使えるはずのない力
オーガ族も手伝ってくれるようになり、拠点の発展は進んできた。俺が建てた家のような何かではなく、山岳地帯でよく見られる四角い建物が建ち並んでいる。この際だから、とオーガ族の家も山頂から引っ越して作り直すらしい。
どうしてオーガ族がここまでしてくれるのか……それは俺の強さにひれ伏したから、なんかじゃない。
目当ては俺の支援の術だ。
基本的に召喚士は自分の使い魔にしか術を施さない。いや、施せない。だけど、ティレスと契約してしまったせいだろうか……俺は忠誠を誓った者には術を使えるようなのだ。
召喚士の支援は多くの魔物にとって魅力的だ。基本的な能力の底上げ、派生スキルの習得、自分の体を最大限活用できる術、召喚士が使い魔にしてやれる事は多い。
だが、それは全て『使い魔に限る』という制約の下に紡がれるものだ。
……の、はずだった。
「レックスの兄貴ぃ! こいつはどうですかい、オーガの建築では高く階層も多くするのが美学なんでさぁ」
「レックスさん、ラプトルの皆さんの付き添い終わりましたよー。皆、すごくたくさん食べるんですねえ……反抗的な魔物の処理も出来て一石二鳥ですけど」
俺が試しにかけた支援の術はオーガが自分の背丈の五倍の丸太を運べるようになり、ラプトルの足にどうにかついていける程度に速力を強化してしまったのだ。
もちろん、単純なパワーで言えばティレスに敵う者はいない。全力で駆けるラプトルの群れに重兵がついていけるわけがない。
だが、今や恐竜にも知性が芽生えてしまった。ティレスは相変わらず恐竜姿になれば破壊の限りを尽くしてしまうが、純粋な使い魔であるラプトルには速度調整くらいは命じることができるようになってしまったのだ。
「よーっし、これにて第一の陣完成だ!」
オーガの声が響き渡り、一同は喜びの声に包まれる。それ自体は結構な事なんだけど……。
「兄貴、無事作業を終えましたよ! これで我等にも彼女らのような恩恵を――!」
そう、オーガ達は俺の力を何か勘違いしているのだ。俺はあくまで恐竜を人化させただけで、人間にこんな能力を与えたわけじゃない。
だというのに、オーガ達は自分も同じだけの力が得られると信じて今日この日まで頑張って作業していたのだ。
あの酒の席でどんな会話があったかは知らないが、きっとその場のノリで話が盛り上がったのだろう。「うちのレックスに任せとけば安心ですって!」みたいな。
そのせいで俺はオーガの期待をへし折る羽目になった。後で固体名のみならず個人名も覚えておくことにしよう。三十キロは全力で走らせてやる。
「あー、うん。ご苦労だった。俺達だけではこの里は出来上がらなかった。感謝する」
「いやあ、リュウキ様が認められたお方です。こんなもの、苦労でもありませんって」
そうは言うが、オーガ達は何かしらを期待している。リュウキにも何か吹き込まれたのだろう、あいつが言いそうな……「レックスは見たこともない景色を見せてくれる」とかなんとか。
ああ、もういい。これで何も出来なくてオーガ達が怒り狂ってもティレスが居れば殺されることはあるまい。
「では、君達に力を与えてみよう。期待はするな、初めて使う能力だ」
「はっ、ははーっ! ありがてえ、本当にありがてえ!」
考えてみれば、オーガ達は被害者でしかないからな……ティレスにケンカをふっかけてズタボロにされたわけだし。
まあ、試しにあれをやってみるか……どうせ失敗するなら派手に、だ。
「その存在を高みへ引き上げる――『ランクアップ』!」
これは、召喚士には不必要とされていたもの。だが、熟練テイマーがよく使う術だ。召喚士とテイマーは似て非なるもの。それでも、俺はどうにか最初に従える使い魔でも強くできないかと、他者をレベルアップさせる術まで学んであったのだ。
だが、この身はあくまで『召喚士』だ。使い魔は進化する事はできない……だから、きっと無駄だろうと思いながらも教養として学び終えた。
「お、おおぉ……!」
だが、青い光がオーガ達を包み……やがては、不格好に膨れ上がっていた筋肉が凝縮されていき細身になり……そこには見るも見事な美男子美少女達が揃っていた。
「こいつは……俺達の子孫、鬼族の姿! やっぱすげえ……レックスは、いやレックス様は破壊の御子なんかじゃない、俺達の救世主だ!」
……成功した? 何故? やはりティレスとの契約がイレギュラー過ぎたのか? いや、それにしてもおかしい。俺は召喚士……それも、恐竜しか呼び出せない存在だったはずだ。それが、どうして?
その答えは、ティレスが与えてくれた。
「……スティラコサウルスの力ですね。見てください、あの立派な一本角。草食恐竜ですが、あの角には肉食恐竜だって何度も困らせられたと聞きます」
「恐竜の力を……魔族に与えたのか?」
「おそらく、私を化石から蘇らせた事と関係があるのでしょう。この世界のまほーとやらはよく分かりませんが、かつて人間を絶滅させた同胞には似たような現象が起こっていたそうです」
ふむ、なるほど……よく分からないけど、まあこれからも恐竜の力を得たオーガ達……いや、もはや鬼神族と呼ぶべき彼らを仲間に引き入れた点はでかい。
「ティレスは知ってたのか? 俺にこんな事ができるなんて……」
「いえいえ、まほーは分からないと言ったばかりじゃないですか。しかし、私を生みだした力ならそのくらいは可能だろうと考えていました。てっきり、ご主人様もそのつもりで動いているものかと……」
そんなわけがない。俺の体に何が起こったかは知らないが、この世界の常識を軽く越えている。一個一個は些細な超越かもしれない。だけど、これが積み重なっていけば……。
「……素晴らしいわね。これが『新境地』の力なのね、レックス君」
「誰だっ……って、君は……あの時の!」
そこへ現れたのは、久しぶりに見る純粋な人間……しかも、かつて俺に勇気をくれたプラチナブロンドの少女だった。
「少し、お話させてもらえないかしら?」
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