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嬉しい訪問

嬉しい手紙を受け取った3日後、

唯はいつものようにリハビリを終え、事務所の前を通り過ぎようとした時にまた呼び止められた。「風谷君、面会の方が食堂でお待ちになってますよ。」と。

「面会なんて珍しいな。誰だろ?」と思いながら唯は食堂に向かった。


会った事のない小学校3〜4年生位の男の子とそのお母さんらしき人が座っていた。唯に気づいた2人はその場に立つと深々と頭を下げた。

「はじめまして。」とお母さんらしき人が挨拶をした。

「こんにちは。ぼく、唯さんのファンなんです。今日は唯さんに会いに来ました。お話する時間ありますか?」と小学生が言った。

「突然すみません。お忙しいでしょ?この後の予定は?」

とお母さんらしき人が聞いてきた。


唯はこんな事は初めてだったのでちょっとあたふたとしながら言った。

「え?あー、予定あるっていえばあるけど、別にどうにでもなるし、大丈夫ですよ。

まあ、座って下さい。」

「君何年生?名前何ての?」と続けた。

「翔吾。木原翔吾。小学校4年生。」

「ぼく、唯さんがここでラグビー頑張ってて、パラリンピックに出るって新聞に書いてあったの見て、応援に来ました。」

唯が何かを言おうとしたけれど、その前に立て続けに翔吾が喋ってきた。

「ぼく、ロードレースやってます。唯さんに憧れて始めました。

凄かったな〜、あのインカレ。

ぼく、落車見てたんです。唯さんがすぐに立ち上がって前を追いかけて。

あの時、急に強い風が吹いてオレの、あっ、ぼくの帽子が飛ばされて・・・」

唯は笑った。

「オレでいいよ。そっか、見ててくれてたんだ。嬉しいな。で?」


翔吾は興奮しながら続けた。

「オレ、びっくりした。あんなの初めて見たし、あんな風も初めて感じた。カッケー!って思った。

オレもやってみたいって、オレもやるんだって思った。」


唯の顔がほころんだ。

「そっか。嬉しいな。オレは中学1年の時に初めてロードレース見て、史也さんの走りに衝撃を受けたんだ。カッケー!って。あの時やっぱり熱い風を感じたんだ。

それでオレはロード選手になったんだ。」

「へー、おんなじなんだ」と翔吾。


唯「史也さんの事は知ってるだろ?」

翔吾「うん。」

唯「オリンピック走る事も?」

翔吾「うん。勿論応援してる。」

唯「凄いよな、史也さん。おっきな怪我乗り越えて。」

翔吾「うん。唯さんも凄いよ。」

唯「え?」

翔吾「だって、もっと凄い怪我したのにパラリンピック出るんだろ?」

いつの間にかタメ口だ。

翔吾「オレ、ラグビーの観戦チケット持ってるから、観にいくよ。

あの時みたいな唯さんを見れるの、楽しみで楽しみで。」

唯「そっか。あの時みたいには今は出来ないけど頑張るよ。」


翔吾の顔が急に変わった。

「出来ないなんて言うなよ!オレの知ってる唯はそんな事言わないぞ!」と立ち上がった。

唯は呆気にとられていた。


少し間をおいて

「ごめんなさい。」と翔吾が小さな声で言った。

唯は小さく首を振って

「ありがとな。」と言った。

翔吾が言った。

「応援してます。握手して下さい。」と。

唯が右手を差し出した。翔吾がそこに手を合わせた。唯の握る手の力が小さい事に翔吾の胸は痛んだが、力強く握り返した。

「オレのパワー貰って下さい。応援してます。今日はありがとうございました。」

と丁寧に頭を下げた。

お母さんも一緒に頭を下げた。


別れ際に唯が言った。

「今日はありがとうございました。

翔吾、見ててくれよ。オレ、やってやるから。

翔吾もロード頑張れよ。

オレに負けるなよ。」と。

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