現れる最後の役者
私事ですが5月1日より書籍発売中です!!
『魔法×科学の最強マシンで、姫も異世界も俺が救う!』
宇宙戦争の最終局面で愛機ごと爆死したハズのエースの主人公が、愛機と共に異世界に飛ばされて戦うメカ、異世界、そして美少女の物語です!
感想はご指摘、酷評でも大歓迎です!! 宜しければご一読よろしくお願いいたします!!
千年の孤独な復讐劇の果て、全ての集大成が無駄に終わってしまったのならばと異界の邪神を生み出す事を断念したアルテミアは、当初妹と共にため込んだ千年分の邪気を解放して出来得る限りの破壊をしつくそうと考えていた。
しかし彼女のそんな決意は当の妹によって折られてしまう。
『私の役割を代わって下さるのですね? どなたか存じませんがありがとうございます。これで私は愛しい方と共に逝けます』
邪気吸収装置の依り代となるべく施されていた眠れるアンデッドの呪縛を解かれた妹が口にしたのは復讐では無く愛する者と死ぬ事。
千年の孤独が自分との復讐の誓いよりも、愛する者、しかも勝手に眠る自分を凌辱まがいに犯した人間を選択した事にアルテミアは愕然としたのだ。
千年の復讐が完全に自分だけの一人相撲になってしまった時、アルテミアの心から復讐の執念が消え去ってしまったのだった。
自分の千年間は一体……。
呪縛を解かれ干からびて行く妹から受け取った膨大な邪気は確実にアルテミアの全身を蝕んで行き、生者であれば生物の体を取れなくなる程で何れは崩壊する事が分かっている。
しかしどんな破壊でも破滅でも齎せそうな、そんな膨大な邪気を手にしてもアルテミアの心は空虚であった。
復讐の執念を見失い、巨大な力だけを手にしたアルテミアが千年ぶりに初めて自身を振り返り周りを見渡すと……あったのは圧倒的な孤独だけだった。
そんな彼女は唯一手にした邪気をぼんやりと見つめる。
膨大な邪気はあらゆる負の感情、記憶を内包していて……それは最早至る事のないあり得たかもしれない『予言書』の未来の記憶も含まれていた。
その中でも彼女が最も気に入り自己投影したのが『聖騎士カチーナ・ファークス』。
彼女は自分と同族である人間の中で生きて来たと言うのに、家族が存命であると言うのに常に孤独に生き、裏切りを切欠に全ての人間に自身の怨念をぶつけ続け、最後には逆襲に合い悲惨な最後を遂げる。
それはまさしく自身の望みの為に破滅と破壊の為だけに存在し、その為だけに命を費やしたアルテミアが望んだ姿にも思えた。
だというのに彼女は救われた、救われてしまった。
自分の計画の一端であったハズの『最後の聖女』と、あろう事か自分の計画の完成であるハズの『異界の邪神』の手によって生み出された改編者の手によって。
その改編者に特別な力など無かった、ただ自分の死を回避する為に、自分の末期を少しでも格好悪いものにしたくないが為に、そんな個人的な動機で少しずつ少しずつ自分の気に入らない事を変えていく。
それはアルテミアの目に触れない小さなさざ波でしか無かったのだが、いつしかそのさざ波は気が付かない内に大きなうねりとなり、アルテミアの千年はほんの数年の内に台無しにされてしまったのだ。
最早アルテミアにとって精霊も世界もどうでも良かった。
自分が無為な千年を過ごしたという事実だけが、使いどころを見失った邪気と共に空虚に去来していた。
『改編者ギラル……あの男さえ私の元にいてくれれば、このような千年は無かった』
『あの男が共にいてくれれば、私は違う形で復讐を成していたかもしれない』
『あの男が…………ギラルが私のモノであったなら……』
そして次第に次第に、邪気の浸食に耐え切れずに体が徐々に崩壊して行くのを感じながら、アルテミアは思ったのだ。
せめて、私はあの男と共にありたい……あの男の心に、魂に永遠に刻まれたい……と。
『あの男が、ギラルが最も愛する女を最悪な形で奪い、そして自分の手で助け出す事適わず失う事になれば、間違いなくギラルは私を、アルテミアを永遠に、未来永劫憎悪する。そうなれば私はあの男と共にいられる……激しい憎悪と共に永遠に……』
そして歪んだ独占欲に支配されたアルテミアは実行した。
千年分の邪気を駆使し、ギラルを呼び寄せ彼自身の手でカチーナと自分を殺させる為に。
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しかし計画は順調、『予言書』の未来から召喚した野盗ギラルに時間稼ぎをさせて予定通りにカチーナの体を奪い取ったアルテミアであったが…………ギラルが向ける心から失望したような、怒りを通り越した目に初めての、いや千年ぶりの感覚に襲われていた。
故郷を無くし、人間を、精霊を、そして世界に復讐する事を誓った日以来感じる事は無かった、死ぬ事すら目標の礎と忘れ去っていたハズの感情が湧き上がってくる。
死からのモノではない……何故か分からないところから湧き上がる恐怖を。
「ふふふ……」
そして一瞬慄いた時、さっきまで己の無力を嘆き『私ごとアルテミアを討て!』と吼え続けていたカチーナの魂が嗤ったのを感じた。
「……何がおかしいのです、聖騎士カチーナ・ファークス。先ほどまであれほど慟哭なさっていたというのに」
