クリティカルな捨て台詞
私事ですが5月1日より書籍発売中です!!
『魔法×科学の最強マシンで、姫も異世界も俺が救う!』
宇宙戦争の最終局面で愛機ごと爆死したハズのエースの主人公が、愛機と共に異世界に飛ばされて戦うメカ、異世界、そして美少女の物語です!
感想はご指摘、酷評でも大歓迎です!! 宜しければご一読よろしくお願いいたします!!
戦闘中に動きを止めるのなど一瞬で良い。
俺は驚愕する野盗ギラルのモヒカンヘッドに向かって鎖鎌の分銅を遠心力全開に叩きつけた。
グシャっという顔面が砕ける感触が伝わって来るが、どうせすぐに再生してしまうのだから相手のダメージ換算なんぞどうでも良い。
それに痛みも感じていないのなら、今の攻撃で重要なのは一時的に、ほんの一瞬だけでも脳震盪を起こしたかという部分。
そしてどうやら痛みと脳震盪は同一のモノでは無かったらしく、ふら付いた野盗ギラルは立っている事が出来ずに後ずさった。
「……あ?」
そしてよろけた背中に何かが引っ掛かった事でヤツはようやく周辺に魔蜘蛛糸が張り巡らされている事に気が付いたらしい……が、やはり遅い。
俺は予定通りに獲物が罠にかかった事を確信して、一気に仕掛けた糸を引き上げる。
無数に張り巡らされた全ての糸がビシっと張り詰めた瞬間に、野盗ギラルは蜘蛛糸の中心に捕らえられた。
「うあ? い、いつの……間に……こんな糸……」
「さっきから、てめえが調子に乗って俺を切り刻んでくれている最中に決まってるだろうが。遠慮なく血まみれにしやがって……」
「な……なんだ……と!? バカな、お前は俺のスピードに翻弄され一方的に切られ続けていて……とてもそんな暇は……」
割られた顔面がまだ回復しきっていないせいか呂律悪く喚く奴は、驚愕と言うよりも納得が行かないとでも言いたいようだ。
「その通り、俺は単純にお前のスピードには付いていけねぇ。目で追ってかわすのは不可能だった。だから俺は『気配察知』を皮一枚、触覚のみに限定して絞り込み、テメーの攻撃が皮一枚に達する瞬間を察知して致命傷を避ける事にしたんだよ。ったく、一張羅をボロボロの血まみれにしやがって……」
「……な……んだ? そりゃ?」
「多少は痛えが切り傷喰らう覚悟が決まってりゃ、小細工する気持ちのゆとりも生まれるってもんでな」
まあ実際はそんなに気楽な戦法でもない。
喩え表層を斬られても浅く急所に到達しなければ致命傷にならないとは言え、一度でもしくじれば命が無かった……それくらいには奴のスピードは速く、そして凶悪だった。
肉を切らせて骨を断つ……神様に教わって、カチーナが気に入った格言ではあるが、まさかここに来て自分が実践する羽目になろうとは。
「こ、この野郎……ふざけやが、ガボ!?」
そして苦々しく睨みつけて来る奴の顔面に再度鎖分銅を投げつける。
痛みも無く際限なく再生する化け物相手に情けも躊躇も不要。
再生が間に合わない程に間髪入れず攻撃するに限る!
「鎖鎌術複合技『女郎雀蜂』!!」
俺は糸に絡まれた奴に向かって、糸を縫うように襲い掛かる鎖鎌術『女郎蜘蛛』と無数に鎖分銅と鎌の斬撃を繰り返す鎖鎌術『雀蜂』の複合技を使う。
この技を繰り出す時には盗賊の要である足を止める事になるから、こんな時でもないと使う機会は無かったがな!
