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10.友人

 少し前、アマネと一緒に遊んだ日の前日に俺はメッセージを受け取っていた。

 相手はヒミカからで、今度ユウトと一緒にお茶でもしようという内容だった。そして今日がその約束の日だ。


 そこは美しい街並みだった。広い大通りと歩道があり、街路樹と趣ある街灯が立ち並んでいる。大通りの先には門の形をしたモニュメントである凱旋門が見える。ここは前世の有名な観光地のようだ。

 大昔の観光地はデータが多く残されていて、こうして風景や地形としてよく利用されている。

 その歩道に張り出したカフェテラスのテーブル席に俺は座っている。そして同じテーブルの別の席に男性が座っていた。


 「やあカンジ、久しぶり」

 「ユウトか、久しぶりと言うには頻繁に呼び出されてる気もするけどな」

 「ははは、まあヒミカだしね、呼ばれたら参上するさ」

 「ちがいない」


 こいつの名は六条院(ろくじょういん)悠刀(ゆうと)。俺と同じ17歳。輝くような金髪の中性的な美男子で、この世界でも類まれなほどに端正な顔立ちをしている。そんなユウトは俺へと優しげに微笑んでいる。

 そこへまた、別の空いていた席に女性が現れる。


 「やあ、ふたりとも、待った?」

 「いや、それほどでもないよ」

 「ああ、別に待ってない」


 こいつの名は光崎ひかりざき日魅香(ひみか)。彼女も同じく17歳。朱色に近い赤髪を肩の上ほどまで伸ばしており、美人だがそこにあどけなさも見え隠れし、不思議なカリスマ性を醸し出している。彼女は俺たちのリーダー格、俺とユウトをよく振り回している。


 ここはヒミカのホームの一部だ。許可された人だけがゲストとして入場できる。こうして親しい者同士で集まる時はこういった機能を使う。

 それから俺たちはしばし雑談に興じた。


 「ユウト就職したって聞いたけどどうなの?」

 「うん、コネなんだけどね、もう働いてるよ」

 「楽しい感じ?」

 「いや、工場管理系が多いから滅多にトラブルもなくて平穏だね」

 「ふうん、どのくらい働いてるの?」

 「月に30時間くらいかな」

 「え、結構多いね!」

 「何かと物入りでね、VR機器もできれば新調したいし、多めに入れてもらってるんだ」

 「そっかー、一緒に遊べる時間減るかもねえ」

 「大丈夫だよ、融通くらい効かせられるさ」


 ヒミカとユウトが就職の話をしている。

 この世界にも企業や公務員があるので就職する人もいる。だがほとんどを機械やAIがこなすことができるので、人が必要な仕事はとても少ない。だから就職して定期収入を手にできるのは非常に優秀な人か、あるいはコネを持つ人に限られる。

 実力だけで就職するのは狭き門で、前世の感覚でいうとその国で一番の大学に入学するより少し難しいくらいの難易度だ。

 またコネもある。この社会は格差が激しく、上流階級であるかどうかでお金に相当するYPを稼ぐ難易度が大きく変わる。ユウトは上流階級に半分くらい浸かっている身分らしい。無論、俺は下流だ。だが格差を是正しようという声はごく一部しかない。下流だろうとなんだろうと、大半の人は問題なく楽しく幸せに生きることができて、不満が出にくいからだと思う。

 仕事内容についてはあまり詳しくないが、管理系の業務が多いと聞く。この世界はほぼ全てが機械とAIによって動くので、人が介在する必要はなく、エラーチェックやトラブル処理すら大半が自動で行われる。だが可能な限り不慮の自体を防ぐために、その動作状況や結果について複数の人がさらにダブルチェックを行う。こういった事情で人の雇用が僅かだが確保されている。


 会話に一区切りついたのか、ヒミカがこっちの方へ顔を向ける。


 「カンジはさ、前に言ってた『ルインズクエストオンライン』やってることが多いの?」

 「そうだな、楽しく遊んでるよ」

 「ふむ……カンジ、少し柔らかくなったよね、少し前までちょっと悩んでるっぽかったから良かったよ!」

 「……ああ、まあな、心配してくれてありがとう」


 ……正確には転生してきた男が混ざっていて、宙藤(そらふじ)莞爾(かんじ)の人格は前と異なっているといえる。そのことに対して、この気のいい友人たちに少し後ろめたさを感じなくもない。だがそのことを正直に話すのもまた違うと思っている。それはただ混乱させるだけだし、俺が隠し事をしている後ろめたさを解消したいがための、我がままとも思うからだ。

 それに、俺はやはり宙藤莞爾でもあるのだ。宙藤莞爾が築いてきた関係や想いはちゃんとここにある。

 俺はだから、そう答えてから少し笑ってみせた。


 「あー、カンジが笑ってるー!」

 「ふふ、カンジが笑ってるところなんて久しぶりに見たかもね」

 「そうか? まあそうかもな」


 宙藤莞爾はやや内に籠もる内省的な性格だった。それで考え込むことが多く、たまに悩んでいるように見えたのだろう。だけど別に悲観的ではなく、何か一つのことを突き詰めていく職人肌な気質だったのだと思う。それは今の俺にとっても共感できる好ましい在り方だと受け入れている。


 そんな雑談をしながら、穏やかに時間は流れていた。

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