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神様の予言書  作者: 語部マサユキ
聖騎士に引き裂かれた賢者と恋人
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知れば変わる印象

「ちょっと意外だったな」


 それからしばらく、地元の遺跡について色々とレクチャーしてくれたジャイロだったが、昨日の印象とは裏腹に不快な様子も見せずに親切に教えてくれて、粗方の事を伝え終わると「では俺はこれで……」とアッサリこの場から離れて行った。

 念のために『気配察知』は展開したままだったが、警戒する必要も無かったようで彼はそのまま町の方へと向かっていった。

 昨日の今日で向こうにとっては俺に対して良い印象は無かっただろうし、事実最初の第一印象では明らかに嫌悪感をにじませていたというのに……。


「……もしかしてこっちの方が素なのか? やっぱり根は悪い奴じゃない……のか?」


『予言書』のシャイナスとの違いに戸惑っていたというのに、これ以上判別の付かない判断材料投下しないで貰いたいもんだが……。

 しかし戸惑う俺とは裏腹にカチーナさんとドラスケは苦笑していた。


『新兵で考えればあの手の輩はありがちなのである』

「ですね。レギュレーション違反で憤っていて気が付きませんでしたが、私も王国軍にいた時は新卒の連中を“へし折る”のがまず初めの仕事でしたね」

「どういう事?」

「軍に騎士として入隊してくる新卒の連中は総じて人よりも武力に自信がある連中がほとんどです。だからこそ少なからず増長しているものなのですが、その自信をそれ以上の武力を持って叩き潰し、根拠のないプライドを捨てさせるのですよ」

『軍という戦闘集団において自身の戦力を正確に把握できていない事は死に直結する。ひいては軍全体の危機にも反映される。最初にプライドをへし折った後、這い上がれる者のみが初めて軍人としての入り口に立てるというモノである』

「そして地獄の訓練を潜り抜けて、その厳しい地獄がなぜ必要だったかを理解した時にこそ先輩後輩の信頼関係も生まれる。それまでは理不尽に地獄を与えて来る先輩に憎悪しか抱かないものですけどね」

『カカカ! 懐かしいのう……我も生前は両の手で足りぬほどの後輩共に恨まれた事か』

「あ~なるほど」

『そこで恨み骨髄な先輩が自分の為に労ったり、含蓄のある為になる事を言ってくれたりした時に、初めて感謝と共に自身を見返す事が出来るものなのだ。我もその手をよく使ったものである』

「私は軍役の期間が短かったですから、そんなに経験なかったですけどね」


 元軍人の2人の言葉の説得力に俺は納得するしかなかった。

 俺は奇しくも増長する新卒の若者をへし折る役を担ってしまったという事なのか。

 こういう場合冒険者だと増長したまま本番に至るケースが多い。

 適正年齢に至っていれば誰でもなれる自己責任の世界だから、腕に自信があるからと人の忠告も聞かず、手遅れになる前にへし折ってくれる人がいるのがマレだから……恨み言を言う間もなく命を堕としてしまう。

 未成年から保護観察してもらい、更に師を持つことがで来た俺は本当に幸運だったのだ。


「明らかに貴族特有の魔導師最上主義っぽかったですから、ここで挫折を味わい、更に自分を見つめ返す助言をくれる先輩に出会えた彼は幸運なのかもしれません」

「助言~? 俺の話は神様の又聞きの又聞きを言っただけじゃん。大した事をした覚えはね~よ」

「まあ……貴方はそれで良いんですよ。ハーフデッド」


 カチーナさんはそう言いつつ俺の肩を軽く叩いてクスリと笑った。

 何か凄く嬉しそうにも見えるのが気になったが……それはそれとして、俺はジャイロが教えてくれた今は風化して断片的にしか読めない石碑の文字に顔を寄せた。

 解読について詳しいリリーさんも、さっきのジャイロの言葉を既にメモしていたらしく、メモと石碑の文字を見比べて眉を顰めている。


「う~む……『彼の者魔族にして魔族に非ず。精霊神の御心に触れ、万の軍勢率いて魔族を強襲、人の軍との挟撃に成功。邪悪な種の尽くに裁きの鉄槌を下した』か。文字数的には間違っていない……あのお坊ちゃんがウソ言っている事はないだろうけど、この石碑にはウソがありそうね」

「石碑のウソ…………ああ」


 一応この石碑、ジャイロが教えてくれたのだがリリーさんの予想通り精霊神教、すなわちエレメンタル教会の管轄らしく、曲がりなりにも元聖職者の彼女がそれを否定するのはヤバイ事なのだが……正直俺たちにとっては今更だ。

