閑話 欲しくなった隣
私事ですが5月1日より書籍発売中です!!
『魔法×科学の最強マシンで、姫も異世界も俺が救う!』
宇宙戦争の最終局面で愛機ごと爆死したハズのエースの主人公が、愛機と共に異世界に飛ばされて戦うメカ、異世界、そして美少女の物語です!
感想はご指摘、酷評でも大歓迎です!! 宜しければご一読よろしくお願いいたします!!
二人のギラルの決着が付くより少し前の事。
予定とは違い一人で最後の黒幕アルテミアと対峙するのを余儀なくされたカチーナは、間違いなく最強の敵と死を賭した戦いを繰り広げていた。
閃光のように直線の速さを武器にどんな体勢でも鋭く斬りこむカチーナに対して、アルテミアは巨大な鎌を手にしているのに陽炎の如くユラユラと、亡霊のように動き巧みにかわしてはカチーナに斬りこむ。
それは図らずのギラル達の戦いとは逆の図式になっていた。
そんな一進一退、そんな張り詰めた空気だというのに、相手が『予言書』の自分だからか油断したのか、それとも何か吹っ切れでもしたのかあけっぴろな受け答えをする相棒に若干気が抜けそうになってしまう。
『こんな時だと言うのに、何を言っているんだ君は!?』
野盗ギラルの売り言葉に買い言葉でギラルが『気になる女はいる』だの、『その女性の前では精一杯格好付けたい』だのと宣う度にカチーナは自分の顔が熱くなるのを禁じ得ない。
彼女もまあ……この期に及んでギラルの言う『気になる女』というのが誰なのかを察せないほど初心ではない。
大体にして仲間たちがヘタレと揶揄うという下りとて、カチーナ自身はギラルの事をそう思った事がないし、そんな揶揄いをした事も無いのだから消去法でも答えはおのずと出てくると言うモノ。
そんな彼女にユラユラと黒い影は近付いて……巨大な鎌を振り下ろす。
「気が散っていますよ聖騎士カチーナ」
「!? うわ!!」
ギャリイイイイイイイイ……
カチーナは慌ててカトラスで鎌を受けると、体ごと滑らせるように上体を逸らして斬撃をいなし、その流れのままにバク転気味にアルテミアの顔面を蹴り上げる。
しかしその蹴りもアルテミアは流れるようにかわし、再び二人は距離を取って対峙する事になる。
「ク……かすりもしませんか。動き自体はホロウ団長に似て実際に速いという事ではなさそうですが……」
「あのような混ぜ物のまがい物と同一視されるのは迷惑ですがね。影の如く動き相手の影にて陰を制する……闇を名に関すると不本意ながらやる事は似通ってしまうのでしょう」
「なるほど。千年も黒幕をしていたからこその極意という事なのでしょうか」
相手は『聖尚書』と二人がかりだったとは言え、ギラル達にとっては最強格の一人であるホロウ団長を負傷させているだけに、カチーナは攻撃の一合一合に死を賭した覚悟を持って挑まなくてはならない。
しかしそんな緊迫の戦闘であるのに、今まさに対峙しているカチーナは自分自身が今アルテミアと斬り合えている事に違和感があった。
『……妙だ。確かに私だって修業を繰り返しある程度は力量は上がっているかもしれないが、それにしてもここはアルテミアにとって邪気渦巻くホームグランド……私が攻勢に出ている事自体がおかしい』
それは長年戦闘職に身を置いて来たカチーナの経験則でもあった。
自分の力だけではアルテミアには敵わない、だからこそギラルと二人がかりで倒す事を目指してこの場に参じたのだから。
「随分と警戒なさっていますね、聖騎士カチーナ・ファークス。そんなに最悪を盗み取って貰った今世の命が大事ですか?」
言い得ぬ不安を拭う事が出来ずにいると、アルテミアはまるでよくできた人形のように薄く笑った。
その表情が何とも言えず背筋が凍り付くほど美しいのに不気味であり……同時にそこにアルテミアという人物の本質が隠れているように思え、カチーナは吼えた。
