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神様の予言書  作者: 語部マサユキ
誰よりも信仰を憎み、視聴者の同情を誘った聖魔女

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IF 預言書の考察

日間文芸・SF・その他異世界転生/転移ランキング8位!!

ありがとうございますありがとうございます!!<(_ _)>

「すみませんすみません! あまりに強者の気配漂うアンデッドがギラルさんの肩にいたものですから思わず……」

「すまない……だが小さいはずなのにこの巨大な覇気と言うか存在感はなんなのでしょうか?」


 誤爆によるこの2人からの謝罪はコレで2度目……しかも状況すら前回とあまり変わりなく、もしかして『聖騎士』と『聖魔女』の組み合わせは俺にとって鬼門なんだろうか?

 原因となったドラスケ自身は暗に自分が強者だと言われてまんざらでもない様子なのが若干ムカつくが……。


「でもギラルさん……敵では無いようですが、そのアンデッドは一体」

「……それも含めて話したいから一旦あそこに潜ろうぜ。少々込み入った話もあるしな」


 不思議そうに首を傾げリリーさんが聞いてきたが、俺は親指で坑道を示しながら言う。

 正直な所“今は”まだ用心されていないとは思うけど油断は禁物だ。

 俺達が話している内容を偽町民に聞かれるのも、アンデッドのドラスケが見られるのも得策では無いからな……念には念だ。


 俺はここまでの経緯を考えて、どうやったら異端審問官の一員であるリリーさんを亡き者に出来るか、排除に至るのかを考えていた。

 ……別に俺自身が始末しようってんじゃない、逆に“防ぐ”事を考える為だ。

 これも神様が言った雑談の一つで『泥棒を防ぐ方法は泥棒が一番よく知っている』ってのを考えた思考方法。

 偽物連中がどうやってリリーさんを自分達の害悪と考えて排除しようとするのか……気は進まないけど“奴らの気持ちになって”思考を巡らせてみたのだ。

 そう考えると……おそらくリリーさんは『預言書』でもあの日記帳を見つけていたんだと思う。

 そして疑って調査しようとして、事実の発覚を恐れた町民たちに始末されたんじゃ無いだろうか?

 アンデッドの群れ相手に一歩も引かず『狙撃杖』で圧倒する腕前を持ち、『魔力感知』を駆使して敵の情報を探り冷静に戦況を見るリリーさんが、そんなボロを簡単に出す気はしなかったが……ここで少し追加要素を考えてみる。


 俺とカチーナさんってイレギュラーが“いなかった”場合だ。


 ハーフデッド騒ぎで懲罰喰らって今回外されたロンメルさんがいた場合……シエルさん、リリーさんの二人は外部に戦力を求めただろうか?

 俺は多分ギルドからの要請だったとしても信頼できる戦力のロンメルさんがいたなら、いつもの3人でこの依頼に当たったんでは無いかと思う。

 確かに戦力的には同等……いや、単純な攻撃力という意味合いではあのオッサン、悔しいけど俺とカチーナさんを合わせても至らないだけの攻撃力を誇っていると思う。

 ただ……坑道の仕事のやり方が違ったと思うのだ。

 俺達が今回行ったのは分業制……各々が各々の役目をはたして最終的にシエルさんが『浄化結界』を展開させる事で一気に終わらせる事が出来たが、いつもの3人の場合は多分協力体制での各個撃破という形になったのでは? と思う。

 当然ドラスケことスカルドラゴンナイトとの戦いも3人が同時に当たり、倒すまで頑張っただろうが、全体把握をしている暇も無かったんじゃないだろうか?

 だとすると、リリーさんはその戦いの最中に『日記』を入手してどう思っただろうか?

 全体のゾンビの多さに違和感を持つ前にあの日記を読んでいたら、こう思わないだろうか?