 ジャイロの話、石碑の文言を直訳すれば『この地に蔓延っていた魔族の中で精霊神の正しい心に触れた一人の男が魔族を裏切り万を超える軍勢で人間たちと協力して魔族を根絶やしにした』という太古に起こった聖戦の英雄譚だったって事だが……。


「太古にこの地に住んでいたのは亜人種、しかもエルフだろ? 正確には『この地で平和に暮らしていた精霊の力が溢れるエルフの住居を人間たちが欲しがり、欲に駆られた人間に協力してエルフを裏切ったヤツがいた』って事だからなぁ」

「身もふたもなく言えばそういう事よね~。わ~い、これで私、何度異端者として火炙り確定の真実を知っちゃったのかしら~? これに関してはあんまり故きを温めたく無いんだけど……」

「心配ないリリーさん、我ら『スティール・ザ・ワースト』は一心同体。火刑の際は一蓮托生……一人では逝かせんさ」

『最悪骨でも生きて行けるであるぞ?』

「お前が言うと本当に縁起でもねーんだよ!」


 パカン、一人じゃ無いと励ますカチーナさんの話にオチを付けてしまうドラスケの頭を俺は軽く叩いた。

 しかしまあ、調べれば調べるほどに情報と不安要素が増えて行くのに肝心な結論には至らない……だというのに。

 何故だろう? 結果がクソ国王の時と同じようなクズな予感がするのは……。



 グレゴリール領の領主、グレゴリール子爵が直接赴任している町『アクリール』は遺跡から既に見える位置にある目と鼻の先。

 しかし普通なら観光地にでも利用しそうなこの遺跡が苔だらけで放置されていた理由は追及するまでも無かろう。

 一応は英雄の遺跡という云われもあるのに、町の敷地外にある事から町民か、あるいは子爵家なのかは分からないが相当に忌避されているという事だろう。

 最早近所とも言えるアクリールの町への道のりは特に魔物が出没する事も無い安全な道のりで、すぐに魔物除けの壁に囲まれた町への門が見えて来た。

 俺は一応肩に留まってオブジェと化しているドラスケに確認の為に声をかける。


「ドラスケ、さっき言ってた遺跡から繋がっている邪気はこの町に流れているって事で良いのか?」

『そのようだ。しかし町全体が薄~く邪気に包まれているようで、邪気を発生させた、もしくは利用している“ナニか”がどこにいるとかは今のところ特定できん』

「アンデッドの痕跡……いわゆる残りっ屁って感じ?」

『……せめて残り香とか言ってくれんか? 我もアンデッドである事に少しは気を遣わんかい』


 邪気の表現が気に喰わなかったのか抗議してくるドラスケである。

 ……どうでもいいけど他人が見たら肩に子ドラゴンの骨をオブジェを乗せている痛い子に見えないだろうか? と一抹の不安も感じてしまうが。 

 

「しかし邪気があるというなら、人体に影響があるのではないか? 以前も邪気に晒されると人は邪人と化してしまうとか」

『高濃度の、とは言った。本来邪気などそこら辺に普通に漂っているもので、カビや湿気と変わらん。微量では生物に影響を与えるとしても精々が邪気の影響で少々機嫌が悪くなりやすいくらいの……」


 と、ドラスケが微量の邪気の影響を話し始めた瞬間、タイミングよく町への門からあからさまにガラの悪い男の声が聞えて来た。


「ああ!? てめぇ通行の許可が出来ねぇってどういう事だ!! 俺様はCランク冒険者でグレゴリール子爵に呼ばれたから来たって言ってんだろうが!!」

「CだろうがSだろうが関係ない。冒険者を語るなら冒険者の証明であるドッグタグを提示しろと言っているのだ。無いならキッチリと通行料金を払え!」

「だからドッグタグは落としたから、町の中のギルドに行くから一時的に入れろって言ってんだよ!」

「信用出来ぬ輩を不用意に通すと思うのか!?」


 見てみると門番の兵士と3人の屈強そうだが野盗と遜色ない程目付きもガラも、そして服装だって悪い連中が言い合いをしていた。

 話の内容から、どうやら門番側に圧倒的に正当性があるようで……順番待ちで並んでいる商人の馬車やら他の冒険者やらが迷惑そうに睨んでいた。

  

