親睦会
夜、拠点の中央に置かれたキャンプファイヤーを囲んでオーガ族と恐竜娘達の宴会が行われていた。
月の光と炎の灯りしか無い中、それでもそれぞれ楽しそうに木樽で出来たジョッキを持って話し込んでいた。
「へえ! お前さんらは使い魔なのか。使役してるあのレックスさんってすげえんだろうなあ」
「そうよ。だって、あのティレスが従っているんだもの。不思議な術も使えるし、彼に呼び出されて本当に良かったわ。こんな美味しい飲み物も楽しめるしね」
ラピス達は俺同様、初めてのお酒に舌鼓を打っているようでオーガに囲まれて楽しそうに話していた。
俺はその輪に加わるでもなく、オーガのリーダー……名をリュウキと言うらしい……と並んでコツンとジョッキをぶつけながら酒を楽しんでいた。
「レックス、あんたはすげえよ。キョウリュウなんて未知の生物を使役してるなんて……しかも、これだけの数を人化させるなんて並大抵の魔力じゃできねえ。どんな魔法を使ったんだ?」
「あいつらはただ俺の願いに応じてくれただけさ。それに……俺自体が強いわけじゃない。ティレスやラピスが特別凄いだけさ」
「何を言ってるんだ、レックスは召喚士だろ? だったら、使い魔の力もあんたの一部じゃねえか。たとえあんたでもあんたを貶めるとティレスさん達まで貶めることになるぜ」
その言葉に、何故かハッとした。知識の上だけでは知っていた、使い魔も含めてやっと一人前の召喚士だと。だけど、自分にそんな資格があるのかと心のどこかで感じていたのだ。
「俺達は力こそ全てだが、人間は違うだろ。絆……誰かとの縁も力に換えてしまうんだからすげえって話だ。腕力はテメエで腕に命令して力を発揮するだろ。あんたの場合は使い魔に命令して力を発揮するってだけの話じゃねえのか?」
「……そうだな、そうだ。はは、慰められちゃったな」
そうして周囲が大騒ぎする中、しばし沈黙が流れ……俺は気になっていた事を告げた。
「君の言っていた使命って、なんだい?」
「ああ、そうか……話してなかったな。俺達は旧文明の頃から連なる鬼の一族でな。当時からずっと、この山に眠る伝説を守り続けてきた。何億年単位で続いてきた俺達の誇りだ。いつか目覚めるその日を待ち続けてるんだ……」
「それって、あの大地の亀裂の底……何かの傷跡みたいな場所に眠っていたかい?」
俺の言葉に、リュウキはばっと俺を振り返って「どうして知ってる?」と問いかけてきた。
「そこに居たのがまさにティレスなんだよ。あと、巨大な骨もあったな。水晶だらけの空間で……」
「め、目覚めたのか? 俺達の悲願は……とっくに成されていたのか?」
「そうかもな。ティレス達には魔力がないから分からなくても仕方ないよ」
「そうか……そうか……ああ、本当にレックスはすげえよ! 過去に何万人がこの山に来たと思う? それでも伝説が目覚めることはなかった。だけど、あんたはたった一度の邂逅で成し遂げちまった!」
リュウキはグッとジョッキをあおり、何か吹っ切れたように大きく笑った。
「改めて尊敬させてもらうぜ。数億年の時を越えて命を紡いだあんたって奴を、俺達は心から尊敬する! どうだ、俺達もあんたの配下に加えてはくれねえか!?」
「そりゃ大歓迎だけど……良いのか、こんな酒の席で決めちまって」
「男が夢を語る場所が酒場以外にあるか? レックスについていけばとんでもねえ景色が見られると思うんだよ。使命が遂げられた今、他にやることなんざねえんだ。だったら、目覚めた伝説が何を成すのかを間近で見てみてえんだ」
目を輝かせて夢を語るリュウキに、俺は思わず親近感を覚えてしまった。そうだよな、結局……男の子ってのはそういうのが好きだよな。
「良いぞ、俺についてこい。指定Sランクのオーガが味方になってくれるなら、こんなに心強い話はない。これも何かの縁だ……俺の仲間になれよ、リュウキ」
「おう、部下にも話してくらぁ。この場は詫びの機会でもあり、俺達の『親睦会』でもあったんだろ?」
「はは、お見通しか」
リュウキはジョッキを持ったままキャンプファイヤーの近くへ駆けていき、オーガ達の注目を集めて呼びかけ始めた。
そんな様を見ながら、俺は夢心地の気分で酒をまた口に含んだ。まさか、ただ素材を取りに行かせただけでこんな展開になるなんてな……。
すると、俺の背後からむにゅ、と柔らかい肢体がしだれかかってきた。酒の匂いと共に仄かに女の子の香りが鼻腔をくすぐる。
「うふふ……友達増えて嬉しいですねぇ。ご主人様~」
「ティレス、酔ってるのか?」
――おい、極上の果実酒の樽が空になってんぞ!
――ティレスさん、がぶがぶ飲んでたからなあ……仕方ねえよ。
そんな声も遠くから聞こえてくる。あの肉を食う勢いで酒をかっくらえばそりゃ酔いもするか……。
俺は背中に当たる感触を惜しみながらも、ティレスを抱きかかえるように座らせた。
「君、ずっとあのオーガ達に守られてたんだってさ。何世代も繋がれて……幸せ者だな?」
「眠ってる間のことなんて知らないですよぅ……私にとっては、初めて見つけてくれた貴方こそが唯一仕えるべきご主人様なんです。果実一つも採れない私ですけど、必要としてくれましたから……暴虐の王と呼ばれたティラノサウルスの私に友達になろうだなんて……ふふっ、本当にご主人様は、おかしな人です」
瞼も半ば下がってきているティレスの月によく似ている髪を撫で付けて、俺はあの青い光を思い出す。
俺の運命を変えたあの光は……どこまで届くのだろうか。そんな事を思いながら。
「……ふかふかのベッドを作ったんだ。柔らかい葉を集めただけのもんだけどさ、一緒に寝るか?」
「はい……ずっと一緒ですよ、ご主人様」
そうして俺達は、喧噪広がる広場から抜け出して一軒と呼ぶのも恥ずかしい家の中へと入っていくのだった。
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