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17.学園

 この世界では、未成年と成人で利用できる仮想世界が分かれている。これは未成年保護のためもあるし、よりよい教育環境を維持するためでもあるし、同年代だけで社交性を育むためでもある。


 この未成年のための仮想世界全体を、学園と呼ぶ。


 この学園へは基本的に成人が出入りすることはできないが、学園で行われるイベントなどで招待されることはある。この招待される人選は明確にされていないが、信用のおける人物からの推薦といわれている。大抵は有名人や高い技術を持つ人が選ばれるが、そうでない人も多く招待されており、そのハードルはあまり高くない。

 ただし人格についてはそれなりに厳しくチェックされており、問題のある人が招待されることはまずない。

 例えばこの世界にもロリコンという言葉がある。未成年である11歳以下に性的興奮を覚える性癖のことで、このような人格の人物が招待されることはない。俺の恋人であるアマネは成人なので、俺は無論ロリコンには該当しない。

 今回は信用のおける人物としてアマネが選ばれ、そこからヒミカと俺が推薦されたらしい。


 アマネとヒミカと俺の三人は、学園のイベント会場へとやってくる。

 そこは複数の個別のイベント空間があり、それを2D映像や3D映像で自由に観戦、観劇することができる。また誰でも参加可能なイベントであれば、自由に一瞬でそこへ移動して参加することができる。

 俺たちが訪れたのは、個別に観戦や観劇ができる空間で、俺たち三人しか居ない空間だ。


 そこへもう一人、女の子が現れてアマネの隣に並ぶ。


 「お二人に紹介しますね。わたしの後輩のミサキです」

 「は、はじめまして。紹介に与りました、桃浜(ももはま)未紗来(みさき)です。10歳です。『ミサキ』と呼んでください。よろしくお願いします」

 「私は光崎ひかりざき日魅香(ひみか)、『ヒミカ』って呼んでね。ミサキちゃんよろしくね!」

 「俺は宙藤(そらふじ)莞爾(かんじ)、『カンジ』と呼んでくれ。よろしくミサキ」


 ミサキはアマネと同じく銀髪をした女の子で、アマネと比べると少し白っぽい銀色をしている。身長はアマネと同じか少し低いくらいだろうか。やや目尻の下がった大きな目が特徴的な可愛らしい子だ。

 ミサキはヒミカの方を向くと声をかける。


 「あの、ヒミカさんですよね、リナ先輩からよくお話を聞いています。この前の『STFB』の決勝戦、とても素敵でした!」

 「ミサキちゃんも見てくれたのね、ありがとう!」


 とても自然にヒミカがミサキの手を両手で握り、ミサキは少し頬を赤らめている。これがヒミカの恐ろしさだ、こうやってあちこちでファンを作り出しているに違いない。


 それにしても、これで線が繋がったな。アマネの情報はミサキとリナを経由してヒミカに伝わったのだろう。でもちょっと世間が狭すぎないか? それともこれが普通なのだろうか。宙藤莞爾はどちらかというと、ぼっち気味だったのでよく分からない。

 そしてミサキが今度は俺の方へと向き、好奇心を覗かせながら訊いてくる。


 「えっと、カンジさんは、アマ姉の恋人なんですよね?」

 「ちょっとミサキ!」


 ほお、アマネはアマ姉と呼ばれているのか、可愛いな、凄く可愛い。照れているアマネをもっと見ていたいが、ここはきちんと返答しなければならない。

 俺はアマネに近寄り、ぐっと肩を抱きしめて宣言する。


 「アマネは、俺のとても大切な恋人だ」


 アマネは顔を赤く染め、うつむき加減になりながら照れている。

 ミサキは何だか凄く楽しそうに興奮しているようだ。


 「も、もう、カンジさん……」

 「きゃーーー! アマ姉たちキラニュンですーーー!」


 そうだろう、そうだろう……いや、なんて? きらにゅん? ミサキが何かよく分からない言葉を使っている。

 とりあえず二人が落ち着くのを待ち、それからさっきの言葉について訊いてみた。


 「ごめんなさい、つい口に出てしまって……キラニュンは素敵とか、格好いいとか、そんなような意味で使います、学園だと大体通じます」


 ミサキが説明してくれる。ふむ、若者言葉のようなものだろうか。まあ閉鎖された社会で独自文化が起こるのはおかしなことではないか。

 そんなことを考えていると、ミサキがじっと俺の顔を見つめている。

 どうかしたのだろうか。俺もミサキの顔を見つめ返し、どうかしたのか訊こうとすると、突然ミサキが大きな声で叫んだ。


 「あー、思い出した! カンジさんて、昔にアマ姉が格好いいって見せて……」

 「ミサキ!?」

 「く……んーーー!」


 ワンテンポ遅れるようにしてアマネも突然大声を上げ、ミサキの口を手で塞いだ。ミサキはアマネを見ながら何か抗議しようとしているが、それを制してアマネが俺に言葉を伝える。


 「カンジさん、ごめんなさい、ちょっと席を外しますね!」


 そうアマネは一方的に言い、ミサキとともに消え去った。


 ふむ、まあ俺は難聴ではないので聞こえていたけどね。昔って言ってたな、それは俺がアマネと出会うよりも前なんだろうか。だとしたらアマネは俺のことを既に知っていた?

 まあいいか、後で本人に直接訊けばいいことだ。

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