「ありゃ通行料を払いたくないからドッグタグを見せないで通行しようとしていて失敗したパターンか?」

「……そのようですね。まったく迷惑極まりない」


 この手の輩はこういった通行規制の掛かる場所では風物詩と言っていいほど定期的に現れる。

 冒険者のドッグタグは身分証明と共にいくらかの特典があり、特にCランク以上の者は通行料、出国が無料というのがある。

 国であれ領地であれ、所在のしっかりした強者が出入りする事のメリットとデメリットを考えての特典なのだが、たまにいい加減な門番だと確認もせずにスルーするのもいるから、この手のワンチャン狙いのチャレンジャーがいなくならない。

 しかし多分アイツら実際にはドッグタグを紛失何かしてないCランク以下なんだろうな~ってぼんやりと考えて眺めていたのだが……唐突にその連中にリリーさんが音も無く近付いていった。

 ……あれ? 何だろう、あの戦闘用の摺り足……って言うか怒ってる? 

 リリーさんは脳筋聖女、脳筋ババア、脳筋ハゲの抑えつっこみを長年担当していたせいか分かりやすく激高するタイプじゃないが、淡白な性格でも無い。

 一体何が彼女の琴線に触れたのか?  


「へぇ~凄いですね~Cランクなんですか~。私なんか未だDランク何ですよ~、先日の昇格試験に落ちましてね~」

「あん!? 何だこのガキ、こっちは今取り込んで…………!?」


 そして突然背後から声を掛けられたガラの悪い自称Cランクの男たちは、振り返りリリーさんの顔を見た途端に……青くなった。


「て、ててててめぇは……」

「不合格理由は“団体行動出来なかった”からなんですって。実力も性質も合格ラインであったとギルドから説明してもらいましたが、今回の試験で重要だったのは不測の事態での連携でして、試験開始から即席パーティーが勝手に単独行動されては打つ手なしだったのですよ……」


 リリーさんは持ち前の可愛らしい笑顔を浮かべているのに、この位置から見ても目が笑っていない寒気のする迫力を醸し出していた。

 そして俺も思い出す。

 そのガラの悪い男たちが何者で、リリーさんとどういう関りがあったバカ共なのかを。


「おかしいねぇえええ!! 何で即席パーティー全員が不合格になる試験で、単独行動取ったアンタ等がCランクに昇格して、私がDランクのままなのかしらああああああ!?」


 それは怨霊が如き冷え冷えとした声で、まともに喰らった3人は一様に「「「ひえ!?」」」と圧倒されかかったのだが……いち早く正気に戻った一人が慌ててリリーさんに襲い掛かって来た。


「チッ……このガキ、余計な事を!?」


 不正を働こうとしていたのだがら、このままでは確実に犯罪を証明されてしまう。

 せめてリリーさんの口を封じてトンズラしようとか思ったのだろうが……それは甘い。

 確かにリリーさんは見た目は小柄な女性で、どちらかと言えば自他共に認めるロリ属性。

 しかし一見、力押で圧倒出来る女の子にすら見えるけど、彼女はあの脳筋共、生半可じゃない力押の連中と長年渡り合ってきた人物だ。

 半端な力押など通用するワケも無い。

 リリーさんは掴みかかったきた男の右腕の外側に、小柄な体格を利用してスルリと移動すると、懐から取り出した短杖を男の側頭に突きつけ、躊躇いなく魔力を発動した。


ボン! 「ガ……」

「殺す程の威力は無いわよ? 今のは至近距離で風魔法の爆風を当てただけだから」


 ピンポイントに頭に魔力弾を喰らった男は白目をむき横倒しに倒れた。

 その様をリリーさんは何の感情も無い冷たい瞳で見つめていて……そしてゆっくりと残りの二人に視線を向ける。


「……で? 仲間はキッチリ昇格出来たというのに、合格ラインだったはずの私に不合格の辛酸を舐めさせた奴らが、何ゆえにCランクを名乗れているのか……ご説明してもらえませんかねええええええええ!!」

「「ヒ、ヒイイイイイイイイイイ!!」」


 どうやら落ち着いたとは言え、未だに気にしていたようだ。

 義侠心とかじゃなくほとんど憂さ晴らしのような感じだろうが、悪いのはCランクを騙ったバカ共、しかも一番見つかってはいけなかった人の前で。

 ゆっくりと、本当にゆっくりと笑顔のまま近付いて行くリリーさんに最早戦意喪失した男二人は抱き合いながら腰を抜かしていた。

 元より俺たちはスピードに特化したパーティーで、遠距離専門のリリーさんだって接近して戦う俺たちと遜色ない脚を持っているし、単純な格闘術では俺は足元にも及ばない。

 せめて試験でリリーさんの実力の一端でも見ていれば反撃しようとか無謀な事は考えなかっただろうに……。

 そんな事を考えていると門番、年の頃は20代前半の青年が俺たちに近寄って来た。

 

