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日の丸を胸に

その日、勝と唯はリハビリセンターに戻ってから練習は1時間位しか出来なかったが、2人はとても良い感触を得ていた。唯の動きはこれ迄になく力強く、いきいきとしている感じがして、勝はそれが嬉しくて勝自身の動きも元気に満ち溢れる物になっていた。


その日の夜眠る時間になって、唯は布団の中に入ったが、興奮が覚めやらずなかなか寝付けないでいた。目を瞑ると、史也が自分の前を駆け抜けていった姿がはっきりと蘇ってきて、様々な思いが頭の中を駆け巡った。

2人の目が合った瞬間。史也さんの不敵の笑み。あの時感じた風。物凄いエネルギー。史也さんが身にまとっていた赤いウェアーと胸に輝く日の丸。硬く握られた自分の拳。

日本代表としてジャパンジャージを着て走る史也さんの姿はこれまでも何回も見てきた。自分自身も何回か着た事がある。あの世界選ジュニアの時も着ていた。これまでも勿論このジャージを着て走る事の意味を感じていないわけではなかったけれど、今回はちょっと違って見えた。言葉で言い表すのは難しいのだけど、そこに史也さんの日本代表としての誇りみたいな物を凄く感じたのだ。


毎年行われる自転車の世界選手権は、強い国はオリンピックよりももっと多くの選手を送り込めるし、全体のレベルはオリンピック以上かもしれない。本場ヨーロッパで行われる事が多く、観客も多いだけでなく皆がロードレースの事をよく知っているから選手と観客が一体になれる感じも大きい。

でも、オリンピックにはオリンピックにしか無い何かがある。

自転車に関わる人達だけでなく、世界中のそこに注ぎ込まれる力の数や大きさがそうさせるのかな。毎年行われている世界選手権の事をどれだけの人が知っているだろうか。自転車ファンなら毎年注目するけれど、一般の人は殆ど知らない。オリンピックは違う。しかも日本でやるオリンピック。


あの場面。どれだけ多くの人達がどれだけ大きな応援を史也さんに送っていた事か。自転車競技を初めて観た人も、そんな競技がある事さえ知らない子供達も。応援する人達の力を貰って引き出される選手のパフォーマンス。それを観て感動する人達。その相乗効果。


オレは最後の世界選を終えた時、それまでは自分の力で走っていると思っていた。

大学に入り、あのインカレを走り終えた時、自分の力以外の力が本当に大きな力になる事を初めて感じた。

そしてあの事故で、オレは命を落としてもおかしくなかった、というよりも命を落とす確率の方がずっと高かったのに、沢山の力を頂いて生きのびる事が出来たし、ここまで来る事が出来た。

今のオレにはほんのちっぽけな力しか無いかもしれないけれど、きっと1ヶ月後の会場でも沢山の力を貰って大きな力を出せるはずだ。


それと、以前は自分が好きな自転車だけをやっていく事は、沢山の犠牲を作るだけで周りの人達の何の役にも立てないと思っていた。でも、オレの世界選の走りを観て和也さんや史也さんが何かを感じてくれていた事を知った。オレのインカレの走りを観た翔吾が何かを感じでくれていた事を知った。

オレが史也さんから感じた何か。初めて観た全日本、テレビの中のツール・ド・フランス、怪我からの復活、そして今日のレース。

史也さんだからこそ、多くの人達に与える事が出来る何か。

オレだからこそ、多くの人達に与える事が出来る何か。

オレは今、運良くそんなチャンスを与えて貰えている。

ロードレースでは着られなかったけれど、車いすラグビーでジャパンジャージを着て東京を走れる事に誇りを持ちたい。

日本の為にとか、誰かの為にとは思わないけれど、自分自身の今出来る最高をプレーで表現したい。全力で車いすラグビー、パラリンピックを楽しんで、元気や勇気、そんなものを多くの人達に与える事が出来たらいいなって思っている。


そんな事を考えながら、唯は目が冴えて殆ど眠る事が出来なかったが、翌朝は意外とスッキリとした目覚めだった。

自分の出番まであと1ヶ月。

送られてきているユニフォームに袖を通してみた。

赤いウェアーの胸には日の丸が輝いている。

唯は自分の右手の拳を軽く握って日の丸の上に重ねた。

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