「ふふ、いえ……どうやら私は忘れていたようです。あの人は私の全てを捧げた人、それがどんな男であるかを」
「……何ですって?」
その妙に余裕のある言葉にアルテミアは苛立ちを募らせる。
「彼はワースト・デッド、最悪を盗む者です。その為であるなら、その結果を得る為であるなら何でも利用するし、何でも使います。それは物でも言葉でも味方でも、そして敵であっても同様に……」
「……また戯言ですか? 事ここに至って私が利用されるとでも?」
「さあ? それは分かりませんが、彼は有言実行の男です。口にした以上、どうあっても予告は実行する事でしょう、喩え何を使おうと何をしようと……」
「……!?」
俺はお前の望みは何一つ叶えてやらねぇ……その言葉を思い出してアルテミアはまたも背筋が凍るような恐怖に襲われる。
*
「と……格好つけてはみたものの、その手段なんて一つもねぇんだよな」
再び動き出したカチーナの体を勝手に使う寄生虫は血涙をそのままにユラユラと意識の外へと動き大鎌を振るってくる。
俺は最小の動きでヤツの攻撃を見極めかわす事に専念するが、何度か危険な斬撃があり、その度にカチーナが必死で止めてくれているのか致命傷には至らずに済む。
だがこのままではじり貧なのは言うまでも無く、エレメンタルブレードが言うタイムリミットだって迫っている。
「クソ!? 何か手は無いのかよ!?」
『無念、我々の力だけではカチーナ氏を侵食する邪気のみを排除する事は困難。膨大な邪気を切り裂けるのは我の力を最大限使える者でなくては』
「だあああああ!? チクショウ、ここに来ても邪気かよ!?」
「負の感情の力だって言うんだったら、何でそんなもんを向こうだけが気軽に使いやがる!? 負の感情を持つのは生き物だったら全部だろうが!? だったらたまには俺たちの味方してくれてもいいじゃねぇか!?」
『……ギラル』
エレメンタル・ブレードの心配そうな声が聞けてくるが、俺はこの邪気と言う理不尽な力に正直もう辟易していた。
敵だけが使えてしかもこっちは見る事の出来ない負の感情の力、そんなのどうしろっていうのだろうか!?
「あの寄生虫ババアは千年間も自分の目的の為に好き勝手してきやがったんだぞ!? ヤツに恨みを、負の感情を持つのは俺だけじゃねぇハズじゃねぇのか!? 精霊だろうが亡霊だろうが邪気だろうが何でもいい! 何か、力を貸してくれる何かはいねぇのか!?」
……もうそれは自暴自棄の八つ当たりにも似た心からの叫びだったのだが、俺がそう叫んだ次の瞬間だった。
『……そんなに力が欲しいのか?』
「だ、だれだ!?」
その声がどこから聞こえて来たのかは分からない。
だが周囲を見渡してもアルテミアもエレメンタルブレードも反応しておらず、それどころか周囲の景色が止まって見える。
これは……俺にだけ聞こえている?
しかしその声から感じるのは途轍もない熱い怒りの感情だが、俺に対してのモノでは無い……そしてその声はどこかで聞いた事があるいような懐かしい声でもある。
『力が欲しいのか? あの世界を滅ぼす為に異界の男女を利用した黒幕から、自分の女を取り戻す為の力が?』
「あ、ああ! 誰でも良い、何でもいい!! あの寄生虫をカチーナの体から追い出し救い出せる力であれば、どんな力でも!!」
俺が迷いなくそう言うと、声の主は確かに笑ったように思えた。
まるで“気に入った”とでも言うように……。
『……一つ、対価を希望する。なに、お前にとっては彼女が無事に帰ってくるなら部屋の埃よりも価値のないモノだ』
俺はその無価値な対価を全く迷いなく了承する。
その瞬間に止まっていた景色が動き出し、俺に語り掛けていたヤツが俺の全身に入り込んでくる。
「そうだよな……考えてみればアンタが一番恨んでいるハズだよな? 惚れた女と引き離されて、しかも自分が手も足も出せない状況で惚れた女を邪神にしくさった黒幕を憎まないワケはねぇよな……邪気の形で現れようとも」
その人物は邪気の形で俺の体に宿り、そして俺では全く真価を発揮することが出来なかったエレメンタルブレードを握ると、眩い光を大剣として発現させる。
文句なく真の勇者の剣としての形として。
「な!? そ、その剣はまさか……発現出来るはずは!?」
驚愕するアルテミアが言う通り、エレメンタルブレードを発現できるのは『異界の勇者』のみ。『予言書』の世界では勇者は死後に故郷に帰り、現在の世界では召喚される可能性すら無くなった。
だから、可能性があるのは惚れた女と離されこの世界に無念の感情を残した『予言書』の勇者の負の感情……邪気だけだ。
思い当たるのはオリジン大神殿で顕現したマガツヒノカミ辺りだろうか?
あの邪神様が面白がってオマケで向こうから『最後の聖女』と共に連れて来ていても不思議ではない。
何しろあの神様は復讐を自分の手でやらせる事にはやたらと誠実だからな……。
この場合俺はこの人に“初めまして”と言うべきか、“久しぶり”と言うべきかとか、下らない事を考えてしまうが……それらを振り払って俺は必要な事だけを口にする。
「頼むぜ異界の勇者タケル……俺の宝を奪い返す為に」