「君たち、彼女は君たちのパーティーで良いのかな?」

「あ、はいそうです」


 一瞬注意でもされるのかと思ったが、門番の顔に不審なモノはなく。

 むしろ好意的というか、良くやってくれたみたいな心情が伺える。


「どうやらアイツらについて知っているみたいだね」

「あ~、まあ彼女の発言で大体の事情は察したと思うけど、アイツらは誰一人Cランクじゃね~っスよ? 先日の昇格試験で不合格で文句垂れて、うちのカアちゃんにしばかれてたっスから」

「カアちゃん?」


 うちのカアちゃんの件で青年は首を傾げたが、気を取りなおして話を続ける。


「何にしても助かるよ。ここ最近はあの手の小悪党冒険者のみならず、ガラの悪い奴らの往来が多くてね。門番でも通行を許可するか否かで判断に迷う事が多くて……一々領主様に確認するワケにも行かないし」

「……何か理由でも?」

「あまり地元の領主を悪く言いたくないんだが、この町にいるグレゴリール子爵様が呼び寄せているって話だ。よからぬ企みの為に……」


 そう言えば現在絶賛気絶中のヤツがさっき言ってたっけな『グレゴリール子爵に呼ばれた』とかって。

 その場のハッタリか何かかと思っていたけど。


「元々現当主は温厚な方で、そんな輩と繋がりを持つタイプじゃ無かったんだが……前年度の凶作のせいで資金繰りが悪くなったのか、まるで人が変わったみたいな政策をとるようになってきてなぁ……」

「……ん? 凶作??」


 しかし門番が何気なく口にした一言、単純に今の状況を憂いている善良な兵士の愚痴にしか聞こえない話だったが……妙に引っかかった。


「門番の兄さん、小耳にはさんだがグレゴリールは隣のロコモティと仲が悪いから最近商売の邪魔しているとか何とか…………」

「あ~~その話か……良く言われるけど地元では子爵が凶作の影響で資金繰りに苦労しているのは誰もが知っているからな。そっち系の話も子爵が金に困ってならず者に依頼したんじゃないかって噂はあるんだよ」

「…………?」


 これまでは先祖からの因縁で隣り合う両家は不仲で『虹の羽衣』で商売を発展させ伯爵になったロコモティをやっかんでの犯行、もしくは嫌がらせの類であると聞いて来た。

 いわば成功者の足を引っ張りたい、そんな嫉妬からの感情……しかしここに来て前提が変わると妙な事になる。 

 一見実際に事件が起こっているのだから前提など関係なく思えそうだが、金に困っての犯行と考えるとライシネル大河で船を転覆させた事件が根本的におかしくなる。

 だって仮に俺が非合法な事も織り込み済みで事件を起こすなら、値千金の『虹の羽衣』を大河の藻屑にするワケない。

 キッチリ陸路に誘導して強奪する事を選ぶはずだ。

 ……なんだろう、この気持ちの悪いズレは。

 本当に単なる勘でしか無いのだが、最後に待っているが、クズ侯爵やクソ国王の時と同じような胸糞の悪い予感がするのは……。


「領民の為に動いている子爵様をあんまり悪くも言いたくないんだが、君らもギルドで子爵の依頼があっても警戒した方がいいぞ? 厄介事に巻き込まれるかもしれないからな」


 門番の兄さんは苦笑しつつそんなアドバイスをくれる。

 厄介事か……多分既に巻き込まれているんだろうけど……。


「為になる助言サンキューッス。お~いリリーさ~ん、そろそろ列に戻りなよ」

「は~い、リーダー」


 俺の声に反応してたリリーさんは実に晴れやかな顔で列へと戻ってきたが、しばらく至近距離で彼女の冷気漂う笑顔を見た自称Cランクの連中は……真っ白な灰になっていた。

 …………合掌。



ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。

お手数をおかけしますが面白いと思って頂けたら感想評価何卒宜しくお願い致します。

イイネの方もぜひ!


勢いだけで書いてしまいました(;^ω^)

『パーティーで王子が絶対に言ってはいけない一言』

https://ncode.syosetu.com/n0993ht/

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