宝物庫への光の道
私事ですが5月1日より書籍発売中です!!
『魔法×科学の最強マシンで、姫も異世界も俺が救う!』
宇宙戦争の最終局面で愛機ごと爆死したハズのエースの主人公が、愛機と共に異世界に飛ばされて戦うメカ、異世界、そして美少女の物語です!
感想はご指摘、酷評でも大歓迎です!! 宜しければご一読よろしくお願いいたします!!
だが詳細を聞けば確かにソレは盗賊である俺にしか出来ない事であるし、そして俺以外には絶対にやらせたくない仕事であった。
喩えそれが自分の命を賭ける事になるとしても、それがカチーナの為だというなら木っ端の火事、大した問題ではない。
『覚悟は決まったな』
「そんなもん、この後に彼女にしなきゃならん人生最大のイベントに比べれば些細な事でしかない」
俺が一つの意味を含めて決意表明すると『タケル』はそれを正確にくみ取ったようで、大笑いする。
『アッハハ! そりゃそうだ、男に取っちゃあれほど度胸のいるイベントはねぇもんな! 先輩として教えといてやるよ。どんだけ外堀埋めた気になっても、自分とは絶対に仲良しだと自信を持っていたとしても、その瞬間は巨大な化け物や魔王を相手にするよりもビビるぜ?』
「うわ……マジかよおっかねぇ……」
実際に実行した男の言葉は重みが違う。
『タケル』はそれほどの一大イベントに勝利した後、その勝利の美酒に酔いしれる事無く異世界に飛ばされたのだからな。
コイツが俺に“対価”を要求するのは非常に良く分かる。
「何をさっきから、私以外に目を向けているのですか?」
そうこうしているとアルテミアは何か危険を感じたのか、今度は邪気を放出する事無く再度そのまま大鎌を手に向かって来る。
相変わらずそれは流れるような見えているのに見えていないような、意識の外から、死角から死角へと移動する厄介な動きだが……なんだ? 妙な違和感を感じる。
確かにヤツの動きは捉える事が難しいが、邪気に対抗できる『エレメンタル・ブレード』が真の力を発揮した今、真正面から邪気製の刃を向けて来るのは得策ではないような?
……とは言え、喩え違和感があろうと巨大な大鎌をそのまま喰らうワケには行かず、さっきと同じように光の刃で大鎌を迎え撃つと、そのまま大鎌は断ち切られて散って行く。
だが次の瞬間、アルテミアはニヤリと嗤うと、散った大鎌の中から現れたミスリル製のカトラスを握りしめ、そのまま俺の肩口を抉った。
「く!?」
「ふふふ、どうして邪気を見る事が出来ているのかは分かりませんが、見えているのなら見えているなりの対応をすれば良いだけの事……例えばこのように!」
そして今度は黒いフルプレートが全体的に隆起したかと思うと一斉に弾け飛び、それぞれのパーツが黒い影となって一斉に飛びかかって来る。
かわし切れずに四方八方からのパーツをそれぞれ斬り散らしてやろうと思えば、今度は再び鎧の姿に組み上がり、慌てて剣を縦に振るえば……そこにアルテミアの姿はない。
慌てて辺りを見渡そうとすれば、その時は既にカトラスが俺の脇腹に突き刺さっていた。
邪気を囮に使った戦法、言うなれば自在に形状を変えられる邪気を煙幕として武器だけじゃなく自分の行動すらも隠して攻撃に繋げているのだ。
「ぐわ!?」
「ふん……ここまで来ても邪魔されますね。あと少しで臓腑まで抉る事が出来たというのに。聖騎士カチーナ・ファークスやはりしぶといですね」
舌打ちでもしそうなその表情は明らかに苛立ちによるもの。
どうやら未だにアルテミアの動きをカチーナの体は必死に抑え込もうとしているらしい。
どれだけヤツの戦い方が達者であっても、邪気をデコイにする戦法が厄介であっても、ここで俺が折れるワケには行かない。
大体にして煙幕やデコイを使って翻弄するのは盗賊の専売特許だろうが……盗賊の俺を差し置いてそう言う戦いを仕掛けてくるのは……ムカつく!!
そして何よりもムカつくのは……。
「この世で最も憎たらしいヤツと奥の手の発想が同じって事だ! クソったれ!!」
「……?」
おそらく俺の今の言葉は全く理解できなかったのだろう。
一瞬怪訝な顔をしたアルテミアだったが、またも邪気を煙幕のように先行させて俺が『エレメンタルブレード』で斬り散らした瞬間を狙い、準備したカトラスで陰から俺の右腕を斬りつける。
「ぐ!?」
その斬撃は確実に俺の腕を斬り裂き、おびただしい量の血が噴き出して『エレメンタルブレード』は宙を舞う。
返り血を浴びたアルテミアは薄く笑みを浮かべ、俺は自分の表情が変わらないように気を引き締める。
斬られた事による苦悶の表情を。
『エレメンタルブレード』が手を離れた恐怖を。
最愛の女性を助けられずに悔しい想いをしているという歯ぎしりをする橋上を崩さないように。
油断はするモノじゃない…………させるモノなのだから!!
「……え?」
返り血の“ような物”を浴びたアルテミアは更なる追撃を加えようと動き出すが、その時になって初めて気が付いたらしい。
自分の、カチーナの左腕に糸が絡まっているという事に。
斬られる事を前提にして、血のりの返り血の陰に隠して魔蜘蛛糸を仕込んでいた事に。
そう言えば初めてカチーナと戦った時も血のりを使ったもんだな……そんな事を思いだした次の瞬間俺は糸を一気に引き絞って自分の右手とカチーナの左手を強制的につなぎ合わせる。
強引過ぎる握手に当然だが互いの体が正面から密着して、俺は遠慮なくカチーナの体を残った左手で力一杯抱きしめた。
相変わらず触れただけでも俺を天国に連れて行ってくれる絶妙な彼女の感触……昨夜であれば余計な邪魔など気にせずに遠慮なく“言いたい事”も“やりたい事”も出来たであろうに……。
「な……にを?」
「さあ勇者さんよ、頼むぜ! 宝物庫までの道を作ってくれ!!」
戸惑いの声漏らすアルテミアに構わずに俺がそう叫ぶと、手を離れ宙を舞った『エレメンタルブレード』がピタリと止まり俺の背中目掛けて突き立った。
光の刃はドン、という衝撃だけで痛覚も出血も無く俺ごとカチーナの胸を貫く。
どうやら『予言書』と違って今回は勇者様のお眼鏡に適ったみたいだなぁ。
そんな事を考えた俺の脳裏に、俺にだけ『タケル』の声が響いた。
『さあ行け盗賊さんよ! お前のお宝を盗み出して来い!!』
「サンキュー、勇者さん!!」
その声と同時に俺の体から俺と言う魂が離れた事を実感する。
魂だけの存在となり濃厚な邪気が立ち込めるカチーナの体から『エレメンタル・ブレード』の光の道を辿り、彼女の魂を盗み出す。
それは図らずも『予言書』の改編で仲間たちが見たという夢に酷似したモノに思えた。
『まあやる事は邪気の浄化にカチーナが巻き添え喰わないように一時的に退避させるって事だから、害虫駆除の間家主に外にいてもらうようなもんだがな』
「…………」
あらゆる意味で恩人だし頼りになる男『タケル』であるが、今だけは思った。
お前、もう少し空気読め……と。