「当然だろう!? 私の命はギラルに盗まれたからこそ存在する。私の勝手で失って良いモノではない!!」
それは彼女が初めてギラルに最悪な未来を、『カルロス』という人生を盗まれたあの日に勝手に決めた決意表明。
しかしわが命はギラルに為に、などという自分の生殺与奪を委ねるような事を好むヤツではない事は分かり切っている。
だからこそカチーナは“ギラルの為に生きてこの命を彼の為に使う”という事を決意しているのだった。
「……つまり貴女は彼の、ギラルのモノであると、貴女自身が認めるのですか?」
「!? …………それは、貴女には関係のない事だ!!」
「良いですね……」
彼女の“ギラルと共に生きる”という決意表明を前に、アルテミアは薄い笑いを消すと表情を無くしてボソリと呟いた。
「何が、ですか?」
「……聖騎士カチーナ・ファークス。私はこの王都に溢れる邪気を元に貴女に訪れたハズの改編される前の未来を垣間見ました。親に望まれず女児として生まれたのに男児として育てられ、孤独と苦痛を強いられたというのに最後は全てに裏切られ邪神を崇拝し世界全てを滅ぼさんと狂気に走った外道聖騎士。ギラル氏の言う『予言書』における四魔将の中で、貴女は私に最も近しい同志でありましたのに……貴女は早々とその未来を投げ捨ててしまいました。たった一人の盗賊と関わっただけで」
「聖騎士カチーナの望みは世界の破滅なんかじゃない。あの娘が望んだのは自分の歴史ごと全ての存在を抹消する事だった。あの結末を望んだのは私だけではない……私たちだ」
カチーナとしては自分が悪人として最後にはアンデッドの集団に食い殺される未来の姿を同志と言われても嬉しいワケもないし、何よりも『聖騎士カチーナ』の本音を知り最期を看取った彼女としてはアルテミアの言葉は同意しかねるモノであった。
しかし、アルテミアは表情を無くしどこも見ていないような空虚な瞳で言う。
「良いじゃないですか…………貴方たちは……望みが叶ったのですから」
「う!?」
そして無表情だったアルテミアの顔面にある変化が現れる。
それはまるで陶器で出来た仮面が割れるように、徐々にヒビが入り始めたのだ。
しかもよく見ると、そのヒビは顔だけでなく腕や足、全身にも広がり始め……走った日々の隙間から目視できるほど濃密な黒い煙、邪気があふれ出しているのだ。
その異様な光景に驚愕するカチーナを前に、アルテミアは再び微笑む。
壊れた人形のように、ヒビ行って砕け、裂け始め魔物のように大きく口を開けて……。
「私は……邪神にはなれません。ここまで膨大な邪気を使役できるのは、それこそ世界を滅ぼせるほどの憎悪を持った異界の器でなくてはならなかった。分不相応な力を内包すればこうなってしまうのですよ。爆発的な邪気を保つ事が出来ず……やがて自壊する、それは最初から分かっていた事でした」
「な……では、何のためにこのような事を!?」
「良いですね……最悪を盗んでもらって……孤独な人生が無くなり仲間が、同志が出来て……嫌な過去ごと変えてくれる人が現れてくれて…………いつもいつもいつも……私には現れてくれないというのに………………千年もの時間を無駄にする前に、何ゆえに私には誰も現れなかったのでしょう?」
徐々にパキパキと陶器が崩れるように砕けながら、隙間から邪気を溢れさせながら近付いて来るアルテミアの異様な姿にカチーナは思わず後ずさってしまう。
本能的にカチーナは感じ取っていた。
これは逃げないとマズイ事が起こる。
ギラルに捧げた自分の決意を冒涜する何かが起こる……と。
やがて美しかったハズのアルテミアの顔面が全て砕け堕ちた時、ただの黒い影の塊なのにその影自体がニタリと笑ったのをカチーナは“見てしまった”のだった。
「や、やめ……」
「良いですね…………下さいよカチーナさん。改編者ギラルの唯一の隣を…………」