自分の好きに生きた結果
私事ですが5月1日より書籍発売中です!!
『魔法×科学の最強マシンで、姫も異世界も俺が救う!』
宇宙戦争の最終局面で愛機ごと爆死したハズのエースの主人公が、愛機と共に異世界に飛ばされて戦うメカ、異世界、そして美少女の物語です!
感想はご指摘、酷評でも大歓迎です!! 宜しければご一読よろしくお願いいたします!!
そう言い放ち、俺は奴よりも先に動き出す。
単純なスピードで劣る事から待ちに徹すると思っていたのか、攻撃に転じた事に奴は一瞬驚いたような顔になったが、それも一時的な事。
俺よりも動作自体は後手に回っているのに、先に懐に潜り込まれていた。
「!?」
「なんだあ? ヤケクソになって自分から動いて動揺でも誘うつもりだったのかあ? お前の積み重ねて来た年月ってのは随分と薄っぺらいモンなんだなあ!」
大振りに振り回された奴のナイフは俺の脇腹を浅く斬り裂き、そうかと思えば次の瞬間には背後に回って肩口を斬られる。
止まらねえ!?
邪気の補助を受けた力任せの雑な攻撃だというのに野盗ギラルの攻撃は確実に俺の体に傷を作り、そして無駄が過ぎる高速移動を繰り返しているにも拘らず奴の息が上がる事も無く無茶な挙動で損傷して行く体も即時回復して行く。
自分が傷つき壊れる事を厭わないその攻撃は、さながら蜂の集団に襲われているかのような息つく暇も無い連続攻撃。
当然だが徐々に俺の全身は傷つけられて行き、徐々に出血も増えて行く。
「ヒャハハハハハ! 脆い脆い脆い!! 貴様が無駄な時間を費やし築いてきた力など所詮この程度のモノ! どれだけ清く正しく品行方正であろうと、好き勝手に生きて来たこの俺の方が強いってのは何とも滑稽な事だなぁ」
徐々に血に塗れて来る俺の姿が楽しくて仕方ないとばかりに、野盗ギラルはますます煽るような事を言い募る。
しかし、俺はその言葉に違和感を覚えた。
「好き勝手に生きて来た? お前が?」
「おおよ! 俺はこれまでの人生で我慢何てした事がねぇ。腹が減ったら盗み、抵抗するなら遠慮なく殺し、気に入った女なら泣こうが喚こうが容赦なくいただいて来た。相手の意思など関係なしになぁ!!」
「…………」
「てめえ、その分じゃまだ童貞だろ? 俺だったらその年には日に何人もいただいていたぜぇ? まあ生き残っているヤツはいねぇがなぁ……まったく、同じギラルだって言うのに情けないもんだ」
それは自分がもしかしたらなっていたかもしれない、吐き気を誘うような『予言書』の自分の悪事自慢。
自分なら絶対に、死んでもしたくない悪事を嬉々として語るソレが自分だとは……本音を言えば思いたくはない。
しかし受け入れなければならない……コレが道を踏み外した先の自分なのだ。
「へえ……じゃあお前は自分は好きに生きて来たって言うんだな? 俺がお前の結末を拒否する為にやって来た努力の全てを無意味で滑稽だと笑えるくらいに」
「その通りじゃねぇか! 法を守ってイイ子ちゃんして正義の味方ぶって無駄な人生送っていたてめえが俺に手も足も出ずにこんなに追い詰められて……」
「本当に、そう思ってるのか?」
「……あ? 何が言いてぇ」
「好き勝手に犯罪行為に身を任せ、俺のやって来た全てが無駄で無意味な事だった……そう言ってあざ笑うなら、何でお前は俺を憎むんだ?」
「…………」
俺がそう言った瞬間、あれだけ調子良く俺を責め立てていた野盗ギラルがピタリと止まった。
「お前が言う通り俺はまだ女を知らねえ。勿論いつかはお相手を願いたい女はいるけど、仲間たち曰くヘタレな俺は未だに童貞だ。そいでもって世間体ってのもあるし何よりも好きなヤツ等に嫌われたくねぇからお前が言うような好き勝手な手段ってのは絶対に出来ねぇ……そりゃ認めるさ」
「…………」
「だけどな、俺もお前が言うように、好き勝手に生きて来ただけだぜ?」
「あ!?」
