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神様の予言書  作者: 語部マサユキ
誰よりも信仰を憎み、視聴者の同情を誘った聖魔女

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断罪のプロジェクションマッピング

日間文芸・SF・その他異世界転生/転移ランキング8位!!

お読み頂いた皆様のお陰でございます。

ありがとうございますありがとうございます!!<(_ _)>

「そんなまさか……精霊神様が我々をお認めにならないと……」


 自分たちが背信者、異端者と決めつけて勝手な正義の名のもとに殺害して来た人々が『精霊神』の元へ召されて行く光景を、逆に見向きもされない狂信者たちは呆然と見ていた。

 ただただ結果だけを見つめる自分達に説明も叱責も何もなく、視線すら与えてくれないという現実に……集団心理の狂信的正義は脆くも崩れ去り、各々が自分で考えなくてはならなくなる。

 平たく言えば、冷静に己の行動を見返す事になってしまうのだ。

 金の為に無実の人たちを殺して何もかもを奪い取ったという、ただの犯罪行為を……。


「あ……ああ……あああああああ!?」

「神は……精霊神様はお見捨てになられた!」


 その事に気が付いた者からドンドンと力なく崩れ落ちて行く……精霊神が発していた6色の光が消え去った新月の闇の中で……。

 俺は突きつけられた罪に崩れ落ちる連中に一欠けらの同情心も抱かずに、ゆっくりとその輪から離脱する。

 連中の思考誘導の為にちょ~っとだけ声を上げただけなので、俺自身が今回活動した内容は軽いもんだった。


「さ~ってと……名優の皆さんはどうしてるかな?」


 俺は呟きつつ、段々と「そもそも貴様がこのような事を計画したから!」「何だと!? まず初めに殺しをやったのは貴様らじゃないか!?」な~んて、今度は責任のなすりつけ合いからの仲違いを始め出した連中をしり目に裏側に回り込んで岩肌を登って行く。

 そして下からは見えない配置の岩陰でグッタリとしている美女2人……預言書では『聖騎士』と『聖魔女』などと大仰な二つ名で呼ばれていた者たちがいた。


「おつかれ~、予想以上のクオリティでビビったぜ。大迫力の精霊神だったな!」


 俺は労いのつもりで誉め称えたのだが、カチーナさんもシエルさんも喜ぶ様子もなく虚ろな表情をしていた。


「やっといてなんですが……今日この瞬間、私が誰よりも背信行為をしたんじゃないでしょうか? 信仰の対象を偽装するなど……」

「……それを言ったら私はどうなるのです? 精霊神の言葉を演じたなど……本気で天罰を喰らうんじゃないでしょうか?」

「いや~アレは2人だから出来た功績でしょう。凛々しくカッコよく美しい精霊神を映し出せたのはシエルさんだし、あの姿にハマる声優はカチーナさんしかいなかったでしょうからね」


 顕現した精霊神の実態はシエルさんの光属性魔法による虚像で、声を担当したのが軍属で声の良く通るカチーナさん……この共演は素晴らしい出来栄えだったと個人的には思うんだけど……。


「あのクオリティなら色々な劇も可能そうな……いっその事2人で『真・精霊神教』を立ち上げる事だって……」

「「やめて! 本気でムリ!!」」


 冗談のつもりで言った言葉に普段は丁寧口調がマストの2人から、本気の拒否の言葉を頂きました。

 ……ちょっと可愛いと思ったのは内緒である。



 俺達がやった事は見た目は派手だが内容はシンプルな事。

 自己の正義感に酔った連中に、確実に認識する対象を目撃させる事だった。


 まずは連中の目を欺くために俺たちは分かりやすく町を出たように偽装……この際に『今回の討伐の報奨金で仲間割れをしている』事を演出したのだ。

 教義順守派を自称する連中だから、当然証明派のシエルさんは欲深い銭ゲバと偏見を持っていたようで……ワリとあっさり騙されてくれたのだ。

 この時罵り合いをしていたのはリリーさんと俺……掴みかからんばかりの勢いで功績の奪い合いを演じたのだが……後でおれはカチーナさん、リリーさんはシエルさんに真っ赤な顔で説教されてしまった。

