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14.アマネ

 あれからもアマネとは一緒に何度か遊んでいる。アマネもかなり強くなったし、行けるエリアも増えた。

 今日もアマネと一緒で、今はギルドでドロップ品の売却中だ。もちろんそこに居るNPCはエリスである。


 「はい、カンジさんどうぞ、いつも頑張ってますね」

 「ああ、ありがとう」


 エリスがいつも通りに俺の手をぎゅっと握って売却金が俺の所持金へと加算される。

 次はアマネの番だ。同じパーティなので売却時も同じ部屋にできる。


 「アマネさんどうぞ、怪我とかしちゃダメですよ」

 「はい、エリスさん、ありがとうございます。エリスさんの手、暖かくて柔らかくて、こうやってぎゅっとしてくれるのとても好きです」

 「……アマネちゃん!」

 「ええっ!?」


 突然エリスがアマネの手ではなく体をぎゅっと抱きしめた。


 「あっ、ごめんね、苦しかった?」

 「いえ、大丈夫です、ちょっとビックリしただけで、とても嬉しかったです」

 「アマネちゃん!!」

 「エリスさん」


 二人はお互いの手を背中へと伸ばしてハグしあっている。


 え、なに、これ。こういうのもあったの? 俺は? 俺にはしてくれないの? どういうことなの?

 俺は混乱のあまり呆然としていた。俺もエリスの手を褒めればいいのだろうか。俺は実際にそのセリフを言う光景を思い浮かべる。


 (「エリスの手、暖かくて柔らかくて、こうやってぎゅっとしてくれるのとても好きだ」)


 あ、ダメだ、これは多分ダメなやつだと思う。こんなことを言った日には、次回から距離を置かれる可能性すら想定できる。じゃあどうすればいいんだよ! どうしようもないのかよ!


 俺がそんな頭の悪い葛藤を繰り広げている間に、二人の抱擁は終わっていた。「じゃあまたね!」と挨拶を交わして手を振り合うと、アマネが俺の方へと近寄ってくる。


 「カンジさん、じゃあ行きましょうか。……どうかされましたか?」

 「……ああ、うん、何でもないよ、行こうか」


 そうだ、俺にはアマネがいるじゃないか、そうだ、うん、よし。そうして何とか気を取り直す。


 そのあとは談話室へ移動する。これもプレイヤー毎に隔離された空間で、同じパーティメンバーだけが入場でき、落ち着いて話し合いをすることができる。

 そこには触手を生やしたイソギンスライムが2体、チャックンとテティスが居た。アマネも既にイソギンスライムをテイムしていて、「テティス」と名付けている。大昔の女神の名前から付けたらしい。テティスはチャックンと比べると、少し体色が黄色みがかった水色に見えるかな。

 アマネが早速テティスのところへ行き、その腕に抱くようにする。


 「テティス、いい子に留守番してましたか、ふふ、くすぐったいですよ、テティスは甘えん坊ですねえ」


 チャックンもアマネたちの方へと近寄っていって、触手を威嚇するようにわらわらさせている。アマネに構ってほしいのだろうか。


 「チャックンは元気でとても強そうですね、やっぱりカンジさんに似るのでしょうか」

 「ペットは飼い主に似るというやつか、こうして見ると不思議と個性が違うように見えるなあ」

 「プレイヤーの行動によって個性が出るようになってるんだと思いますよ」

 「このゲームもそのあたりは手を抜いてはいなかったか」


 最近はゲームを進めるだけでなく、こうやってしばらく雑談をするくらいには仲が深まった。アマネも最初の頃はちょっと口数少ない印象だったが、今では打ち解けてきたのか、たくさん話をしてくれる。


 「スライムは分裂によって増殖するのが一般的ですが、イソギンスライムは共生相手の因子を取り込むことで分裂した個体が変化する性質があってもいいと思うんです」

 「あったら面白いけど、このゲームにはペットが増殖する機能はなかったと思う」

 「提案はしてみましたが多分採用はされないと思います」

 「もう提案していたのか、まあいちいちプレイヤーの提案を聞いてたらきりがないしな」

 「なのでデザインした方に連絡して、ホームで研究するつもりです」

 「あー、なるほどなあ」


 ゲーム中のAIを持つペットは大抵ホームでも出現させられるようにできている。ホームでゲーム的な強化を施すことは出来ないが、一緒に遊んで友好関係を深めることはできる。

 さらにアマネは生物の生存戦略を研究テーマにしていて、そういった研究用の機能をホームに揃えている。


 「テティスがアマネの因子を取り込んで進化、いや新しい個体を生み出すわけか」

 「はい、できればカンジさんとチャックンのデータも欲しいのですがいいですか? 色々なパターンを用意したいので」

 「もちろんいいぞ」


 ゲームキャラクターの容姿、能力、行動パターンといったデータを研究用に複製することは一般的だ。

 そして俺は軽い気持ちで次のように会話を続ける。


 「そうすると、俺とアマネの因子を取り込んだスライムができたりするわけか、一体どんなになるか楽しみだな。ああ、もちろんチャックンも忘れてないぞ」


 チャックンがこっちを向いて威嚇するように触手をわらわらしていたのでそう付け加える。

 アマネは少し考え込むようにして首をかしげる。そうしてしばらく考えた後、おずおずとこう俺に尋ねてきた。


 「カンジさんは、わたしとの子供を作りたいのですか?」


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