「ガガガガガガ!? ボゴア!? バボ? ブゲエエ!?」
四方八方から息つく暇も無く襲い来る打撃と斬撃に、捕らえられた野盗ギラルはなすすべも無く全ての攻撃を全身に食らって声にならない声を上げる。
痛みを感じない奴の口から洩れるのは悲鳴でもない、顎が砕け、肉が削げ、全身が細切れになって行く雑音のようなモノではある。
しかし腐り落ちたゾンビのようにグチャグチャになっても尚、膨大な邪気を武器にする野盗ギラルの体はダメージを受けた傍から修復されていく。
俺に対する嫉妬心からの邪気なのだから、俺に対して最上に効果を発揮するのは分かり切っている事だが……。
やがて『女郎雀蜂』を止めると、奴は支えを失ったように地面にグシャリと倒れ伏した。
当然再生を続けているのだから、そんな姿になっても再び立ち上がろうともがき始め、原形を取り戻そうとして行く。
その姿はスライムが人間に擬態しようとしているみたいで、滑稽にも見えた。
「ぐべ……ばば……ウギ…………ふへ、ふへへへへ…………何だてめえ……偉そうな事、ほざいといて…………もう、息切れか……あ?」
「…………」
「へ、へへへへ……な、何だあ? 違う道を行ったって所詮…………」
それは膨大な邪気で再生を続ける自分に倒される心配はない。力量で上回られても最終的には自力で勝つことが出来る、こっちのスタミナ切れを待てば良い。そんな風に都合のいい事を考えているのが見え見えな言葉だった。
本当に、一歩間違えば自分はこんな人間になっていたと思うと……情けなくもあり、そして忘れてはいけない戒めであるとも思えてしまう。
「なあお前……この場所にたどり着いて最初から邪気使いのアルテミアと対決するつもりだった俺たちが、邪気に対して対抗手段を持っていないとでも思ってたのか?」
「…………へ?」
「最初で最後、なっていたかもしれない自分の末期だからこそ師匠の教えを一つだけ教えて置いてやろう。油断はするモノじゃない、させるモノ……だぜ」
「!? そ、そいつは!? や、やめろ! そ、そいつは……そいつだけは!?」
そして俺が再生を続けているものの、まだ両手両足が機能する程ではない野盗ギラルの眼前に出して見せたモノ。
それを目にした奴は目に見えて狼狽し、悲鳴を上げて何とか立ち上がって逃げようと画策し……転倒を繰り返す。
邪気を使っても、憎たらしくて仕方が無い俺を前にしても……それでも奴にとってこれ以上の恐怖の対象はないのだろうから。
何しろ奴にとってはこれは比喩でも何でもなく己を一瞬の内に殺した武器なのだから。
喩え勇者のように見事な刃はなく、刃先がショボかろうと……。
「コイツがため込んでいる邪気も相当な量みたいだが、全て散らす事は出来るのか?」
『愚問……彼の人物がため込める邪気はそれなり。周囲の邪気と繋がっているからこそのパワーと再生能力。ご存じの通り、ギラルと言う人間に邪気を扱う才能はほぼありません』
「やれやれ、ハッキリと言ってくれる」
俺が語り掛けると『エレメンタルブレード』は感情の無いような無機質な声でそんな事を言いやがる。
残念だったよなぁ……俺よ。
俺はどんな人生を歩もうとも、正当なモノでも邪道なモノでも、人よりも優れた才能に恵まれる事は無いらしいな。
楽な道を歩む事を許されず、積み重ね積み重ねて……それでも鼻歌交じりに追い抜く奴らを羨んでも腐る事はせず、たどり着けるかも分からないゴールを目指して苦難を繰り返すしか道はないんだ。
俺はそう言う男なんだよ。
トス……
望郷の念を刃にする異界の勇者の専用武器……それ以上の刃を生み出せない俺は刃先のショボいナイフのような剣をそのまま這って逃げようとする野盗ギラルの背中に投げると……軽い音を立てて小さな光の刃は突き立った。
ボ!!
その瞬間、奴の全身から黒い煙のようなモノ、邪気が一斉に放出され散らされていく。
刃先のショボい『エレメンタルブレード』では邪気を切り裂き浄化する事は出来ないが、邪気をその場から散らす事は出来る。
そして、ダメージや痛みを肩代わりしていた邪気をイキリ散らかしていた奴が急激に失ったらどうなるか。
「ギャアアアアアアアアア!? 痛え痛え痛え!? 顔が、腕が、足がああああああ!?」
当然、こんな風に今まで食らったダメージが一気に襲い掛かり激痛に喘ぐ羽目になる。
それは借り物の力で戦ったのみならず、これまでの奴の所業が全て返って来ただけの因果応報、どこからどう見ても自業自得以外の何物でもない。
しかし奴は全身の痛みに血と涙で顔面をグチャグチャにしながらも、それでも俺に憎悪の目を向ける事を止めない。
邪気の恩恵を失い、俺が『予言書』の未来に至る可能性もいよいよゼロに近づいたのか、奴の姿が希薄になり始めても尚、俺に憎悪の目を向けて来る。
逆恨みも、ここまで来れば大したもんだ。
「なん……で、だよお……何で……お前はそんな風に…………何で……俺はこんな……」
そして漏れ出るのは疑問の言葉。
どうして自分はこうなってしまったのか、どうすれば良かったのか……と。
そんなのは単純な事、何度も自分で口にしていた事をやれば良かっただけの事。
それをせずに楽な方に逃げた結果が、一時の悦楽や快楽に身を任せた結果が、このモヒカン男に至る全てなのは……自分自身が一番分かっている事だろう。
「簡単な事だろうが、悪い事をしなければ良かったんだよ。一度手を染めたら止まれなかったとか戯言抜かすんじゃねぇぞ。止める機会、引き返す機会はいつでもあったはずだ。それまでにどれほど犯罪を犯していても、そこで止めればそれ以上の被害は出なかったのは当たり前だろうが。結局止めなかったのも、そのだっせえ髪型になったのも全部てめえのせいだ。『予言書』の未来事消え失せろクズ野郎が!」
俺は憎悪の目を止めない奴に、最後の最後まで同情の目など向けない……自分自身であるからこそ、消えるその瞬間まで侮蔑の目を向ける。
自分がこうならない為に……。
コイツの事を完全に否定する為に……。
そして……絶対にコイツの事を忘れない為に。
「くそ…………この…………ヘタレ童貞…………め」
そして野盗ギラルは、ガクリと倒れ伏し……そして至る未来の可能性が消え去るように、虚空に消えて行った。
とんでもない捨て台詞を残しやがって……。
「やかましい……この山が終わったら根性出すつもりなんだから……」