ギラルを最も憎む者
私事ですが5月1日より書籍発売中です!!
『魔法×科学の最強マシンで、姫も異世界も俺が救う!』
宇宙戦争の最終局面で愛機ごと爆死したハズのエースの主人公が、愛機と共に異世界に飛ばされて戦うメカ、異世界、そして美少女の物語です!
感想は酷評でも大歓迎です!! 宜しければご一読よろしくお願いいたします!!
それは悪戯が見つかった子どものよう、と言うには余りにも凶悪で、自分自身の秘めていた性癖がバレたようと言うには余りも笑いどころも見当たらない……悍ましいとしか言いようのない“満面の笑顔”であった。
「私とてかつては古代亜人種として生を受け、自然と共に生き精霊を敬い友とし愛し慈しみ、そして最後は自然と共に死んで行く事が自分たちに与えられた人生、自分たちの生きがいであり誇りであると思っていましたよ……人間どもが我らの故郷へと侵略して来るあの日まではね」
「かつては……ね」
「そう……かつてです。人間たちの侵略を前にして私たち古代亜人種は故郷の森を守る為に、そして精霊たちを守る為に命を賭して戦いました。我らが守らねば、精霊たちが住まう森を侵略者共から守れるのは我らだけなのだと信じて…………だが」
そこで言葉を切るとアルテミアは次第に「くくく」と声を上げて笑い始める。
笑顔であるのに、声も上げているというのに……一つも笑っていない瞳で。
「精霊にとってはそうでは無かった。所詮古代亜人種など自分たちが利用できる有象無象の一つに過ぎなかったのです。証拠に侵略者共はこぞって精霊魔法を使役し木々を燃やし、大地を破壊し古代亜人種を滅ぼす事に協力した。そして精霊を守る為に命を賭した古代亜人種が死に絶えた後、今度は侵略者であるハズの人間どもに恩恵を、寵愛を与え出す始末……精霊は友などではない、誰にでも使える単なる兵器と変わらなかったという事だったのですよ」
古代亜人種の最後の生き残りアルテミアが精霊を、世界を憎む理由はそう言う事だったのか……単純に言えば信じていたモノに裏切られたという憎悪。
尽くして来た、友好を結び向こうも同じように思っていてくれていると思っていたのに向こうはそうでもなかったという。
憎しみを持つ気持ちも分からなくはないが……そう思っていたのは俺だけでは無かったようで、カチーナが何とも言えない表情で声を上げる。
「精霊は自然と同義、自然が人の手で思い通りになどならない、また自然が誰かを贔屓する事などない、全て平等に富も天災も齎すモノでろう? そのような事は長き年月精霊と共にあったというなら貴殿の方が人間などよりよく知っている事ではないのか?」
「無論、そのような事は知っています。千年前に多くいた同胞たちからも口伝として長く伝えられてきました。精霊は個にして全、善を好む者もあれば悪を好む者もある存在、画一的に全て知る事は出来ぬと……」
「!? だったら……」
「ですが……人間どもが精霊魔法を駆使して森を、村を、仲間を燃やし、壊し、殺して行く様を見せつけられて悟ったのです。ああ、間違っているのは世界の方なのだと。精霊、自然という護り手であるハズの古代亜人種すらも平等と滅ぼすような間違った存在を容認する世界そのものが間違っているという真実に……私は気が付いたのですよ」
ゾ……その瞬間に感じたのはさっきまで感じていた不快感を更に濃密にしたかのようなドス黒い空気。
アルテミアの顔を見ているだけで今まででも冷や汗が止まらなかったというのに、最早立っている事すら容易ではない程の耐え難い虚脱感に見舞われてしまう。
「く……自分たちを優先しなかった事が気に入らないからと、世界を滅ぼすというのですか!? それでは精霊の地を我が物にしようとした人間たちと何も変わらないではないか!?」
「ええ、ええ! 分かっていますよ、盗人により己の使命を忘れた『聖騎士』カチーナ・ファークス、これが逆恨みである事は。改変される前に貴方が人間すべてに嫉妬して全てを奪い、破壊して回った事と何も変わりはしない。気に入らないから壊したい……ただそれだけの事なのですよ!!」
ただの嫉妬、逆恨み……憎悪し慟哭し、全ての元凶を生み出した世界そのものを破壊しようとしていた同期は結局それだけだと言い放つアルテミアに、カチーナは湧き上がる不快感を歯を食いしばって耐えつつも睨みつける。
しかし俺は……意外な事に、やり方は兎も角その気持ちだけは理解できた。
「なるほど、気に入らないから気に入らないモノをぶち壊したかった。目的の為であるなら三大禁忌だろうと精霊神だろうと何でも利用して、最後には血を分け志を共にした妹も、自分自身すら道具にして結果だけを追求する為にか。その点に関してだけは俺とあまりやっている事は変わらんようだな……先輩よう」
「……君に先輩呼ばわりされるのは実に不愉快ですが、確かにその辺だけは同意です。私の千年の計画を潰した、君が神様と崇めるかの世界で言えば『モブ』と呼ばれる矮小な存在が自分が生き残る為だけにやり続けていたのは、出来た事はそれだけとも言えます」
