王都:新境地
レックス達がいる山からおよそ百キロ近く離れた王都。彼が六年間を過ごしたその国では激震が走っていた。
なぜなら、召喚士としての『新境地』に至った者が現れたからだ。
順を追って説明しよう。王都には大体の職業の育成学校があるのだが、その中でも召喚士学校は大きな施設だったのだ。
そして、『新境地』とは、かつて誰も目覚めた事の無い力に目覚めた者が現れたという現象を指す。剣士で言うなら『剣神』が誕生したとか。それが、新種の召喚士が突如として確認されたのだから誰もがこぞってその正体を知りたがった。
だが、召喚士学校にそんな生徒はいなかった。世界中が感じ取った異次元の魔力を使った使い魔契約は、確かに召喚士によるものだとされていたのに、そんなはずはない。
となると、野良の召喚士か別の国の召喚士か……と騒動は収まらず召喚士界隈の話題は全て『新境地の召喚士』に持って行かれてしまったのだ。
そのために、召喚士学校では毎日緊急会議が行われていた。
「何て事だ……そんな召喚士が現れたというのに、我等の耳に全く入ってこないとは……おかげで王都の召喚士学校は無能だと新聞共が大はしゃぎだ!」
「しかし、他国の召喚士学校にそんな存在が出たとしたらすぐさまこちらへ連絡するはずです。奴らは育成学校のトップである我々に優位をアピールしたいはずですからね」
「となると、公にできないものを召喚してしまったのでは? 例えば……魔神だとか」
「馬鹿をおっしゃるな。召喚できた以上、制御しきれるものしか生み出せません。魔神を思い通りに扱えるとなれば大手を振って世界中へ喧伝して回るでしょう」
そんな水掛け論にしかならない論議をずっと黙っていたプラチナブロンドの髪をした少女……生徒会長のソフィはようやく口を開いた。
「少し前に、一人の召喚士が退学処分を受けましたね。勉学においてはトップの成績を誇り誰もが音を上げる魔力鍛錬を一日たりとも欠かさず行っていた生徒が。彼が『新境地の召喚士』という可能性は?」
その声は凜として周囲を自然と黙らせた。こうなれば、会議の主導権はソフィに移ってしまうのだ。
「し、しかし……彼、レックスは何も召喚出来なかったのですぞ? それが『新境地』などと……」
「何も召喚できない……いえ、召喚できる存在がいなかった。しかし、出て行った先で見つけた……それが新種となれば、辻褄は合いませんか?」
「それはそうだが……いや、そんな事はあってはならん! 『新境地』に至る者を退学にしたなどと知れたら、権威が落ちる所の話ではない!」
「権威の話はしていません。可能性の話です。まずは事実確認をし、違っていたならそのまま、本当なら戻ってきてもらう。それで話は進むと思われますが」
「うぬぅ……おい、確かあの生徒については六年目のジーンがよく知っているはずだろう。連れて来い」
教員の一人がそう命じて、ジーンがやってくるまで……誰一人として口を開こうとはしなかった。
「ど、どうも……六年のジーンです。あの、何か……?」
ジーンはレックスを追放した時とは大違いな態度で会議室に入ってくる。ガチャリと鍵も閉められてびくりと身を竦ませたほどだ。
「うむ、ジーン君。『新境地の召喚士』が現れた事は知っているね?」
「噂くらいは……そのおかげで、学年主席の俺の話題もすっかり消えちゃいましたから」
「その召喚士が、レックスではないかという疑いが出ている」
そう聞いた瞬間、ジーンは怒り狂ったように目を剥き大きく頭を左右に振った。
「そ、そんなわけないでしょう! あんな頭でっかちが『新境地』!? そもそもあいつは山に帰ったんですよ。そこで何をしたかなんて分かるわけないでしょう!?」
そう、ジーンは知らなかった。『新境地』は神の目により補足され、特定の周波を拾える機器さえ持っていれば誰でも知ることができることを。
「参考までに聞くが、レックスの紋章色は何だった?」
だからこそ、この質問には大きな意味が生まれるのだ。ジーンは何故そんな事を聞くのかも分からないまま、正直に返す。
「はあ……青色でしたが。生意気にも透き通るような……いや、そのくらい薄い色なんですよ!」
青。それは各地からの証言通りの色だった。空を照らすほどの青い光を以てして召喚魔法が使われたと。
学長は頭を抱えながら沈鬱な声で言った。
「……ソフィ君。君の意見を取り入れよう。すぐに手配を」
「いえ、その必要はありません。私自らが向かいますから。ジーン、レックスは山に帰った……あの『鬼山』の事ね?」
「た、確かそうだったような……最初は『鬼山』出身ってことでどんだけ強いんだと思ったらとんだ雑魚で皆からかってましたから……」
「結構。それでは、行ってきます」
ソフィはそれ以上の議論は不要だとばかりに立ち上がり、会議室から出て行こうとした。
「ま、待ちなさい! たった一人では……」
「ご安心を。この学校最強の使い魔……天使を扱える私に、危険な場所などありませんよ」
そう、彼女こそ『祝福のソフィ』。学校どころか召喚士としても最強の一角なのだ。
そんなソフィは、会議室を出て旅支度をしながら……とんでもないものに出会おうとしている予感に震えていた。
「さて、キミは本当に運命の出会いを果たしたのかな? レックス君――」
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