真っ盛りなのだろう。とても楽しそうだ。

 俺は観戦を続けながら、学園に関する知識を記憶から掘り起こす。



 この世界の授業は完全に個別制だ。そして個人よって習う内容が違うのも普通だ。この世界に教師という職業は無い。NPCの方がもはや優秀だからだ。

 勉強だけでなく、ゲームのような娯楽もある。社会性を学ぶための皆で集まるレクリエーションもある。ただその全てが何かしらの学習に関わっていたように思う。

 例えばあるRPGのゲームでドロップ品を売るときに、NPCから次のような会話をされる。


 『それは1つ5ゴールドで買い取ります。でも隣町に行くと1つ8ゴールドになりますよ。でも片道の移動に20ゴールドかかります』


 この時、正解となる選択肢や行動が決まっているわけではない。そんな言葉は気にせずにそこでドロップ品を売ってしまってもいいし、ドロップ品をたくさん集めてから隣町に売りに行ってもいい。あるいは何もせず、明日になって今日とは変化した相場に頭を悩ませるのも楽しいだろう。

 これはかなり単純な例だが、全てが万事この調子だ。特に算数、経済、論理学を重視していて、最初の6歳からこれらの基本的な知識を学んでいたように思う。

 そしてそもそもとして、勉強させようという意思がとても薄い。

 学園のスローガンは、「好きなことを見つけて全力で楽しみなさい。それに飽きたら、別の好きなことを全力で楽しみなさい」だった。


 これは、前世と今世を比べてどちらが良い教育なのかという話ではない。

 前世では、社会に出れば社交性や協調性がとても大切になる。だからあのような教育内容だった。

 でも今世では社交性も協調性もあまり重要ではない。

 では、今世では何が重要視されているのか。それは多様性だ。最低限、犯罪者にならないように道徳は教え込まれるが、それ以外はできるだけ異なる人間ができるように教育される。

 多様性という言葉は前世にもあって大切とされていた。人はそれぞれ考え方や価値観などが違うことを当然であると認め、その垣根を取り払った社会を指すものだったと思う。

 だが今世で重要視されている多様性は、前世のそれとも何かが少し異なるように感じる。あまりにも多様性が広がりすぎたために、垣根は取り払われたのに遠くを見ていないような。垣根があることは良くないことだが、垣根がないからといって必ずしも人同士が繋がる必要はない。

 大勢の人が互いの存在を認め合いながらも、ただ無言でそこに居るだけ。不意にそんな不気味な光景を妄想してしまう。

 だが、そこまでの多様性を求めたことにもきっと理由があるのだろう。

 これは俺の想像だが、この世界の教育システムは、天才を作り出すことを目的にしていると思う。広く深く多様性の根を張り、どこかに埋もれているだろう天才を発掘するために。

 もうこの世界は、天才が何か途轍もないものを発明しない限り、次のステージに進めない。そう判断したのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