「そこの利用する範疇に異世界を混ぜ込んだのが完全に失敗だったようだけどな。俺も利用できる者は利用する主義だが、テメーの事はテメーで、世界の事はその世界で終わらせるってのが前提だったから……」
世界の事は世界で……何の関係も無い異世界に頼ろうとした時点でその計画は最初から破綻していた。
破壊にしろ再生にしろ、自分の事を他者に委ねるのは間違っているだろう。
「人間を憎んでいたアンタは別世界の人間であっても似たように憎悪の対象にして利用した。向こうに取っちゃ恩も恨みも思い入れすらも何もないって事を都合よく解釈してな」
「…………」
「残念だったな~『予言書』であっても、結局この世界は滅びる事にはならなかったみたいで。アンタ等の作り上げた邪神はこんな世界が壊れようと再生しようと興味なんざねぇ。ただ自分の男さえ無事ならどうでも良かったんだからよ~」
自分の男を奪い去った世界への激しい憎悪で世界を壊そうとした邪神であっても、男を生かす為の方法を囁いた聖女一人に心変わりをさせてしまう。
千年かけようと何をしようと結局はそれだけで、覆されてしまう計画でしか無かった。
「最初から自分で、異世界の関与なんか求めないでこの世界の中で事を起こせば異世界からの干渉は無く、こんな婦女暴行未遂の野盗の邪魔なんか無かっただろうになあ!」
「……世界を滅ぼす事はこの世界に生まれた者である私には不可能。それを分かった上で貴方はやり口が間違っていたと言うのですか?」
復讐自体を間違っているなどとは俺には言えないし言うつもりもない。
自分がもしも同じ立場だったとしたら、方法は違えど何らかの復讐を企てたかも知らない……故郷を滅ぼされ目の前で親を友を殺された俺にはその気持ちは理解は出来る。
でも……だからこそ、だったとしたら俺は復讐の手段として他者に委ねる事など考えられない。
「俺だったらまず、自分の手で世界を滅ぼせる手段を考えるかな? 恨み募る相手を始末する瞬間を他人に任せるなんて出来るほど達観出来ないからな~」
「…………」
「ふふふ、その考えは同意ですギラル。確かに私も復讐を果たすのであれば止めは自分で刺したいものです。方法があるか、可能であるかなどは度外視にしても」
復讐自体を自否定されない事にアルテミアは驚いたのか言葉を失うが、カチーナは苦笑を浮かべて同意してくれる。
さすが我が最大の共犯者である。
「……ってワケでアルテミアよ。アンタの恨み言は分かったけど、俺としては故郷を滅ぼした遠因とも言える王国の邪気を総括してきたアンタ自身に恨みがあるんだわ一応。そんなワケでザッカールの邪気を何とかする仕事のついでに、復讐を果たしたいと思うんだが……問題ねぇよな?」
「僭越ながら、ギラルの助太刀をさせていただく。さすがに一対一を唱えられる程己惚れてはいないのでな」
カチーナがカトラスを構えるのと同時に俺はダガーを抜き取りザックの中身を確認する。
……今回ここに至るまでに七つ道具の使用はある程度抑えて来たつもりだけど、それでも全て失う事は前提にしなくてはならないだろう。
今月も赤字確定だな。
「ふ、ふふふ、ふふふふふ……なるほど、君はどこまでも『予言書』を否定すると言うのだな。その物語は最初から間違っていたと……」
再び笑い出したアルテミアだったが、突然右手の平を突き出して黒い塊が凝縮し始める。
いよいよ邪気による攻撃が始めると思い警戒を強める俺たちだったが、その塊は攻撃では無くやがて人の形になり始め……そして俺にとっては最も見たくない姿を取り始める。
「この世界で君の事を恨む連中は案外多くありません。代表で悪事に加担していた貴族や王妃ヴィクトリア辺りはいましたが、貴方個人へ邪気を向けれる程強大な恨みを募らせる者は存在しませんでした……この時間軸においては」
「うげ…………そいつは……」
「彼は誰よりも、何よりも今の貴方を妬み憎んでいます。人の道を外れなかった貴方を、師匠を得た貴方を、仲間を得た貴方を、曲がらず信念を持って英雄の生き様を出来る貴方を……そして、最愛の共犯者と共にある貴方を……」
やがて黒いシルエットが無くなりさっき見た『聖尚書ホロウ』や『聖魔女エリシエル』と同じように人の姿として具現化し始める。
やたらとボロい服と刺々しい肩あてにベルト。
傷だらけで凶悪な顔面と特徴的で派手なトサカに見えるモヒカン。
そして手にしているのは俺が神様の住処から戻った時、真っ先に手放したハズの錆びたナイフ。
『予言書』で最初に見た、捕らえた娘に性的異暴行を加えようとして真っ先に異世界の勇者に真っ二つにされた、まるで勇者登場の演出の如くアッサリと殺されるハズの雑魚野盗。
「よう……初めまして『スティール・ワースト』で『ワースト・デッド』の俺」
「初めまして…………最悪を盗まれず、最悪な死に方をした俺……」
俺の最大の目標、最も否定したい『予言書』の自分が誰よりも、さっきのアルテミアよりも遥かに憎悪を滲ませた瞳でこっちを見ていた」