「お前がいう事が本当ならな~んにも違わねぇよ、真っ当に稼いだ金で仲間たちと一緒に旨い飯を食いたい、冒険者として難解な依頼を達成した時の達成感を感じたい、そして気になる女性の前では精一杯格好付けたい。どんなお題目があっても俺の人生観なんて精々その程度しかねぇよ……お前が俺と同じギラルだって言うならな」
確かに切欠はあの日、神様に救われた事だった。
でもその日から俺がやって来た事は全て自分がやりたい事をやり、やりたくない事をやらなかっただけの事。
最悪な結末『予言書』の未来を変えたいから行動し、『予言書』の自分にはなりたくないから犯罪を犯さなかった……ただそれだけだ。
俺がそう言うと、さっきまでニタニタと俺の事を煽っていたハズの奴から表情が抜け落ちて……ギリギリと歯を食いしばり始める。
奴は俺だ……同じギラルなのだから分かる事がある。
俺はあらゆる悪事を受け入れるには小心者に過ぎない事を。
人に嫌われ悪人として何も感じないでいられる程、精神力が強くなどない事を。
「俺は本当に好きに生きて来た。仲間たちと笑い合えるように、後々自分の所業でなるべく後悔しないように、惚れた女に振り向いてもらう為に。お前はどうだ? 本当に人から奪う事をしたかったか? 村が焼かれ仲良く馬車に乗る親子に嫉妬した挙句命を奪うなんて事、本当にしたかったのか? 犯罪で手にした金で喰う飯は旨かったか? 泣き叫んで抵抗する女性を犯して本当に快感だったのか?」
「…………うるせぇ」
「お前は本当に、そんな事をしたかったのか? 俺の事を嫉妬して憎悪して、最大級に邪気を扱えるほど俺の事が羨ましくて羨ましくて仕方が無いようなお前が、自分の方が正しかったと、なりたかった自分の姿がそれだと言えるのかあ!?」
「うるせええええええええええええええええええええ!!」
ガガガガガガガガガガ!!
激高した野盗ギラルはさっきよりも増してデタラメな速さで動き、俺に滅茶苦茶にナイフを振り回して来た。
「うるせえ!うるせえ!うるせえ!! だったら何だ! だから何だ!! 運よく自分だけ光の当たる場所に行きやがって! 俺には一度もそんな機会は無かったって言うのに!! 何でてめえが! てめえだけがあああああああ!!」
我を忘れた全力の波状攻撃。
その間に奴の手足も何度か過負荷に耐え切れずにねじ切れてしまう程激しいモノであったが、再生を続けるヤツにとってはそれは些末な事でしかない。
本当は、本当はやりたくなかった犯罪行為をせずに済んだ俺に対しての嫉妬心が奴の攻撃を更に強く激しくして行く。
まるで悪いのは俺であると言わんばかりに。
まあ確かに野盗に堕ちた原因は一緒、俺は運が良かっただけなのは認めるし哀れには思わなくもないが……。
俺は超が付くスピードでも一直線で雑な振りの攻撃を最小限の動きで皮一枚でかわす事に徹し、浅い切り傷で血に塗れつつも致命傷だけは受けないように立ち回る。
最初は異常なスピードに体が付いて行かなかったが、次第に次第に急所を狙っても致命の一撃が外れる事にさすがの野盗ギラルも違和感を持ち始める。
しかし、やはり邪気と言う強力な力を持っても弱者を一方的に嬲る事しかしてこなかった野盗ギラルの判断は身体スピードに比べて遅かった。
顔面を狙った突きが外れた次の時、また強引に反対側へ高速移動しようとしたその瞬間まで軸足に一本の魔蜘蛛糸が絡みついている事に気が付かなかったのだから。
「な、いつの間に!?」
奴の人生は運が悪いとは思う、ある意味哀れであったとも……しかし同情心など欠片も湧いてこない。
コイツは俺なのだから……運悪く道を踏み出し、引き返す事をしなかった単なる悪人なのだから。
「結局犯罪者を選んだのは自分だろうが。俺がこうなった理由は言った通り、好き勝手に生きて来た……それだけだ、人のせいにしてんじゃねえ! このボケナスがああああ!!」
「ぐがあああ!?」
戦闘中に動きを止めるのなど一瞬で良い。
俺は驚愕する野盗ギラルのモヒカンヘッドに向かって鎖鎌の分銅を遠心力全開に叩きつけた。