『悲劇に見舞われたある家族の幼子の日記』であると……。

 そして独自に調査しようと動いて……連中の包囲網にハマってしまった。

 用心深いリリーさんも、まさか町民全体が入れ替わっているだなんて“最初から”予想する事は出来ないだろう。

 毒殺か暗殺か……いずれにしても連中と関わること自体、何であっても危険を覚悟しないとマズイ。



 再び坑道へと戻った俺たちは、手ごろな横穴に入り込んだ。

 そこは素人共が考えなしに掘り進んだ雑な穴だったが、人間4人が密談するには手ごろな大きさの空洞になっていて、シエルさんが魔法で中を照らしてくれたのを見計って、俺は入り口の横穴を布で塞いだ。

 これである程度は声が漏れる事もないだろう。


「……随分と用心なさってますが、そんなに重大事なのですか? その子ドラゴンっぽいアンデッドの秘密は」


 そんな俺の異常な警戒の仕方にシエルさんは不思議に思ったようで、眉を顰める。

 だがそんな彼女を無視して俺はリリーさんと索敵の結果を確認し合う。


「半径300内に気配なし……小動物や虫的な動きはあるけどそれだけだな。そっちは?」

「……同じく300内に魔力反応は無いよ。小動物とかに繋がる魔力も感知できないから使い魔とかでの監視は無いとみて良いと思う……一応はまだ疑われてないって事でしょうね」

「え? え? え?」


 俺たちの警戒する様にカチーナさんも動じた様子が無く、一人だけ取り残されていたシエルさんが挙動不審になってしまっているのが若干申し訳ない。

 そんな彼女の頭にリリーさんがポンと手を置いた。


「事情はこれから説明するから落ち着いて……。ギラルさん、何か見つけたって事で良いのよね? 決定的な何かを……」

「ああ、アンタの親友にも聞いてもらいたい事がな……」


 隠し事が苦手なシエルさんにも伝えるという事で色々と察したのか、リリーさんも緊張した表情のまま頷いた。


                  ・

                  ・

                  ・


 そして俺はトロイメアの町に関する悍ましい調査結果を話して聞かせる。

 ドラスケに関してだけは昨日激戦を繰り広げたスカルドラゴンナイトである事に顔をほころばせるシーンもあったが……話がこの町に齎された『ミスリル鉱床』に至るに連れて、シエルさんの表情はドンドンと消えて行く。

 坑道に大勢いたアンデッドの正体、ある少女の日記、ミスリルと言う金づるに目を付け入れ替わった偽町民、その町民たちが自分達と同じ精霊神教の狂信者である事……。

 話を聞くたびに目が死んでいくシエルさんの表情にいつもの爽やかさは無くなり、亡くなった表情の奥に静かに、しかし激しく燃える憤怒の激情が見え隠れしていた。

 その様に俺は冷や汗を禁じ得ず……なるほど、確かにこの人は表情を隠すのが下手なんだなと納得せざるを得ない。

 一通り俺の話を聞き終えたシエルさんは深いため息を吐いた後……思わずと言う感じで言葉を漏らした。


「…………情けない」

「シエルさん?」

「その者たちはどこまで精霊を愚弄しようと言うのでしょうか……。精霊が人の世の富を求めると本気で思っているのでしょうか? 精霊が自分の名のもとに生贄を要求するなどと愚にも付かない考えを持っているとでも? バカバカしい……」


 それは聖女であり聖職者のエルシエルの本音だろう。

 彼女にとって精霊は友達だと言っていた。

 犯罪を犯した連中が『自分たちは精霊の為に人殺しをしました』と言われて気分が良いワケがないだろう。


「そいつらだって精霊様の為ってよりも、精霊様の為に俺はこんだけの貢献をしたんだからもっと褒めて、寵愛して、俺の事を認めて~ってのが本音だろうからな……。人殺しに罪悪感も湧かねぇクズでも死後精霊神のおわす天界へ召される事が出来んのかい?」


 俺の皮肉めいた言い方にシエルさんは下がっていた視線をスッと上げた。

 その目は何処も見ていないようで、更に恐怖を誘うものだったが……俺はその目を真正面から見つめ返す。

『預言書』で『信仰』に憎しみを持った彼女が許せなかったのは結局はそこの辺りだろう。

 自分と考えが違うというだけで人を害し、親友すら殺されたと言うのに『精霊様の為にやりました。俺たちは正義だから天国に逝けます』何て正義面で言っていたならば……。

 

「……そんな場所に……逝かせるワケが無いでは無いですか。教義の……いえ、信仰の根幹をはき違えた外道共に信者を名乗らすなど……光の精霊が…………いえ、六大精霊の名において断じて許すワケには参りません!!」


