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オーガ族

 それから、数日が経った。家の建築は思ったより早く終わった。


 丸太を寄せ集めただけのようにも見える外観はお世辞にも洒落ているとは言えない。屋根部分に使った葉のカーテンが何とかそれを家らしく保たせている。


 暗い色ながらも高級感溢れる木材から作ったとは思えないほど、見事に安っぽい出来になってしまった。だが、こんなものでいい。いつか、立派な縄張りになった日に「あんな建物もあったな、初めて作ったんだっけ?」と笑い合えばいいのだ。


「しかし……ティレスの奴、遅いな」


 ティレスは素材を取りに行ってくると言ったきり、未だ戻ってきていないのだ。あの強さだ、殺されたのかもしれないなんて考えたりはしない。右手の紋章ともまだ繋がっているからな。


 だけど、道に迷ってしまったんじゃないかという不安はある。この山はデカい。もし正反対へ行かれでもすれば探すのが大変になってしまう……。


 と、その瞬間……俺は怖気にも似た気配を感じた。だが、即座にその正体を理解する。ティラノサウルス姿のティレスが歩いてきたからだ。


「ティレス、帰ってきたか……って、そっちの奴は?」


 その背後から、一人の男……いや、明らかに人間じゃない。ティレス達と同様、人型をしているだけで魔物だ。そう判別できたのは、奴から発せられる異様な魔力は魔物特有のせいだ。


「あんたがこの化物の主人か?」


 しかめっ面をしたそいつは……オーガだ。会話は成り立つらしい……聞いたことはある、魔物の中にも知性を持つ者は居るらしい。分類上では魔族と呼ぶらしいが……。


「ああ、そうだ。うちのティレスが何か粗相でもしたか?」


 総じて言えるのは、力に正直であるということ。強きには従い弱きは踏みつけにする。だから俺は、見せかけでも強い口調を選ぶ必要があった。


 俺に取れる手として最も有効なのは……オーガがティレスを化物と呼んでいること。そのさらに上にいるという立場だ。強そうなのの上に立っていれば、自然と強そうに見えるというもの。


「そうか……」


 オーガが悠然と俺に歩み寄ってくる。背中に大斧を担いで、赤く見える肌をして頭には立派な一本角。なるほど、鬼の王とはよく言ったものだ。


 自然と、ゴクリと生唾が飲み込まれた。しかし、その状態にあっても周囲の恐竜娘達は動こうとしない。これはどうしたことだ?


 そう思った瞬間、ザッとオーガが跪き俺に頭を垂れた。


「お目にかかりまして恐悦至極に存じます。俺は恥ずかしくもこの山をシメるヌシであります。しかし、あんたの配下には完全敗北です。どうか、我等の降伏を受け入れてはいただけねえでしょうか」

「……は?」


 そのオーガが発した言葉を、俺は咄嗟に理解できなかった。それが何を勘違いしたのか、オーガはさらに顔をしかめて、ぬかるんだ地面に頭をめり込ませる程押しつける。


「もちろん、何の対価も払わないとは言わねえ。この俺の首一つで、勘弁してもらいてぇっ……! 確かに俺達ぁあんたにとっては敵かもしれません。人間を襲うは魔の道理。強え奴が上に立つのは至極当然の道理。だけど……誓って俺達は人間を襲った事はありやせん。それはこんな言葉だけで証明できるもんでもねえ。だが……どうか、どうか! 死ぬのは、俺一人でいいっ……!」


 不器用ながらも精一杯の誠意を払おうとしてくれるオーガを前に……俺はちらりとティレスを見た。すると、彼女は人の姿を取って「やれやれ」とでも言いたげに肩をすくめた。


「愚かにも私を襲おうとした魔物を食べていただけですよ。そのうち、山の秩序がどうとか言ってくる者がいたので、同じように攻撃しただけです。だって、出て行かないとご主人様の作ろうとしている拠点を襲うだなんて脅してくるもので……」

「で、痛めつけたと?」

「私に見逃すという選択肢はありません。ですが……言葉を交わせるために、ご主人様の友達になれるかもしれないと連れてきました。この者もそれを望んでいるようでしたので……」


 なるほど、大体事情は掴めた気がする。言葉通り受け取るなら、オーガはこの山を統治していて、そこに発生した秩序を乱す異物を良く思わなかったわけだ。さらには人間が拠点など作ろうとしているものだから……自衛の攻撃を仕掛けた。


 すると、ティレスに返り討ちにあってこうして敵大将の俺に頭を下げる羽目になったわけだ。自然の掟とはいえ何とも可哀相な……だが、そうなると一つだけ気になることがある。


「俺はかつてこの山で魔物に襲われず過ごしていた。幼かった俺を見逃す判断をしたのは……君か?」

「……」

「……そうだよな、答えられないよな。顔を上げてくれ、ヌシよ」


 その言葉に、あくまで目線は俺より低いままに顔を持ち上げたオーガの泥だらけになった顔を服で拭ってやった。


「俺達に魔物を殲滅する意思はない。もちろん襲ってくる魔物は別だけど、山の秩序を守っていた君の仲間にまで手を出してしまったのは、俺の監督不行き届きだ。詫びるのはこちらの方……だけど、それじゃ納得しないだろう。だから、条件を一つ呑んでくれれば和解しようじゃないか」

「俺に出来る事なら……仲間を守れるなら、何でも……!」

「俺と友達になってくれ。俺は今でこそティレスもラピスもいるけど、男友達ってのにはとんと縁が無くてね……それでも気が済まないってなら……そうだな、酒を要求しよう。知ってるか、盃を交わすと友達になれるんだぜ。それで今回の話はチャラにしようじゃないか」


 俺の言葉に、オーガは僅かに目を揺らして、信じられないとばかりに首を左右に振った。


「そんな事で……許してくれるのか」

「別に俺達が傷を負ったわけじゃないからな。盃を交わすって事は、永久の絆ができるようなものだぞ。それを、そんな事で済ませる気なのか?」

「ありがてぇっ……何て、何て懐のデケえ男だ……! あんたの仲間を襲った俺達を、子分にしてくれるなんざ……!」


 本当に、どんな目に遭ったのだろう。ティレスの奴にはしばらく単独行動をさせないでおこう。何をするか分かったものじゃない。


「おいおい、こっちは友達のよしみにつけ込んでこの山で生きていく術を教わろうとしてるんだぜ? 感謝なんかするもんじゃねえよ」

「もちろんだ、俺が声をかけて黙らねえ魔物はこの山にゃいねえ。それでもあんた達を襲うとしたらトンぢまってる奴か生まれたての赤ん坊くらいだ。反撃してくれてもいい、代々この山をシメる俺には欠かせない使命があるんだ。それを続けるためならっ……!」


 もう一度頭を下げようとするのを、俺は止めて肩に手を入れて立ち上がらせた。


「俺の服をまた汚す気か? 気狂いはどうしようもねえが、赤ん坊は殺さないよう言いつけておこう。それでどうだ? 俺は実は酒を飲んだ事がなくてね……オーガの君なら良い酒を持ってるんだろ?」

「……ああ。とっておきの奴を持ってこよう。俺達とこの拠点にいる奴で飲み明かす。それでいいか?」

「文句無しだ。それじゃ、頼むぜ。今夜は宴会だ!」

 ここまで読んでいただきありがとうございます!


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