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1.転生

 二つの記憶が混ざり合い、反発し合う。

 意識が混濁している。

 激痛、混乱、何もかもが分からない、理解できない。

 時折、意識を手放しながらも、少しづつ少しづつ、記憶は整理されていく。


 そして俺は、ゆっくりとその記憶を消化していき、ようやく自分という意識を自覚する。



 目が覚めると、俺はベッドの上で横たわっていた。

 上半身は服を着ておらず、コードの伸びた電極のようなものが幾つか張り付いている。腕の方にも別のコードが伸びており、点滴がなされているようだ。

 周りを見渡すと、そこは白を基調とした、華美な装飾のない部屋だった。ベッドのある壁際には機械が幾つか置かれており、上半身からのコードと繋がっている。

 おそらく病院か何かの一室だろう。


 『お目覚めになられたようですね。今のあなたのバイタルに問題はありませんのでご安心ください。後で医師から説明がありますので、少々お待ち下さい』


 落ち着いた女性の声がどこからか聞こえてくる。

 やはり病院か何かのようだ。

 俺の名前は何だったか、なぜここに居るのか。まだ良く思い出せない。


 しばらくそうしていると、次は落ち着いた男性の声が聞こえてきた。


 『こんにちは、ソラフジさん、意識ははっきりしていますか? 私の声が聞こえて、理解しているなら頷いてください』


 俺はゆっくりと首に力を入れて、頷くような動作をする。


 『大丈夫みたいですね、私は医師のナカザトです。では早速ですが説明を始めます。ソラフジさんは今から12時間ほど前に心停止しました。すぐにVR機器に付属している心肺蘇生装置により救命措置が行われ、心停止から約50秒後に心臓の再活動が確認されました』


 落ち着いて聞き取りやすいが、やや速い口調でナカザト医師による説明が始まる。


 『しかし心肺蘇生後に意識が戻らなかったため、この医療区域へ移送しました。心停止による影響を検査しましたが、体にも脳にも特に異常は見られませんでした。ソラフジさんは今無事に意識を取り戻しましたが、念の為にもう1日検査することをお勧めします。退院は明日になりますが、よろしいですか?』


 俺は再びゆっくりと、頷くような動作をする。


 『では検査の際にはまた声をかけますので、指示に従ってください。何かあれば、枕元のナースコールを押すか、声で呼びかけてください。これで説明を終わります。無理はせず、お体をお大事に』


 そうして、ナカザト医師の声が聞こえなくなり、静けさが戻る。

 状況は分かった。

 そしてソラフジという名前から、俺の記憶もだんだんと浮かび上がってくる。


 俺はソラフジという名前の人間ではない。

 だが同時に、ソラフジという名前の人間でもある。

 俺の中には二人の人間の記憶がある。

 一人は、30代前半の男で、会社に勤めていた。

 そしてもう一人は、宙藤(そらふじ)莞爾(かんじ)という名前の17歳の男で、この体の持ち主だ。


 30代の方の男の名前は思い出すことができないが、俺の意識の主体はどちらかというとこの男のように感じる。

 だがもう一人の宙藤莞爾の記憶や想いも残っており、名前が分かっているためか、あるいは体の持ち主のせいか、宙藤莞爾としての意識も強く俺に影響を与えている。


 俺はもう二人のどちらでもないのかもしれない。

 二人の人間が融合してできた、新しい意識を持った人間が俺。

 そう考えた方がしっくりするような気がする。


 そんなことを考えて記憶を整理しながら過ごし、日が変わって俺は退院した。



 入院中に記憶を整理するなかで薄々と勘付いていたことだったが、退院後に改めてこの世界について色々調べることで、俺は一つの結論に行き着いた。


 この世界の古い歴史や星の並びが、30代の男の記憶にあるそれと一致する。


 いや、もう30代の男ではなく、前世の俺と言い換えよう。


 おそらくここは、前世の俺が生きていた世界の未来、あるいは非常に似た異世界の未来だ。


 俺は宙藤莞爾という未来を生きる男へと転生し、宙藤莞爾が死の淵を彷徨ったことでその意識や記憶が蘇ったのだろう。



 俺はこうして、この未来の世界で、宙藤莞爾として生きていくことになった。


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