ガキイイイイン…………


 シエルさんは激高して棍を地面に叩きつけると……その先端は固い金属音を立てて半分くらいまでめり込んだ。

 今は多分身体強化なんぞ使ってないだろうに……やはりこの人の地力は物凄いな。

 しかし信仰の根幹……か……。


「金も暴力も使わずに物語で人を纏める……か」

「? 何ですかそれ……」


 俺が何とな~く呟いた事にカチーナさんが聞き返して来た。

 それは『神様』が歴史の勉強を教えてくれた時に言っていた話……神様自身がすごく適当な感じで喋っていて、それが真実かどうかは知らないけど~なんて嘯いてはいたが。


「いや“あの人”が言ってたのさ。神様の体験談や教訓を物語にして、こうしたら争いが無くなる、みんな仲良く幸せになれるよ~としたのが信仰じゃね~か? 本来は金も暴力も使わずに平和を目指すってもんだったんじゃね~の? ってな」

「「「…………」」」

「極論を言えば金も同じとか言ってたっけ? 物々交換による問題や諍いを収める為に、戦いを起さないために最初は生まれたんじゃね~かってな~。なのに、どっちも後々の人間の解釈で逆に争いの原因に成り果ててしまうとか…………ってどうした!?」


 なんとな~く『神様』が口にしていた事をリフレインしていただけだったのに、気が付くと女子3人とドラスケまでもが真剣な面持ちで俺を取り囲んでいた。


「ギラルさん……貴方は……」

「……異端審問官としては今の言葉……異端者と見るべきなのかもですが…………何と言うか心臓を抉られる想いが……」

『貴様……変わった若造とは思っておったが……何とも恐ろしい考えを持っておるな』

「え? ええっと……」


 俺はこの時、自分の考え方がいかに『この世界』において異端であるか自覚が無かった。

 まるで多数の宗教を客観的に捉えて、大本の事を単純に考えてしまうのがいかに異常な事であるのか……。


「ギラルさん……貴方は敬虔な精霊神教の信者では無いですよね?」

「……聖女様の前であんまり言いたかないですが……熱心とは言い難いね。師匠方もそんな感じだったし」


 師匠連中の中でも元聖職者だったミリアさんが一番その辺が適当だった気もする。

 教会に関わる事以外……自然への感謝には厳しい人だったけど。

 俺の答えにシエルさんはますます深いため息を吐いた。


「……敬虔な信者を謳っている連中よりもギラルさんの方が正しく精霊神教の教えを理解していらっしゃるとは……本当に……情けない」

「いや、さすがにそれは言い過ぎでしょ? こんなのある人の受け売りを自己解釈しただけって言うか……言っちゃえば信仰の利用の仕方を口走る物凄い異端な考え方と言える気が……」


 何かシエルさんがとんでもない事を言いだしたので俺は慌てて否定しようとするが、彼女は静かに首を横に振るのみ。


「いいえ……信仰の独自解釈も利用する事も悪ではありません。究極的には精霊神教にとっての教義とは精霊に、自然に感謝を捧げ争わずに仲良く暮らそう……それだけなのですから」

「その通り……悪用さえしなければ……ね」


 悪用……異端審問官である2人が今確かにトロイメアでの出来事を悪事であると断じた。

 精霊神教エレメンタル教会所属のこの2人がそう認識したという事は……とどのつまり連中がやった事が信仰とは認められないという事になる。

 つまりは背信行為に他ならないと……。

 そうなると連中にとっての最大の免罪符は剥奪される事になる。

 自分が“それ”だから何をしても許される、死後は精霊神の元に召される、そう盲信しているクズ共からその矜持を取り上げる事が確実になるのだ。

 ……それで許されると思えるという考え方自体が、俺には全く理解不能だけど。

 

「では……奴らは確実に破門されると見て間違いないかな?」

「無論です……殺しも略奪も論外ですのにそれを精霊神の為と責を信仰の対象になすり付けるなど、人としても風上に置けぬ所業……到底許せるものではありません」

「同感だね。他人の生を奪って正義面出来る外道の“生き甲斐”なんて知った事ではないしね……」


 しかし聖職者の2人には良く分かっていた。

 信者にとって死よりも恐ろしい処断……精霊神に永遠に見放されるという『破門』の持つ重さを。

 それでも2人は迷う事無く頷く……信者の信仰を殺すための最高刑を……。



ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。


重ねてご足労お掛けするのは恐縮なのですが、この作品が少しでも気に入っていただけ他のなら何卒評価の方をよろしくお願い致します。



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― 新着の感想 ―
[一言] 語部マサユキさんの断罪、今回はどうなるのか楽しみです!
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