引継ぎ
日間文芸・SF・その他異世界転生/転移ランキング19位!!
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「多分この屋敷があのクソ町長の持ち家だと思うんだが……さて……」
俺は一階から聞こえてくる雑音を一時的に遮断して、一呼吸置いた後に五感を集中させ辺りの情報を拾い始める。
『気配察知』とは違った空間に存在する気配……生活空間で言えば暮らしている者が頻繁に使っている場所や大事に隠しておこうとする気配を嗅ぎ当てる為の『盗賊の嗅覚』を発揮して……まずはたまたま侵入したこの部屋から探っていく。
その結果、意外とこの部屋を使っている者が町長以外の誰かであると言うのが真っ先に浮かんで来た。
この家……他に住んでいる誰かがいるのか?
だとしたら、その何者かが戻って来る前に奴らの悪事を証明する何かを見つけ出さないとマズイ……。
それこそミスリルの横流しを決定づける書類か何かでも……。
そんな事を考えていると、不意にドラスケが俺の袖を引っ張った。
『ギラル、ギラルよ……』
「何だよコレから本番だってのに……』
『あそこ……あの辺りに何かないか? 我には良く分からんが……』
批難がましく言う俺の反応を無視して、ドラスケは何故か部屋の壁の方を指さしていた。
自分には分からないなどと良く分からない言いまわしをして……。
「良く分からないのに何かないかって……ん?」
だがドラスケが示した木製の壁を見た瞬間、俺の盗賊としての嗅覚が妙な気配を嗅ぎ当てる。
何者かがその壁を注目していたような……。
そして一見平坦に見えていた木製の壁の継ぎ目の部分に、微妙に削れたような……少し爪を立てたような跡を発見する。
「……え? まさか」
俺は一応罠などの仕掛けが無いかを確認してから、木目に爪を立てると……壁の一部がスライドした! コレは隠し扉!!
「うお!? マジか、ドラスケやるな……本職の盗賊よりも先に見つけるとは」
俺は本職でもないドラスケに先を越された事に、悔しいと思うよりもむしろ感心してしまった。
多分時間さえかければ俺にも発見可能だっただろうが、こういう場面での隠密行動はスピードが命。リスク回避には早ければ早いほど偉いのだから。
しかし褒めちぎる俺とは裏腹にドラスケはまたしても複雑そうな顔で“隠し扉の前の床”を眺めていた。
『この部屋にいた住人がな……血まみれの悔しそうな顔で必死にそこの壁を指差しておったのよ……このままでは死んでも死に切れん……とな』
「あ~~そうっスか……」
その言葉にドラスケの妙な言い回しの理由が分かった。
つまりドラスケは“そっちの方”に教えて貰ったってワケね……。
「もうお前がいればあらゆる事件や謎の解明も簡単な気がして来た……一緒に探偵でも目指すか?」
俺が呆れ半分にそんな事を言ってみるとドラスケは腕組みをして溜息を吐いた。
『言いたい事は分かるがな……そう都合よくも行かんのだ。無念の後に殺された亡霊がいたとしても全てを語ってくれるほど怨念は原型を保ってはいられんのだよ』
「……どういう事だ?」
『特定の誰かが憎い、殺してやりたいって想いで死んだ者がその場にとどまり続けると、怨念は時間が経つに連れて変質して“殺す”という単純な事しか考えられなくなる。常時“憎い”とか“コロシテヤル”とかしか言わない亡霊から何が分かる?』
「…………」
無関係な通行人を引っ張るという死霊の話は聞いた事があるが、確かに俺も昔から“憎い相手がいるのなら、そいつを直接呪えば良いのに”などと良く知りもせずに考えた。
殺された場所から動けずに呪い続けるしかない状況に陥っているとすれば……そんな風に怨念が歪んでいくのも分かる気がする。
「でも逆に言えば、強い怨念も新しければ変質する前に情報を頂けるって事なんだろ? 今みたいにさ」
『……ギラル……貴様中々に図太いな。既に我が対話する者どもにも適応して来てはおらんか? あまり近寄るべき世界では無いのだがな……』
「まさか……怖いもんは怖いに決まっているだろ? 魔法も使えない盗賊風情が死霊なんて存在には何にも出来ないし……。俺は俺の目的の為に、聞くべき助言は誰であろうと聞いておこう……そう思っているだけだよ」