 ど~も互いが互いのパートナーを持ち上げて褒め殺すような事を口走っていた事が恥ずかしかったとか何とか……。


台本

『聖女様のお力なくしてスカルドラゴンナイトの討伐は成しえなかった! コレは聖女エルシエルによる偉大な功績なのですよ!?』

『何を言う! その浄化結界の発動もその間アンデッド共から守り切った我が盟友にして剣の達人カチーナがいたから成しえた事! 聖女殿だけの功績とは言わせん!!』

『貴様! 清く美しい光の精霊の寵愛を受けし聖女エルシエル様の威光に盾突くか!?』

『何おう!? カッコよさと美しさを兼ねそろえた麗人にして剣聖、カチーナの功績にケチを付けようと言うか!?』


 ……うん、別におかしい事は言ってないな。

 リリーさんも俺も真実しか口にしていないし……うんうん。


 まあこんな感じで連中の注目がそれた事を確認した俺たちは秘密裏に町へと舞い戻り……夜間の『空中劇場』の準備をしていたのだった。

 リリーさんが町中、俺は気配を断ちつつ集団に紛れ、残りは鉱山へと潜伏して決行時間である深夜を待っていたのだ。

 連中に死よりも重い重罪を認識させる為に……。


「や~おつかれ~。中々の名演技だったじゃない」

『フハハハ、邪気が皆散ってしまったのである! 新たな邪気を生みだすことなく“ヤツ等”を満足させるとは愉快愉快!!』


 そんな事を言いつつ『狙撃杖』を携えたリリーさんと、その肩に掴まったドラスケが足取り軽く合流して来た。

 見るとドラスケの体は元の白に戻っていた。

 ドラスケが取り込んでいた邪気は『黒い霧』みたいな形状をしていたので、今回の『空中劇場』では一番重要な役どころを担ってもらったのだが……。


「ドラスケ……その体は……」

『ふふふ……自らを“光のキャンバス”として利用する事で新たな邪気を生む事もなく、奴らに死よりも重い復讐を遂げる事が出来たのだからな! 皆這いつくばって嘆き、責任のなすりつけ合いで殴り合いを始めた連中に馬鹿笑いして消滅してしもうた! クカカカ!!』

「あ、そう……」


 骨の体でスカスカだと言うのに腹を抱えて笑うドラスケ……。

 ヤツには溜め込んだ『邪気』に精霊神や殺された人々を象る事を提案して貰ったのだ。

『邪気』は力ではなく想いの塊だと言っていたが、奴らの矜持を徹底的に叩き潰す提案にトロイメアの住人たちの『想い』は満場一致で乗ってくれたのだ。

 かくして上空に自在に作れる『キャンバス(スクリーン)』に『光の色(映像)』を張り付け『声を当てる』という空中劇場は圧倒的なクオリティを誇り、完成に至ったのだ。

 ……これも別に俺のアイディアというワケじゃ無く、神様に教えて貰った技術の聞きかじりではあるんだが……。

 ぷろじぇくとの……マップがどうとか言ってたか?


「や~私は近所迷惑な爆発を起こしただけだったから、あんまり仕事した気がしないんだけどね~。そこで灰になっている二人と違って……」


 そうやって笑うリリーさんだが、彼女は『開始の合図』として街中に響かせる爆音を起すために手持ちの『ミスリルの弾丸』を使い切ってしまったらしい。

 各々が役目を果たしたという事なんだけどな……。

 そんな事を考えているとドラスケが飛行に関係あるのか分からないスカスカの翼をパタパタ動かしつつ俺の前に降り立った。


『しかし計画の段階で思っておったが……ギラル、貴様は中々にえげつないであるな。我はここまで『精霊神』を再現できるのであれば、てっきり直接怒鳴りつけるか説教でもするのかと思っておったが……』

「まさかの徹底無視……だもんね」


 追従するリリーさんも若干俺に警戒するような視線を送って来る。

 いや、むしろ怯えているようにも……。

 そして岩を背に力尽きていたシエルさんも似たような目で俺を見ていた。


「私もギラルさんの台本を聞いた時は戦慄しました。敬虔ではないと自ら認める貴方が信者にとって最も過酷で生涯の傷になるであろう罰を知っている事に……」

「……別に、そんな大層な事じゃね~んだけど」


 あんまりに重々しく俺の事を恐怖し始める聖職者たちに、俺は今回『精霊神』に信者たちを徹底的に無視させる事を演出した理由を話す事にした。

 それも神様が“まるで自嘲するように言っていた言葉”が理由なんだけど……。


「親が自分のせいで他人に頭を下げる、自分のせいで泣くのは半端じゃなくキツイ。そして叱って貰えなくなった時、いなくなった時に……ああもう終わったんだって初めて理解するんだってさ……」

「「「…………」」」


 あまり自分の事を持ち上げる事は言わなかった神様であったが、今思い返すとこの事を言う姿は後悔に満ちていた気がする。


「俺は……いや、俺たちは結構特殊な生い立ちだから親と言うとピンと来ねぇけど、生きる上で世話になった人に“何も言って貰えなくなる”と考えりゃ~それが一番の罰になるかな~って」

『なるほど……怒られている内が華か』

「それはある意味真理ですね。崇拝する者に自らの不手際の後始末をさせて、その上で見捨てられる。信仰に酔っていた者にとっては神罰を受けるより遥かにつらい事でしょう」

「奴らにとっては死んだ方がマシかもね……神様に無視されるくらいなら」


 そう言って呆けたように無言になる俺たちの耳に、崖下の方からは未だにむせび泣く声や罵り合う声が小さく聞こえてくる。

 死んでも精霊神様の御許に召される事ができる……そんな妄言を垂らし続けていた連中が殺し合いでも始めるんじゃないかと思える物騒な声すら聞こえて……。



ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


重ねてご足労お掛けするのは恐縮なのですが、この作品が少しでも気に入っていただけ他のなら何卒評価の方をよろしくお願い致します。



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