無双の始まり
さて、何はともあれ……現状の確認をしなければならない。というのも、今俺は全く動けないのだ。
「どうしたのですか、ご主人様?」
「『召喚士』は使い魔を呼び出す時にすげえ魔力を使うんだよ……俺達にとって魔力は生命エネルギーそのものだ。十六年溜め込んだ魔力がここまで消費されるとは思ってなかった……ちょっと、周囲の警戒をお願いしたいな」
一度使い魔として契約さえしてしまえば出し入れ自由になるのが『召喚士』の強みだが……逆を言えば、契約直後は無防備になってしまうのだ。
「ん、そういえば……正確に言えばティレスは俺が『召喚』したわけじゃないんだよな。ってことは、呼び出しが自由になるわけじゃないのか……?」
そう思い立ち、使い魔に帰還命令を出してみる。実際にやったことはないけど、使い魔の使い方だけは死ぬ気で勉強してきたんだ。ようやく使い魔を手に入れて、報われている。
が……ティレスはどうしても消えることはなかった。それも当然……召喚士は『使い魔保管空間』への通行札を持っているようなものだが、そこを使えるのは実体化していない存在に肉体を与えた場合のみ。
元からあった卵から生まれたティレスには、そもそも帰る場所がない。
「まあ、別にいいか……使い分けるほどの使い魔は俺にはいないし」
「私はずっとご主人様と一緒に居られるというわけですか?」
「簡単に言うとそうなるね。働く時以外は休んでてもらうのが使い魔なんだけど……ごめんな、力不足で……」
「いえ……私は何年もずっとあの卵の中で一人でした。これでもう、寂しくなくなるのですから、嬉しい話ですよ」
人形のように整った顔立ちで、にこりと微笑む。そんな仕草はまるでただの可憐な少女だ。だが、その本当の姿はあの暴力の塊。
面白いじゃないか……これほどに頼もしいパートナーは他に居ない。元々召喚士としては無能だった俺だ。今更一匹を『使い魔保管室』に戻せないくらいで落ちる名声なんかない。
「さて、それじゃ……とりあえずここから出ないとな」
「そうですね。ここはもう役目を終えましたから……」
「役目? 何か目的のあった場所なのか?」
「いつか私に……恐竜に寄り添える人間が現れるまで、ただ待つための空間です。化石化しても呼び起こせるような繋がりを持った存在……貴方です。貴方が現れた以上、もうこの空間は用済みです」
そうか……言わば、ティレスを守るための、そして卵孵化器でもあったわけか。俺はてっきりこの化石達があるから魔物が近寄らないのかと思った。
だけど、それは少し違うかもしれない。恐竜には魔力がない。だから、魔物も敢えて落ちてこようとは思わなかったのだ。
「それでは、出口を探しに行きましょうか」
「そうだね。食料もないんじゃ話にならない。だけど……外には危険な魔物が沢山いる。大丈夫か?」
「何を言ってるのですか、貴方と契約してからというもの、全身に力が漲って仕方ありません。今の私を殺せる生物なんて、居ませんよ」
ティレスは自信満々にそう告げて、衣服が広がるように全身を変化させた。すると、そこにいたのはティラノサウルス……本当に、恐竜姿と人型を行き来できるらしい。
そして、彼女は身をかがめて俺の前に横たわった。軽く触れてみるが、何で出来ているんだと思うほど固い肌と凝縮された筋肉の感触が伝わってくる。
「……乗っていいのかい?」
彼女は答えず、しかしこくりと頷く。俺は恐る恐る背中に乗ると、ぐんと視界が持ち上がってティレスは走り出した。
風のように、というわけにはいかないが……というかそんな速度を出されたら鞍もない俺は吹き飛ばされてしまうだろうが……それでも一歩一歩が大きい。ぐんぐんと視界は入れ替わり洞窟の出口にたどり着くまでそう時間はかからなかった。
だが、出た場所が悪かった。そこは魔物の巣……しかもSランク魔物の蒼炎獣が率いる群れだった。魔物の数だけで言えば、百は下らない。
「ティレス、すぐに逃げ――」
――GYAAOOOO!
しかし、その場に居た誰よりも早くティレスは戦闘態勢を取り、一番近くにいた小炎獣の首を噛み切った。口の中で粉々になっている肉を咀嚼する間もなく飲み込み、すぐさま次の魔物へ。
見る者全てを食い殺さんとする強い意志。いや、本能か。蒼炎獣が火を噴き出すまでに、半数以上の魔物を蹂躙したティレスは今度こそとばかりに蒼炎獣に向かい合う。
蒼炎獣がレーザーのようなブレスを吐く。あれを食らってはいかなる鉱物でさえも溶けてしまうというのに……どれだけ頑強なのか、ティレスはそよ風にでも吹かれたようにズシンズシンと前に進む。
そして、ブレスごと蒼炎獣に噛みつくとあっさりと飲み込んでしまい、長を殺された小炎獣たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出していってしまった。
――レベルアップしました。『召喚士』レベル2:支援の初歩を習得しました。
『神託』の際に聞いた声が再び脳内に鳴り響く。レベルアップ……? そんなの、学校に居る間に一つでも上がれば優秀過ぎるほどだぞ? それが、こんなにあっさり?
もう俺は興奮を抑えきれず、ティレスの背を撫でて叫んでいた。
「すごいぞ、ティレス! 君なら本当に敵無しだ。もう君の力を疑ったりしない。このまま突き進もう!」
するとティレスは、血にまみれた口を大きく開いてまた咆吼するのだった。
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