『そうか……妙な若造であるな貴様は……』
そんな事を喋りつつ、俺は隠し扉の中を探ってみる事にした。
そこにあったのは麻袋にまとまって突っ込まれていた紙の束……あまり綺麗な収納法では無いが……そう思って俺は適当に紙に書かれていた文章に目を通して……目を見開いた。
「あ? トロイメアの実際の住人の総数と水増しされた報告の概要。町長による外部への資金流出の証拠、炭坑内での事故の隠蔽に関する調査結果……何なんだコレ?」
それはトロイメアの町で何年も前から続けられていた町長による汚職の証拠……中には貴族関係の封蝋すらされている手紙なども含まれていて……どう考えても超機密な重要な書類である。
告発するための……この部屋にいた何者かはゴロク町長を正当な理由で追い詰め、追放しようと画策していたのだろう。
だけど実行する前に先手を打たれてしまった……。
「炭鉱から新たに発見されたミスリルに対する調査結果……その事に対する国への隠蔽について……マジか、いくつか聞き覚えのある貴族の名前もあるぞ」
脱税も、大量殺戮の隠蔽も、そしてミスリルの独占・横流しも……何らかの権力者が繋がっているとは思っていたけど、こりゃ~相当にデカい繋がりがある。
頭がどこかは分からないけど、爵位持ちの貴族に『狂信者』の仲間がいるって事に……。
敵の巨大さに冷や汗が出始める俺とは裏腹に、ドラスケはさっきから同じ場所を眺め続けていた。
さっきよりも一層、哀れな者を見つめるように……。
「…………その人、まだ何か言ってんのか?」
『…………甘かった。時間をかけるべきでは無かった。実の父だからと信じた自分が愚かであった…………だそうだ』
「……そうか」
多分殺される間際まで己が狂信の為に利益を独占しようとする父を信じようとした……いや信じたかったんだろうな。
書類には王国へ提出できる程の準備すらされていて、断罪の材料は揃っていたと言うのに躊躇してしまった……その事を余所者である俺には責める事は出来ない。
実の子の命よりも手前勝手な狂信を優先するなど、思いたくも無かっただろうし。
俺は書類の末尾に記されていた人物の名を読み上げた。
「ロイさん……アンタの無念は俺が引き継いでやるよ。奴らから唯一無二の『矜持』ってヤツを“盗り上げる”事でな…………うお!?」
『……む!?』
俺がそう呟いた瞬間何やら黒い靄にドラスケが包まれたかと思うと、その靄がドラスケの空洞である眼窩へと吸収されて行った。
な、何だ今のは?
「ド、ドラスケ……何だ今の黒いのは!?」
『今のは怨念……復讐や呪詛などヤツをこの世に留まらせていた楔の力である。貴様が我に怨念を引き渡させ、天に召されたようだの……』
「召された……成仏したって事なのか?」
一瞬隠形を忘れそうになるほど驚いた俺とは対照的にドラスケは怒ったように首を傾げて顎をカクンと鳴らした。
『その通りだがな……不用意に死者との約束をするでないバカモノ! 我がおらなんだらヤツの怨念の全てを生者の貴様が受ける事になっておったのだぞ!!』
「え……そうなると……どうなるの?」
『さっきも言ったがな……時と共に怨念が変質するのは亡霊のみではない。生きながらそんなものを身に受ければ“邪人”と化してもおかしくない! 上位アンデッドの我がいたから事無きを得たが……』
どうやらたった今俺はドラスケに助けられたみたいなのだが、礼儀知らずな事に俺は感謝の言葉よりも、浅慮に対する謝罪よりも先にドラスケが口走った事が気になっていた。
邪人…………いや……邪神?
お分かりだろうか……あの星が輝く時、それは作家が狂喜乱舞し嬉死する。
指先一つでそれを可能にする…………そうか! 貴様が伝説の北〇神拳の伝承者!?
一つでも輝くと大変なのに、まさか……まさかそれ以上の!?
うおおおお!? まさか貴方が救世主様!!
ご評価下さいお願いします!!
宜しければ他作品もよろしくお願いします。
書籍化作品
『疎遠な幼馴染と異世界で結婚した夢を見たが、それから幼馴染の様子がおかしいんだが?』
https://ncode.syosetu.com/n2677fj/208/




